2021年から堀込高樹のソロプロジェクトに生まれ変わり、新章へ突入したKIRINJI。去る12月には新生KIRINJIとして初のアルバム『crepuscular』を発表し、コロナ禍を背景にしたこれまでになく内省的でリアルな歌詞と緻密なサウンドプロダクションが称賛を浴びたことは記憶に新しい。そんななかKIRINJIが、早くも2022年初のシングル“Rainy Runway”をリリース。長く続く自粛生活から開放されつつある現在を見つめて〈外に出て、新たな一歩を踏み出そう〉と歌う、聴き手を勇気づけるポジティブなポップナンバーだ。共同アレンジャーとして参加したsugarbeansによるホーンの温かな響き、生楽器を中心にしたアンサンブルが新しい季節の到来を告げるこの曲は、いかにして生まれたのか? 歩みを止めないハードワーキンな堀込高樹の働きぶりやその作曲論に、松永良平(リズム&ペンシル)が迫った。 *Mikiki編集部
昔のキリンジではなく今のKIRINJIのグルーヴを
──アルバム『crepuscular』から約半年のスパンでニューシングル“Rainy Runway”がリリースされるとは、ちょっと驚きました。
「年内に2曲くらいはシングルをリリースできたらいいなと念頭に置いていて、この曲がまずできました。ここから(次の)アルバムにつながる曲ではありますが、まずはそんなに方向性を定めず、どう転んでもOKという感じがいいかなと思って制作しました」
──新曲には、去年の“再会”を思わせるグルーヴのあるナンバーですが、より前向きな言葉が選ばれているなとも感じました。〈Runway〉というワードもすごく印象的でもあります。ファッションショーのランウェイって基本的には1人で歩く場でもあるので、いろいろ状況は明るくなってると思えるけど、〈1人の時間〉というのもまだ意識されてるんじゃないかと。
「そこまでは考えてなかったですね。コロナはもうさほど念頭になくて、6月リリースなので、〈雨の日でも気持ちよく歩いたら気分も上がるんじゃない?〉くらいのことです。〈恵みの雨〉的なことじゃなく、雨とか災難とか、そういう厄介なものに対してどういう心構えで向き合っていったらいいか、みたいなことをテーマにしようと」
──ホーンセクションはsugarbeansさんとの共同アレンジで、かなりしっかりとバンドサウンドでのレコーディングですね。
「今回はバンドがあって、ホーンがあって、その背景にシンセがときどき鳴っています。昔も生演奏+シーケンサーというアレンジはあったのですが、シンセがもうちょっと前にフィーチャーされる感じだった。今回はシンセはちょっと奥に引っ込んで、ドラムの感じもふかふかしていて、よりオーセンティックな生演奏。だけど、それをどうやって今の音楽として聴けるようにするか、そこにちょっと苦労はしました」
──そこの苦労を具体的に聞きたいです。
「今回は70年代のアル・グリーンとかシュギー・オーティスとかのドラムやリズムボックスの音をイメージしていたのですが、最初に上がってきたミックスはローがすごく強い感じで、それだとグルーヴが立ってこなかった。〈昔のキリンジじゃない、これ?〉みたいな印象があったんです(笑)」
──昔のキリンジ……。
「今のKIRINJIは、ゆったりしているけどぐいぐいグルーヴがあってダンサブルで、自然とテンションが上がっていく感じにしたい。聴いた後に〈メロウな曲だったな〉じゃなくて〈ダンサブルな曲だったな〉という印象を残したくて、そこでいろいろエンジニアの柏井(日向)さんとトライしました。今のトップ100の流れのなかで痩せて聴こえず、周りの曲に負けないサウンドのボリューム感を持たせて、自分の個性を出すにはどうしたらいいか、みたいなことです」