
井手健介と母船による2015年の初作『井手健介と母船』は、かつて東京・吉祥寺にあった映画館、バウスシアターに勤務しながら音楽活動を続けていた井手健介が、自身が率いるバンドの母船と共にシンガー・ソングライターとしての資質を遺憾なく発揮した逸品だ。井手の涼やかなヴォーカルが、スティール・ギターやフルートなど数々の生楽器と重ねられた極上のフォーキー・ポップスは、心あるリスナーの間で現在まで語り継がれてきた。その井手がコーラスで参加した寺田燿児によるソロ・ユニット・yoji & his ghost bandの最新作『ANGRY KID 2116』(2016年)は、〈京都のブライアン・ウィルソン〉との異名を持つ寺田が、SF的な世界観やメロディー・センスを見せつけた珠玉の一枚となっている。ほぼ同世代である2人はこれまでに何度も共演を重ねているほか、それぞれに映像制作やイラストレーションなど、音楽だけにとどまらないユニークな表現活動を続けてきた。
そんな両者がそれぞれに率いるバンドが、来る2月23日(土)に開催となる〈Mikiki Pit Vol.2〉に登場! ジョルジオ・トゥマやゆうき(オオルタイチ&YTAMO)と、計4組のポップスメイカーたちの共演が実現するということで、貴重な一夜となるのは間違いない。そこで今回は、井手と寺田の対談を企画。公私に渡って親交があるという両者の出会いから、開催が迫るイヴェントの展望までじっくりと語ってもらった。
★〈Mikiki Pit Vol.2〉詳細はこちら
★ジョルジオ・トゥマのインタヴュー記事はこちら
★ゆうきのインタヴュー記事はこちら
ユーモアがあるかどうかが大事
――まずはお2人の出会いから教えてください。
井手健介「いつだっけ? ちょっと待って。携帯を見たらわかるかも……」
寺田燿児「4年前か、もっと前かな。(高円寺)U.F.O. CLUBで共演したときに初めて会いました。その頃、僕は京都に住んでいて、東京に来たのが初めてくらいのときだったと思います。まだ井手くんの髪が長くてね」
――そんな時期もあったんですね! お互いの存在は知っていたんですか?
燿児「いえ、まったく」
井手「全然知らなかったです。(携帯を見ながら)あ、初めて出会ったのは2012年ですね」
燿児「初めて井手くんを見たとき、東京生まれ東京育ちのシティー・ボーイだと直感的に思ったんです。都内ないしは近郊都市のベッドタウンの、70年代風で観葉植物のある素敵なイイ感じのおうちで育った人という背景を勝手に妄想して。それでライヴが終わった後に、こんな家で育ったんでしょう?と話しかけたら全然違いますよ、と(笑)」
井手「僕は九州の出身です。その頃はまだ母船をやる前の、ソロ活動を始めたくらいで。燿児くんも同じく1人で活動していましたけど、当時はすごく音楽がグシャっとしていた。やりたいことが扱っている機材の許容量を越えているような感じで、細切れにやりたいことをいろいろやっているのがすごく魅力的でしたね。それから〈佐野元春に似てるねー〉とかその日のうちに話し込んで、すぐに仲良くなりました」
――燿児さんは初めて井手さんの演奏を観たとき、どんなふうに思いましたか?
燿児「リハのときにずっとリヴァーブの調子を気にしていたのが印象的でした。〈幽霊の集会だ~〉(“幽霊の集会”)の〈集~〉の部分を何度も、〈もうちょっとお風呂っぽい感じで〉と言っていて、それがおもしろかったです。あとはやっぱり曲がいいなって思いましたね。だから終わった後に話しかけたくなった」
井手「その年の冬に京都(のイヴェント)に呼んでもらうんですけど、それが僕にとって初めての遠征ライヴだったんです。すごくウキウキして、楽しかったですね。ゲストハウスが辛かったくらいで」
――泊まったところですか。
井手「ええ。素敵なゲストハウスに泊まりたい!と思って、オシャレなところを予約したんです」
燿児「古い町屋をリフォームしたようなね」
――京都とか大阪にはよくありますよね。
井手「そうそう。それでライヴの前にチェックインしたんですけど……」
燿児「チェックインのときにすでに洗礼を受けて」
井手「そこにはすごくオープンマインドな人たちがたくさん集まっていて。〈この後、ここでおでんパーティーするから〉って」
一同:ハハハ(笑)
井手「〈槇原敬之のミュージック・ビデオを作ったことのある人も来るから〉〈音楽やってるならコネクションを広げたほうがいいから。絶対に来たほうがいい〉と言われて」
燿児「アハハ(笑)」
井手「〈わかりました〉って言いながら、絶対ここには帰ってきたくない、と思って。それで燿児くんに〈今日は帰りたくない〉と言って、すごく遅くまで付き合ってもらったんです」
燿児「深夜にこっそり抜け出してね」
――忘れがたい時間を共に過ごしていますね(笑)。そのあと1年ほど前に、燿児さんが京都から上京するにあたって井手さんの存在も大きかったと聞いています。
燿児「当時は井手くんや母船のメンバーとよく会っていたんですが、中央線に住んでる人が多かったし、このあたりに住みなよって薦められていたんです。上京するのはいろんなことがきっかけになったけど、間違いなくそのひとつではありましたね」
――親交のあるミュージシャンのなかでも、井手さんや母船のメンバーには特にシンパシーを感じる部分が多かった?
燿児「そうですね」
井手「出会って間もない頃に、音楽において何が大事かという話をして、それは〈ユーモア〉だというので意気投合しましたね。例え音楽性の違うミュージシャン同士でも、ユーモアがあれば共感できるし、その有無がいちばん大事」
燿児「『井手健介と母船』の中ジャケの感じもそうだよね。これ、井手くんのこと知らない人は本気だと思うんじゃないかな(笑)」

井手「普通にナルシストな人だと思われそうだよね(笑)。これはキャトル・ミューティレーション※的な、お迎えがきたようなイメージなんですよ」
※60年代にアメリカなどで起こった家畜の惨殺事件。真偽不明の都市伝説として、宇宙人の仕業ではないかと物議を醸した

妄想を狂ってるくらいに詰め込んだ、へんてこなポップス
――燿児さんはyoji & his ghost bandとして2作目『ANGRY KID 2116』を昨年末にリリースしました。コミック「リトル・ニモ※」にインスパイアされたという、ファンタスティックなポップ・ミュージック集といった趣の素晴らしい作品でした。井手さんはどう聴かれましたか。
※1905~1913年頃にアメリカの新聞紙で連載されたウィンザー・マッケイによるコミック・ストリップ
井手「僕が知ってる燿児くんそのままというか、出会った頃からずっと好きなところが出ているなと思いました。音の手触りがあまりトリートメントされていない、アイデアがそのままボン!と出ているような、ちょっと荒削りなところを残して録音されていて。それがもっともイイ感じでパッケージングされているなと。カオティックになる寸前の音というか。前作(2014年作『My Labyrinth』)に比べて音も良くなっているし、より緻密になってはいるんですけど、手触りのおもしろさは変わっていない」
――井手さんは“Ghost Parade”“Water World”の2曲で参加されていますが、楽曲制作のどの段階で声をかけたんですか。
燿児「結構早かったと思います。“Ghost Parade”はアルバムの幕開けとなる曲だと決めていたんですけど、その構想段階で参加してほしいなと思っていました」
――もうこれは井手さんしかいないと?
燿児「それもそうですし、単純に頼みやすいってのもありましたね(笑)」
――井手さんはレコーディングの際にどのような指示を受けましたか。
井手「シンプルに、こういうフレーズをこんな声の感じで歌ってくれと。それをどんどんハーモニーで重ねていくんですが、燿児くんのことなのでこれからいろいろと調理されるのであろうと思いながら、深く考えずにただ言われた通りに声を出しました」
――燿児さんは〈京都のブライアン・ウィルソン〉と言われたりもしているそうですが、井手さんとしてはどう思いますか。
井手「うーん、でも燿児くんのことをブライアン・ウィルソンだと言った人はすごいなと思います。燿児くんの音楽ってドリーミーな、コーラスが多用されたベッドルーム・ミュージックというか。妄想を狂ってるくらいに詰め込んだ結果出来上がった、ちょっと普通じゃない異形のものですよね。そこにアニマル・コレクティヴ的なつんのめったビートが入ってきたりするので、そのあたりはブライアン・ウィルソンとは違うけど、基本的には〈妄想が膨らんだり縮んだりしながら出来るへんてこなポップス〉という意味で、的を得ているんではないかなあ」

燿児「ブライアン・ウィルソンの映画があったでしょ(『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』)。あれを観てすごく共感しましたね」
井手「どういうところが?」
燿児「ブライアンがこうやると(両手を頭上に上げて、目を閉じて天を仰ぐ)、頭の中にメロディーが流れ出して。それで周りの人に〈オイ!〉って声掛けられて〈ああ!〉と我に返るんだけど、〈こういうのあるある~!〉って(笑)」
――まさに〈降りてくる〉タイプなんですね。井手さんは?
井手「僕はないかなあ。いや、〈降りてくる〉待ちはしていますけど……でももうその時期は終わったなって」
――別のやり方を探している?
井手「いまは模索中なので、降臨するのが羨ましいですよ」
――『ANGRY KID 2116』の話に戻ると、そもそもどういった作品にしたかったのでしょう。
燿児「まずひとつには一冊の絵本みたいにしたかったんです。それから慣れ親しんできた90年代のJ-Popとか……やっぱりミスチルやスピッツなんだなって思うんですよね。いろんな音楽を聴きますけど、最終的にはそこに帰っていくのかなと。音楽を作るなら聴いてもらえなきゃ意味がないし、万人に受けてナンボだと思っていて。ちょっとおこがましいですけど、そういう想いをアルバムには込めていますね」
――いわゆるメイン・ストリームで聴かれるようなものをめざしている?
燿児「そういう節もあります。Aメロがあって、ブリッジがあって、サビがくるといったような、そういうJ-Pop的なオーソドックスなものでありたいという憧れは常に持っていますね」
――制作のうえで、指標となった音楽作品はありましたか。
燿児「一番はビートルズの〈ホワイト・アルバム〉ですね。あのアルバムは、4人がとりとめもなく好きなことをやっている作品じゃないですか。〈絵本〉というモチーフも、いろんなシーンや起承転結があって、いろんな敵と戦って……そういう雑多さが好きなんだと思います」
――あとは燿児さんが描いたペン画のジャケットや、手書きの歌詞カードもその世界観をよく表していますよね。
井手「歌詞カード、めちゃくちゃいいですよね! 実は自分のアルバムでもこんなふうにしたかったんです。僕はニール・ヤングが好きなんですが彼も手書きで、読み取れないくらいの殴り書きで書くんだけどすごく文字列としての魅力があって、全体で見るとすごくカッコ良いんですよ。燿児くんの書く字はまさにそれが成立していて。それぞれの曲にも合ってるし」
燿児「ニール・ヤングで思い出しました。僕は初期のパール・ジャムに影響を受けているんですけど、彼らも手書きなんですよね」

ベスト盤でもあり、ただの〈記録〉でもある
――2015年にリリースされた『井手健介と母船』についても、改めてお訊きしたいです。
燿児「曲の構成の流れが美しいですよね。本当にすごい」
井手「ありがとうございます。例えばどこですか」
燿児「“青い山賊”の〈トゥルル~頭の~〉とか〈ふたりの海に~〉(“ふたりの海”)とか。丁寧に時間をかけて曲と向き合って、メロディーが上に行くのか下に行くのか考えて作ってるんだなと。巧さというよりかは井手くんの持って生まれたセンスがまず素晴らしいです。もっと新しい曲が聴きたい」
井手「そうですよね。この前お客さんにも〈井手さんはもう新しい曲を作らないんですか〉と言われました」
――『井手健介と母船』は個人的にも2015年のベスト・アルバムのひとつで、もはや名盤と言えるのではないかと思っています。井手さん自身はどういう作品だと考えていますか。
井手「このアルバムは、それまでに出来ていた曲を集めたベスト盤のようなものなんですね。でも同時にただの〈記録〉でもあって。ベーシックのレコーディングのときに集まったメンバーとセッションしながら〈せーの〉で録った結果、作曲したときに描いていた感触やアレンジとは全然違ったものになった曲もいっぱいあったんです。それで自分の曲に対して、こういう解釈もあるんだということがわかって、一部はそれに任せて録ったりしました。だからどちらかというと、僕の頭の中のものを具現化したというよりも、まずはそれぞれのメンバーが曲に対して反応して、その結果見えてきたものにゆっくりと色を塗っていった、という感じです」
――〈バンド〉という意識が強いのでしょうか。メンバーと切磋琢磨して作ったイメージ?
井手「切磋琢磨とか議論を交わすというよりは、出会った人たちとパッとやったというのが大きいです。それでもメロディーが立ったアルバムにはなっていて、その意味では僕のアルバムだと実感しているんですが」
――井手さんはもともと、どういった音楽を聴いてこられたのでしょう。
井手「歌謡曲とか、薬師丸ひろ子や松田聖子といった70~80年代のアイドルでしょうか。あと筒美京平さんや浜口庫之助さんという作曲家が好きですね。よく〈歌謡曲っぽいね〉と言われるんですけど、確かに根っこがそうなんです。一方でニール・ヤングやヴェルヴェット・アンダーグラウンドが好きで、大学くらいでアシッド・フォークやサイケが好きになって、いまに至ります。ゑでぃまぁこん、羅針盤、山本精一さん……。それから坂本(慎太郎)さんと石原(洋)さんが一緒に作ってきた音楽への憧れはすごくありますね」

――ちなみにここ最近ではお2人ともどういったものを聴いていますか。
燿児「僕は戦前の古い音源を収録したCDを漁るのが好きなんですが、最近はデルロイ・ウィルソンというロックステディの人を聴いていました」
井手「僕は友達にカールトン&ザ・シューズを教えてもらって、よく聴いてますね。あとは昨年に出た新譜だと、ヴァニシング・ツイン『Choose Your Own Adventure』が最高でしたね。クラウトロックの影響を受けているすごくポップなサイケ・バンドで、自分の好きなステレオラブにも似ている。それとチャイルディッシュ・ガンビーノの『Awaken, My Love!』。燿児くんこれ好きなんじゃないかな? Pファンクとかプリンスっぽいテイストの人で、コメディアンでもあるらしいですね。ジャケも便座に顔がハマってるみたいでヤバイ!」
どこにもない自分の表現を追求している
――お2人の近々のご予定についても訊かせてください。
井手「はい。いま、モーラムやルークトゥンといったタイの音楽を聴きまくっているんですが、そんな曲を作っています。また、4月22日(土)に公開となる瀬田なつき監督の映画『PARKS』にはサントラと出演で参加しました。以前勤めていたバウスシアター時代から交流があり大好きな監督さんなので、こういった形で作品に関われて嬉しいです」
――燿児さんは『ANGRY KID 2116』のレコ発も先日終わったところで。
燿児「そうですね。しばらくはアルバムを引っ提げてライヴをやっていく感じです。あとはせっかく東京に住んでいるので、そのうちテレビに出たいなと」
――いいですね。何に出たいですか。
燿児「ミュージックステーション。あとはやっぱり紅白でしょうか」
井手「まじか!」
燿児「そんなツテはないけど(笑)」
――ハハハ(笑)。そして、お2人には〈Mikiki Pit Vol.2〉にご出演いただくわけですが、ほかの出演者で気になっている方はいらっしゃいますか?
燿児「ジョルジオ・トゥマさんの“My Last Tears Will Be A Blue Melody”がとにかく素晴らしくて。身体を滝が流れていくような感じ。ラヴェルの〈ボレロ〉的なフレーズが重ねられていて」
――ツイートもされていましたね。井手さんはトゥマをご存じでしたか?
井手「知らなかったけど、聴いてみてすごくいいなと思いました。マルコス・ヴァーリの『Previsao Do Tempo』(73年)がすごく好きなんですけど、あの感じと似ているというか。特にトゥマさんの2作目『My Vocalese Fun Fair』(2009年)に顕著だと思うんですけど、宙に浮いているようなふわふわしたサウンドが非常に素晴らしいです。ライヴが楽しみですね」

――ゆうきはいかがでしょう? 燿児さんは京都でしたし、YTAMOさんともご親交があるそうですね。
燿児「はい。実はこの間(折坂悠太バンドのサポートとして)対バンしたんですが、やっぱりオオルタイチさんのセンスがすごいなと思いました。ご本人にそこまでの意識はないかもしれないですけど、どこにもない自分だけの表現を追求していますよね。これは井手くんにも感じていますけど、歌心というか歌をどう良くしていくかという意識が感じられて」
井手「僕もやっぱりウリチパン郡に衝撃を受けた1人で、ずっとライヴを観てみたかったので、(共演できるのは)めちゃくちゃ嬉しいです」
――お2人のライヴはどのようなものになりそうですか?
井手「母船はギタリストとして松本頼人さん(vapour trail/惑星のかぞえ方)が参加したり、いつもとは違うちょっとおもしろい編成になる予定です」
燿児「うちは6人のフル編成でやります。もしかしたら井手くんも特別にコーラスで入るかもしれません」
――最後に仲の良いお2人ならではの視点で、お互いのライヴの見どころを紹介してもらえますか。
井手「燿児くんはMCがめちゃくちゃおもしろいです。とにかくずっとはにかんで、ひとりで笑っている(笑)。あと、スティールパンとかシェイカーを振っている八木(隆晃)くんという人がすごくキュートなので、注目してほしいです。僕の推しメンです!」
燿児「ただのおっさんですよ(笑)。母船は始まり方がすごくいいんですよね。洪水の前夜のような静けさというか。あとはやっぱり、風呂場のようなリヴァーブに期待してください」

Mikiki Pit Vol.2
日時/会場:2017年2月23日(木) 東京・恵比寿batica
出演:ジョルジオ・トゥマ/ゆうき(オオルタイチ&YTAMO)/yoji & his ghost band/井手健介と母船
ラウンジDJ:谷口雄(1983、元・森は生きている)/Mikiki DJs(田中亮太&小熊俊哉)
開場/開演:19:00/19:30
料金:前売り/1,500円、当日/2,000円(+2 drinks代別)
>>チケットのご予約はコチラから!

