多数の音楽家たちが参加し、曼荼羅のごとき音楽が展開されるフライング・ロータスのニュー・アルバム『Flamagra』。本作から浮かび上がるのは、日本のカルチャーとの関係性だ。ブレインフィーダーと日本の繋がりを伝えた記事を参照するまでもなく、彼の日本好きは周知の事実。しかし、彼の創造性との関係は? いまだしっかりと検証されていないポイントを、新作を機にライター・imdkmが紐解いた。
奇しくも6月14日(金)から始まる監督映画「KUSO」の再上映、さらに2018年に続く来日公演〈FLYING LOTUS in 3D〉が9月26日(木)に開催されることが決まったばかり。話題に事欠かないフライング・ロータスの音楽に、日本のカルチャーという側面から切り込んだ本稿をぜひお楽しみいただければと思う。 *Mikiki編集部
日本のカルチャーを直接参照した新作『Flamagra』
5月24日に最新アルバム『Flamagra』をリリースしたスティーヴン・エリソンことフライング・ロータス。この2019年上半期きっての話題盤は、彼のコンポーザーとしての成長を反映しつつ元来の作家性を発揮した充実の一作だ。
彼がもともと日本のカルチャーをこよなく愛してきたことはよく知られている。とはいえ、1曲目の“Heroes”では「ドラゴンボール超」(2015~2018年)からのサンプリングが登場するし、チームラボの工藤岳に捧げられた“Takashi”があるかと思えば、同曲にはトーク・ボックス奏者のオノシュンスケが参加。アートワークには気鋭のデザイナー、GUCCIMAZEによるフォントがフィーチャー。さらに“More”のミュージック・ビデオにはかねてからフライング・ロータスがファンを公言し、既にコラボレーションの経験もあるアニメ監督の渡辺信一郎が起用され……という具合に、日本への直接的な参照が目立つ。この機会に、彼にとって日本のカルチャーがどういった意味を持つのか振り返ってみよう。
フライング・ロータスと日本の音楽
フライング・ロータスの初期の代表曲“1983”(2006年)は荘厳かつスペイシーなシンセサイザーで幕をあげる。冨田勲『月の光』(74年)より、「沈める寺院」をサンプリングしたものだ。冨田はフライング・ロータスの他の楽曲でも使用されている定番ネタとなっている。
冨田以外に特筆すべきは坂本龍一だろう。フライング・ロータスがプロデュースしたサンダーキャットの“A Message For Austin / Praise The Lord / Enter The Void”(2013年)は、冒頭から坂本の“El Mar Mediterrani”(96年)のモロ遣いだ。『Flamagra』日本盤の公式インタヴューでも、坂本からの影響の大きさと愛を語っている。
ちなみにオノシュンスケのことはSpotifyで坂本慎太郎“ディスコって”のカヴァーをサジェストされて知ったとのこと。アルゴリズムによってこうした出会いが生まれる現代的な状況が、フライング・ロータスと日本との結びつきを更新していることがわかる。