善と悪、光と闇、美と醜――相反するものが無秩序に共存した音世界。 それは時として尋常じゃなく攻撃的に、そして官能的にリスナーを刺激して
前作『London Zoo』以来、6年ぶりのニュー・アルバム『Angels & Devils』をリリースしたバグことケヴィン・マーティン。6年も経てば人間ひとつやふたつどこかしら変わるのが普通だが、ケヴィンの身辺にもちょっとした変化が起こっていた。
「1年前にロンドンを離れ、ベルリンに移住したんだ。ガールフレンドが日本人で、彼女の滞在ビザが更新できなくなったのがきっかけだった。現在のイギリス首相は右翼の人種差別主義者で、外国人に手荒い。ヒドイ話さ。だから23年間住み続けた俺も、ロンドンには愛想を尽かしたよ。長らく住んでいたポプラーという地区は治安が悪くてギャング抗争も絶えない。〈生活する〉というより〈生き延びる〉って感じで最悪だった」。
THE BUG 『Angels & Devils』 Ninja Tune/BEAT(2014)
収録曲はロンドン在住時に着手したものがほとんどで、ベルリンに住んでからは数曲しか作られていない。だが、新天地での影響が全体を支配しつつあることも感じ取りながらの制作だったと語る。
「ベルリンという街は、ロンドンがまだ輝いていた時代の空気をそのまま残している。強力なオルタナティヴ・カルチャーがあるし、住人は政治に対して高い意識を持っているよ。そういう部分がそこはかとなく作品に反映されているだろうね」。
『London Zoo』のひとつ前、2003年の2作目『Pressure』から続く3部作の完結編として本作は取り組まれた。表題〈Angels & Devils〉がそれとなく匂わすように、アルバムには二律背反の世界がケヴィン流に描かれている。人間の二面性が映し出されていることも何となく伝わってくるが、これも前作からの延長上にあるものだそうだ。
「ここでやったことは、『London Zoo』で得たパラメーターをさらに両方向へ広げる作業。結果的に前作よりも二極化した内容になった。そもそも俺は〈極端なもの〉が〈繋がる〉という現象に興味がある。愛情が憎しみに変わったり、天使が悪魔に、悪魔が天使に姿を変える瞬間だったり、と。人生そのものがカオスだからね」。
ゲストに起用されたのはフロウダンやマンガといったグライム系のMCに、ウォーリアー・クイーンなどお馴染みのメンツから、ワープ所属のゴンジャスフィ、アヴァン・フォーク・シンガーのリズ・ハリス(グルーパー)といった新顔まで。なかでも先日、解散を表明したばかりのデス・グリップスが客演しているのは大きな目玉だろう。
「彼らの最初のPVが公開された時、凄く感銘を受けたんだよ。同時に俺がやっていたテクノ・アニマルを思い出した。前衛的すぎてプロジェクトは活動を休止しているんだけど、デス・グリップスがその意志を受け継いでいるように思えたんだ」。
皮肉ながらその継承者も解散してしまったわけだが、テクノ・アニマルにしろ、デス・グリップスにしろ、急進的であるがゆえに刹那的な運命を背負わされるのだろうか。
「俺は反社会的な人間だからね(苦笑)。どのプロジェクトでも、常に摩擦を引き起こすような音楽を作ってきた。ライヴをやるにしたって、みんなに受け入れられる生易しいものより、激しい感情を引き起こすようなステージを観せたいと思っている」。
9月19日にアクチュアルとの来日公演を控えているバグ。そこではどんなハプニングを巻き起こしてくれるのか、以下の発言通りということになりそうだ。
「騒々しくて挑戦的で、超サイケデリックなショウを期待してくれ!」。
▼関連作品
左から、バグの2008年作『London Zoo』(Ninja Tune)、キング・ミダス・サウンドの2009年作『Waiting For You...』、2011年リリースの同リミックス盤『Without You』、2014年にリリースされたフロウダンの12インチEP『Serious Business EP』(すべてHyperdub)、ゴンジャスフィの2012年作『Mu.Zz.Le』(Warp)
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