4年の沈黙期間に溜め込んだ怒りや悲しみが、一気に噴き出し、暴走しはじめる。サディスティックなほど獰猛なこの音に許しを乞うか、それとも!?
前作『Crystal Castles(III)』(2012年)のリリース前後から、それまではイーサン・キャスがひとりで担当してきたライヴ中盤のDJセットに、ヴォーカルのアリス・グラスも加わるようになった。いま思えばそれは、彼女のアーティストとしての自我の表れだったのかもしれない……。2014年にアリスがソロ活動を始めるために脱退し、一時はバンド終焉の噂も流れたクリスタル・キャッスルズ。このたび新体制でのニュー・アルバム『Amnesty(I)』が完成した。

前作のツアー終了後、アリスの休暇を理由にグループは一旦活動を休止。イーサンは彼女の帰りを待ちつつ、新作用の楽曲を作り続けていたという。ところが、先ほども書いた通りアリスは突然Facebook上で脱退を発表。メンバー間での話し合いは行なわれず、イーサンがひとり残される形となった。2000年代後半に台頭したエレクトロ勢のなかでも屈指のアイコンであるアリスの離脱は、クリスタル・キャッスルズから〈顔〉を剥ぎ取るようなもの。初期の彼らは意図的にアーティスト写真で顔を隠していたものの、今回は話が違う。そこでイーサンは同じトロントを拠点とするエディス・フランシズに声をかけた。もともとモデル業を行なっていた彼女は、生粋のパンク・ガールであり、アリスに勝るとも劣らない凶暴なシャウトをこなす一方、気怠くアンニュイな歌唱も得意とする人物だ。
クリスタル・キャッスルズと言うと、2008年のファースト・アルバム『Crystal Castles』ではメタリックかつエクスペリメンタルなエレクトロ・サウンドを披露し、2010年の2作目『Crystal Castles(II)』では4つ打ちのレイヴ・ミュージックに接近。3作目『Crystal Castles(III)』ではよりダークな音楽性でセーラムやバラム・アカブを筆頭にした当時のウィッチ・ハウス・ムーヴメントとのリンクも感じさせるなど、作品ごとに音楽性を変えてきた。また、イエメン紛争で負傷した息子を抱える母親の写真を使った前作のアートワークが象徴する通り、アルバムのテーマもシリアスな方向へと進んでいくことに。そして、自分たちのユニット名に数字を振っただけのタイトルから一転。〈大赦(罪人を許して釈放すること)〉を意味する〈Amnesty〉と名付けられた今作は、エディスの歌声を活かしながら、過去に培ってきたグループの持ち味と新たな要素とを見事に融合させている。
逆再生を使った不気味なゴスペル調“Femen”、凶暴なノイズが割り込む“Fleece”、まるで誰かが襲われているかの如き不穏なスキット“Teach Her How To Hunt”、デジタル・ハードコアの王道を行く“Frail”や“Concrete”、得意のヴォーカル・エディットが顔を出す“Kept”、そして作品を締める鎮魂歌のような“Their Kindness Is Charade”――。少女たちが写った不気味なジャケットも含め、このアルバムでは現代社会の膿をえぐり出しながら、インダストリアル的な方法論とも異なる、耽美かつ巨大な恐怖/危うさを全編に渡って表現。その様子は時にグロテスクとすら感じるほどである。
『Amnesty(I)』は〈エレクトロの要素を纏ったセックス・ピストルズ〉、もしくは〈デジタル・レイヴ世代のスーサイド〉などと形容されてきたこのバンドによる、ますます暗く刺激的な第2章の始まり。ポップで明るい音楽も良いけれど、やっぱり聴き手を震えさせるような、底なしの闇を感じたい。そんなあなたはぜひ、新生クリスタル・キャッスルズのパンキッシュな漆黒サウンドをお試しあれ。
『Amnesty(I)』と共に光の閉ざされた世界を包む、2016年の冷ややかな舞踏音楽。夜明けはまだ遠い……

ポーティスヘッドのジェフに見い出されたミステリアスなシンガー、アニカの新プロジェクトはメキシコを拠点とするプロデューサーたちとのセッションから誕生。感情を押し殺したような冷たい歌声と、ノイズやドローンが戯れるダークウェイヴ趣味たっぷりのサウンドは、何とも形容し難い禍々しさで溢れている。

活動停止も突然ならば、復帰も突然だったヒップホップ・トリオ。この新作ではハードコアからノイズ、フットワークなどをエクスペリメンタルに吐き出し、変わらぬ無軌道ぶりを見せているが、不思議と統一感があってアルバムとしての完成度は高し。クリキャスも真っ青なテンションの高さは狂気そのものだ。

極太のベースラインを執拗に這わせ、ドラムンベース・サイドからゴスへのアプローチを試みるニューロファンク・デュオ。あどけなさを垣間見せる女性ヴォーカルやアンビエンスを湛えたシンセ、ダークながらもキャッチーなメロディーで独特の世界観を構築するところなど、クリキャスとの共通点は多い。

60年代風のサイケデリック・ロックをシューゲイザーやゴス味で包み、暗く重たいトーンでプレイするロンドン出身の6人組が放った2作目。腰の据わったキティ嬢のヴォーカルが、このバンドのシアトリカルな魅力をいっそう引き立てている。見世物小屋とかで観たくなる妖しげな空気感もたまらなく良い。

近年の暗黒サウンド人気を支えるトライ・アングルから発表したドローン盤で、世界を震撼させたハクサン・クローク。彼を指揮官に迎え、元ウー・ライフのエラリーが恋人と再始動したことも2016年の大きなニュースだ。DHR風のデジタル・ビートは、『Amnesty(I)』収録の“Frail”と並べて聴きたい壮絶さ。

地下テクノ界で一目置かれているプロデュース・チーム、モダンヘッズの片割れによるソロ作は、バレアリックとインダストリアルを融合させた漆黒の瞑想盤。『Amnesty(I)』のアンビエント・タッチな楽曲を、より深い地点まで運んだような音はあまりにもドープで、気持ち良さと裏腹に危険な香りも漂い……。