カリフォルニアの日系コミュニティで密かに知られてきた、語り継がれるべき重要作
カリフォルニア州ヨコハマ町は架空の地。1949年、カリフォルニア出身の日系二世トシオ・モリによって上梓された短編集は1935年から41年にかけて執筆され42年に出版される予定であった。1924年には排日移民法制定、41年の太平洋戦争開戦を受けての42年大統領令による日系人の強制収容にはモリも含まれただろう。終戦を経て修正移民法による排日移民法事実上の撤廃が52年、日系人が様々な権利を得始める過程でようやっと出版へこぎ着けたことを想像する。カリフォルニアの日系人コミュニティ=ヨコハマ町での日常が描かれたその作品をグループ名にした「ヨコハマ、カリフォルニア」の1977年に唯一発表したレコードがライヴ音源を追加し初めてCD化される。
公民権運動に触発され、6~70年代、カリフォルニア州立大学バークレー校から起こったアジア系アメリカ人の社会的地位向上を求める運動において、様々なアジア系米国人がアイデンティティに基づいて行動を起こす中、日系の学生が結成したフォーク・ロック・グループもそのアイデンティティと向き合い、声を上げた。件の強制収容の際に急拵えの収容所に収まらない日系人が一時的に厩舎に住まわされたという仮収容所のあった「タンフォラン」、あるいはヒロシマ、ナガサキへの想いなど自身のルーツが辿った悲劇の記憶、そして今尚置かれている不当な状況に対する強いメッセージが西海岸らしいシンプルで肩の力の抜けたサウンドやハーモニーに、ストレートな表現で乗せられていく。音だけならシュガーベイブや赤い鳥を思わせる爽快さだが、そこには並々ならぬ意志がある。パーカッションのみをバックにアジア系米国人の不遇を詠む《ヴェジタブルズ》はまるでラスト・ポエッツのようだ。当時のアジア系米国人による表現はそれだけで歴史的価値も高いが、昨今の米国での事件や国内の状況を見るに、このタイミングでの再発は非常に意義深い。