良い音楽をやるためにみずから選び取った環境の変化を経て、ブレのない歩みを続ける4人。ここで出会った孤独に歌う鯨たちの行く末に見えてくるものは、果たして――

結論は出ないまま

 それでも世界が続くならがセカンド・ミニ・アルバム『52Hzの鯨』を完成させた。メンバー主体の活動スタイルへ移行し、さらに現在のレーベルに移籍して初となる本作は、「もっと良い音楽がやりたい、その一点です」という篠塚将行(ヴォーカル/ギター)の発言通り、研ぎ澄まされた意識のもとで制作されたという。

それでも世界が続くなら 『52Hzの鯨』 ROCKBELL(2016)

 「僕らの場合、実際に変われなかったとしても、〈変わりたい〉という気持ちは常々持っていると思うんですよ。活動状況の変化もそこからですね。いつも〈いまが最高〉って思えるようなタイプの人間だったらいいんでしょうけど、僕らは何をやっても、どんなものを作っても〈まだ足りない。このままじゃダメだ〉という強迫観念みたいなものが出てくるので。今回のミニ・アルバムの制作に関しても、〈とにかく音楽がやりたい。いま自分が持っているものを全部出す〉という気持ちだけでした」(篠塚)。

 マーチング風のリズムから始まり〈どうして/真面目に生きててもひとつもいいことがないの〉と語り掛けるミディアム・ナンバー“弱者の行進”、ポップな明るさを持ったメロディーと共に、どんなに汚れても〈生きていたい〉と切望する人間の在り方を描いた先行シングル“狐と葡萄”。篠塚の人生観、人間観と直結した楽曲はさらに凄みを増し、聴き手の心を鋭利に切り付けるようなパワーを備えている。その根底にあるのは、〈人は全員、一様に孤独である〉というどうしようもない事実。それを端的に示しているのが『52Hzの鯨』(他の個体が聴き取ることのできない52ヘルツの周波数で歌う、世界でもっとも孤独と言われている鯨)というタイトルだ。

 「〈52Hzの鯨〉の話を聞いたとき、僕は〈意外とよくあることじゃないかな〉と思ったんですよね。だって本当の意味では、僕ら人間だって、ちゃんと聞こえてますか? お互いの本当の声が。聞こえてる気になったり、わかった気になる瞬間はあるけど、本当に理解し合えることは難しいと僕は思っていて。自分の気持ちを伝えることだけが音楽の目的になってしまったら、音楽をやる意味なんてないだろうし……。実際、今回のアルバムの制作でも〈音楽なんて意味ないんじゃないか〉って考えちゃったんですよ。これは僕の悪いクセですけど、〈こんなこと意味ないから、やめようかな〉と。本当は意味なんてなくても、誰にも聴かれなくて〈あの人は孤独だな。かわいそうだな〉と思われても、好きだから音楽をやる、好きだから歌うっていう生き方がしたいんですけどね。そういう意味では、今回のアルバムは過渡期なんだと思います。どの曲も結論が出ないまま終わっているし……まあ、結論なんて死ぬまで出ないでしょうけど」(篠塚)。

 人間の醜さ、矛盾、痛みから目を逸らさず、決して安易な応援ソングにも逃げない篠塚の歌はしかし、聴き終わった後には不思議な明るさをリスナーに与えてくれる。今作の最後に収録されている“死なない僕への手紙”もまた、絶望の先にあるはずのわずかな希望を感じさせる楽曲と言えるだろう。

 「以前Twitterを通して、ある女の子から〈それでも世界が続くならの音楽を聴いて、死ぬのをやめました〉と言われたことがあって。自分たちの音楽が誰かの人生を変えたことに衝撃を受けたんですけど、しばらく経って、同じ子から〈いまは元気になって、超楽しいです〉というリプライがきたんです。そのとき思ったんですよね。〈以前の彼女は死にたかったんじゃなくて、上手く生きられないのがイヤだったんだ。本当は誰よりも生きていたかったんだな〉って。 〈死にたい〉と言うのは、〈生きたい〉と思ってるのと同じ。ネガティヴに見えることでも、角度を変えればポジティヴなんですよね。その子に向かって歌を歌おうと思っているうちに、いつのまにか自分に対する手紙のような感じになったのが“死なない僕への手紙”なんです」(篠塚)。