シンセサイザー音楽以前、アーリーTOMITAの世界

 1974年にモーグ・シンセサイザーを駆使し、ドビュッシーの名曲を取り上げた画期的なアルバム『月の光』を発表し、日本人として初のグラミー・ノミネートとなり、瞬く間にシンセサイザー奏者の第一人者となった冨田勲。以降、シンセサイザー・アーティストとしての活躍と冒険は生涯続き、ヴァーチャル・シンガー初音ミクとのコラボレーション、壮大なスペース・バレエ・シンフォニー『ドクター・コッペリウス』を生み出すに至った。

冨田勲 MISSING LINK of TOMITA ~冨田勲 日本コロムビア初期作品集 1953-1974~ Columbia(2018)

 本作はタイトルで分かる通り、“シンセ・アーティスト”以前の冨田勲の作品に焦点をあてたもの。これらはアニメでは『ジャングル大帝』『リボンの騎士』などの手塚治虫作品、特撮ものでは『キャプテン・ウルトラ』『マイティ・ジャック』などの音楽が誕生する以前の“作曲家・冨田勲”の原点を伺い知る貴重なものだ。一番古いものはまだ小学生だった安田祥子とひばり児童合唱団が歌う童謡《愉快な町の風船や》他冨田勲が慶応大学在学中に関わっていた仕事から、その後のコロムビア専属作曲家としてのラジオ番組用のオケ作品、学芸用の小中学校用のダンス用音楽、NHKドラマ主題歌、そして1974年のモーグ・シンセサイザーとオケによる幻の創作ダンス音楽など、バラエティに富む。それらの楽曲を聴いていると、その後のNHK大河ドラマ、『新日本紀行』のテーマやアニメの有名曲などにつながるオーケストレーションの片鱗が随所に伺えて非常に興味深い。400曲以上におよぶ冨田音楽のルーツとなった楽曲群から、冨田音楽研究の権威である鈴木宣孝氏によって企画・構成されており、数々のシンセサイザー音楽で冨田勲を知った音楽ファンには冨田音楽の黎明期を知るアーカイヴ音源であり、高度経済成長期の空気が生み出した日本のメロディ、サウンドが詰まった昭和の音楽集にもなっている。冨田勲の音楽家としての非凡な才能をあたらめて実感できる、ズシッと重みのある作品集だ。