空中に浮かぶ初音ミクが、人間のダンサーとバレエを踊る!?
追悼公演は、初のオフィシャル・リミックス解禁も!
冨田勲はリミックスの達人である。
リミックスとは、既存の楽曲の音源のミキシングを大胆に変化させることで作品を作り変えてしまう、クラブ・ミュージックの世界ではよく知られた手法である。
冨田がシンセサイザーを駆使して作り上げた、『月の光』や『惑星』などの一連の名盤は、ドビュッシーやホルストのスコアをシンセサイザーの幻想的な音色によって再構成したものだ。もちろんこれは、文字通りのリミックスではない。しかし、既存の作品から全く新しい世界観を引き出すアイデアは「リミックス」と呼ぶにふさわしいだろう。
リミックスは、着せ替え人形の衣装を変えるような、単なる「派生品」に終わることも少なくない。しかし、冨田の一連の「リミックスもの」には、原曲の作曲者が誰かを忘れそうになるほどに、冨田のオリジナリティが詰まっている。原作曲者と冨田の音楽性が化学反応を起こした、全く新しい作品の創造であると言えるだろう。
さて、11月に演奏される『ドクター・コッペリウス』は、晩年の冨田がずっと舞台化を切望していた作品だ。驚くべきことに彼は、亡くなる1時間前まで(鰻を食べながら!)この作品の打ち合わせをしていた。その内容は、作品のプロットの詳細や音楽機材の使用法など、テクニカルな問題についての具体的なもので、そこに死の陰は全く感じられない。
ともかく、スコアは未完成に終わった。作品の大部分に関しては、オーケストラのシミュレーション音源で表現したサウンドデータが残されており、冨田が全幅の信頼を置いていたスタッフが、それを採譜、スコア化する作業を行っている。さらに、生前の冨田がシンセサイザーで作り出したSEも、作品のあちこちに顔を出すとのことだ。モーツァルト『レクイエム』やマーラー『交響曲第10番』など、未完の遺作を補筆完成させた作品には、生者と死者の思いが交錯する独特な味わいがある。このような製作方法はいわば、未完成のパズルを素材とした「リミックス」である。これはまさに冨田らしい、後世への「宿題」と言えるだろう。
「スペース・バレエ・シンフォニー」と銘打たれた『ドクター・コッペリウス』の主人公はコッペリウスと初音ミクの二人である。2012年に発表され、本公演でも再演される『イーハトーヴ交響曲』では、3Dで投影された初音ミクと生オーケストラの共演が話題となった。「コッペリウス」ではさらに一歩進み、仮想世界の存在である初音ミクが、コッペリウス役を演じる生身のダンサー(風間無限)とバレエを踊るという、驚きのシーンが用意されている。現実と虚構の境目を取り払おうとするこの演出によって、死の世界への扉が開き、彼の世の存在であるはずの冨田勲の思念がステージに具現化するという、儀式めいた想像をするのは考えすぎであろうか?
この作品にはさらに、小惑星イトカワも登場する。冨田ファンならご存知の通り、『惑星』のリメイク版で追加された新作楽曲『イトカワとはやぶさ』を踏まえたものである。前述の初音ミク再登板も含め、本作には、冨田勲の愛したモチーフ(題材)が様々な場面にちりばめられている。これも、一種のリミックスであると解釈できるであろう。
そして、本公演のスペシャル・ゲストとして来日するエイドリアン・シャーウッドが、『惑星』のリアルタイム・ダブミックスに挑戦することも見逃せない。ホルストの『惑星』のリミックス版といえる、冨田の『惑星』をさらに、シャーウッドがリミックスするという多重リミックス企画、そのスピリットは「冨田流」と言って良いだろう。
生前の冨田は一切のリミックスを許可しなかったというが、今回は遺族の意向も踏まえ、初のオフィシャル・リミックス解禁となる。結果オーライとなれば、天国の冨田も面白がってくれるはずだ。
様々な仕掛け満載の本公演は、単に故人を偲ぶ追悼公演にとどまらない、未来志向のエキサイティングなステージとなるに違いない。
LIVE INFORMATION
冨田勲 追悼特別公演
冨田勲×初音ミク
スペース・バレエ・シンフォニー「コッペリウス」
○11/11(金)18:00開場/19:00開演
○11/12(土)12:30開場/13:30開演
○11/12(土)17:00開場/18:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
曲目 :
イーハトーヴ交響曲
オーケストラ+合唱+初音ミク
「惑星 Planets Live dub Mix」
Dub Mix:エイドリアン・シャーウッド
スペース・バレエ・シンフォニー「ドクター・コッペリウス」
オーケストラ+合唱+初音ミク+バレエ+サラウンド・システム&冨田オリジナル・エレクトロニック・サウンド
www.dr-coppelius.com/