NYのストリートで生きる少女の実体験に基づいて破滅的な恋を描き出し、〈第27回東京国際映画祭〉でグランプリと最優秀監督賞をダブル受賞した「神様なんかくそくらえ」が、12月26日(土)より新宿シネマカリテほか、全国で順次公開される。監督を務めたのは、新鋭のジョシュア&ベニー・サフディ兄弟。マイノリティーの世界に光を当てた青春映画は、ハーモニー・コリンやグザヴィエ・ドラン作品にも通じる鮮烈な魅力を放っている。
さらに、ジョシュア・サフディ監督も「この映画は僕にとって、とてもロマンティックな物語なので、ロマンティックな音楽(を使うの)がいいと思った」と語る通り、劇中で流れる音楽もダークで切ない世界観の演出に大きく貢献。冨田勲を筆頭に実験的なシンセ・サウンドが多く用いられ、エンディング曲をUSインディーの異端児アリエル・ピンクが手掛けるなど、音楽ファンにとってもトピックが目白押しだ。そこでMikikiでは音楽ライターの清水祐也氏に、ジョシュア・サフディ監督への〈劇中曲にまつわる〉インタヴューを交えつつ映画の見どころを紹介してもらった。 *Mikiki編集部
ほんの数年前までホームレスだった女の子、アリエル・ホームズの手記を本人の主演で映画化したのが「神様なんかくそくらえ」だ。マンハッタンの路上で暮らすアリエル演じるハーリーは、ホームレス仲間の青年イリヤへの愛を証明するため、カミソリで手首を切って病院に運ばれる。思わず目を背けたくなるような、衝撃的なオープニング。しかし心配する友人スカリー(演じているのはラッパーのネクロ)の忠告も聞かず、彼女は生活のためにドラッグの売人・マイクと行動を共にし、イリヤとの破滅的な関係に溺れていく。
ハーリーを精神的に追いつめ、支配する青年イリヤを演じているのは、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」で注目された新鋭、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。そのクズっぷりには不快感を煽られるが、不思議なカリスマ性があり、どこか憐れで同情を誘う、映画史上に残る強烈なアンチヒーローとなっている(彼がカミソリで作った手裏剣を投げる頃には、怒りを通り越してすっかりファンになってしまった)。
本作の劇場公開版のエンディングには、映画祭で上映された際には入っていなかったテーマ曲が追加されているが、その“I Need A Minute”を書き下ろしたのは、偶然にもホームズと同じ名前を持つミュージシャンのアリエル・ピンク。劇中にもカメオ出演を果たしているが、イリヤ役はもともと、彼が演じる予定だったという。先日来日を果たした本作の監督、ジョシュア・サフディはこう語る。
「2013年のクリスマスの数日後、僕たちはアリエル・ピンクと撮影をした。彼はとてもフォトジェニックだけど、イリヤではなかった。僕たちには、イリヤに姿を変えて、すべてを捧げてくれる人が必要だった。アリエル・ピンクは、イリヤを演じるには少し歳を取りすぎていたね。奇妙なことに、彼が普段持っている感情のヴァイブは、彼のスクリーンでの存在感よりも遥かにイリヤだったよ」
「ケイレブのことは、キャスティング・ディレクターのジェニファー・ヴェンデッティが勧めてくれたんだ。彼女は、ケイレブは取り憑かれたように役に没入することで有名だと言った。僕たちはまず電話で彼と話したんだけど、すぐにイリヤ役には彼しかいないと確信したよ。アリエル・ピンクと僕は共通の友人を介して数年前に出会った。音楽や映画の趣味が合って、興味深い友情を築いていったんだ。アリエル・ピンクは、アリエル・ホームズが心に秘める〈ロマンス〉について完全に理解していた。2人もとても気が合うように見えたよ」
実際に先日公開された“I Need A Minute”のミュージック・ビデオでは、NYの200以上の公衆トイレの写真のコラージュと、まるで恋人同士のように寄り添うアリエル・ピンクとアリエル・ホームズの姿を見ることができる。ちなみに昨年リリースされたアリエル・ピンクのアルバム『Pom Pom』の日本盤ボーナス・トラックには、本作の原題と同じ“Heaven Knows What”なるインスト曲が収録されていたのだが、劇中では使用されず、ドビュッシーのクラシックを再解釈した冨田勲の全米デビュー・アルバム『月の光』(74年)からの曲や、初期のタンジェリン・ドリーム、ジェイムズ・ダショウといったシンセサイザー・ミュージックが印象的に使われている。
「アリエル・ピンクはこの映画におよそ2時間分もの楽曲を提供してくれた。最終的には少ししか使わなかったんだけどね。僕たちは冨田勲の音楽にあまりにも魅了されてしまったし、アリエル・ピンクも冨田の音楽を使うよう勧めてくれたんだ。冨田勲はドビュッシーの音楽を非常に魅力的に再解釈している。僕たちの映画が考える〈ロマンス〉と同じ精神が彼の音楽には流れている。『月の光』は驚くほどに感動的で、不気味なくらいに美しい。まるで火星の恋みたいだし、そう、まさしく『神様なんかくそくらえ』の恋みたいなんだ」
劇中で図書館にやってきたハーリーがYouTubeで聴いているのは、ノルウェーのブラック・メタル・バンド、バーズムの“Dunkelheit”。この曲が収録されたアルバム『Filosofem』(邦題〈絶望論〉)のリリース後、中心人物のヴァルグ・ヴィーケネスは殺人、放火の罪で収監され、獄中でシンセサイザーによるアンビエント・アルバムを録音しているというのも、ハーリーとイリヤの行く末を思うと何やら示唆的だ。
そんなジョシュア・サフディ監督に、普段聴いている音楽を教えてもらった。
「気分に拠るね。僕の音楽の好みは、スティーヴ・ヒレッジからプログレッシヴ・ロック、ハード・スタイルなエレクトロ・ミュージック、そしてウータン・クランからボブ・ディラン、マリア・カラスにまで至るんだ」
ハーリーからイリヤへの、そして監督から音楽への狂気じみた愛が迸る「神様なんかくそくらえ」。映画ファンのみならず、音楽ファンも必見だ。
映画「神様なんかくそくらえ」
監督・脚本・編集:ジョシュア・サフディ/ベニー・サフディ
原案:アリエル・ホームズ
出演:アリエル・ホームズ/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/バディ・デュレス/ロン・ブラウンスタインa.k.a. Necro
音楽:冨田勲/アリエル・ピンク/タンジェリン・ドリーム/ヘッドハンターズ
配給・宣伝:トランスフォーマー (2014年/アメリカ、フランス/英語/97分/R15)
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◎12月26日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
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