Page 2 / 2 1ページ目から読む

世界に1枚しかないアルバム

――どの曲も構成そのものは複雑なんだけど、メロディー自体はすごくポップですよね。そのあたりに対する意識はありますか?

ケイタイモ「予備校時代にフランク・ザッパを聴いたとき、本当に驚いたんですよね。間違いなく難解なんだけど、ポップというかコミカルですらある。ああいうことをやりたかったんですよ……それでMONG HANGをやっていたのもおかしな話だけど(笑)」

BA「確かに(笑)」

ケイタイモ「とにかくザッパが大きかったんですよ。あとはエルメート・パスコアールとジャコ・パストリアス」

BA「あとは80sだよね」

ケイタイモ「そうね。WUJA BIN BINのファーストに入っている“SAFE DRIVING”っていう曲のフレーズには、ちょっと80sポップスみたいな雰囲気があるかも。80年代のマドンナの曲とかに、ああいうフレーズがよく入っているんですよ」

2012年作『WUJA BIN BIN』収録曲“SAFE DRIVING”
 

――あと、もうひとつ基本的なこととしてずっと気になっていたんですけど、そもそもなんで歌がスキャットなんですか?

ケイタイモ「まず、歌にあんまり意味を持たせたくないんですよね。ザッパの『Burnt Weeny Sandwich』(70年作)に〈俺の住んでた小さな家(Little House I Used To Live In)〉って曲があるんですよ。インストなんですけど、タイトルだけで想像力を掻き立てられるものがあって、凄く好きだったんです。WUJA BIN BINでもそういうものをやりたいんでしょうね」

フランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションの70年作『Burnt Weeny Sandwich』収録曲“The Little House I Used To Live In”
 

――では、あえてお訊きすると、インストじゃなくてBAさんと高橋さんという2人の声を乗せているのはどうしてなんでしょうか?

ケイタイモ「ひとつあるのは、娘が生まれたばかりの頃にNHKの〈おかあさんといっしょ〉を一緒に観ていたら、そこで流れていた歌にやたらと染みてくるものがあって……」

BA「そこからきてるの(笑)?」

ケイタイモ「あとは、やっぱり(エルメート・)パスコアールのイメージ。あの人のアルバムにはスキャットがよく入っていますよね。それと、普通の歌ってそれほど大きくメロディーを(上下に)変化させられないんですけど、スキャットにはできるんです。それこそ楽器みたいなフレーズでも成立する。この2人には相当苦労させていると思うんですけど(笑)」

高橋瞳とBAの躍動的なスキャットが楽しめる“CRASHED DATE ELEGY”

――楽器みたいなフレーズなんだけど、人間の声で奏でることによって、楽器にはない独特の効果が生まれる。

ケイタイモ「そうですね。それこそセルジオ・メンデスの曲もそうですけど、スキャットが入ることによって口ずさめる曲になるというか」

――高橋さんはいかがですか? WUJA BIN BIN以前に歌っていたものとはだいぶ違うと思うんですが。

高橋「私はあとからこのバンドに入ったので、最初はWUJA BIN BINを客席から観る側だったんですね。ライヴを観たとき、言葉がないのにメッセージが伝わってくるというか、含みが感じられて〈これだ!〉と思ったんです」

ケイタイモ「瞳ちゃんはもともとブラジル音楽好きだからね」

高橋「そうですね。WUJA BIN BINでは〈歌〉という意識ではやってないんですよね。楽器みたいな感覚というか、だからこそやっていて凄くおもしろいんです。いつも発見ばかりだし」

――BAさんはいかがですか? MONG HANGのときは無国籍語で歌っていましたけど、無国籍語と現在のスキャットではまた違うと思うんですよ。

BA「スキャットのほうが難しいかもしれない。MONG HANGのときは意味のない言葉や感情でごまかしていたけど、WUJA BIN BINではそうもいかないから」

ケイタイモ「あと、スキャットにしてもどういう言葉でやるかが結構重要なんですよ」

BA「そうそう。そこはケイタが決めることもあれば、3人で話し合って決めることもありますね」

高橋「入った当初、とある曲を〈パ〉で歌っていたら、BAさんから〈そこはね、パじゃなくてラなんだ〉と言われたり(笑)。歌詞カードもちゃんとあるんですよ。(歌詞カードを出しながら)これだけ見るとワケが分からないですよね(笑)」

高橋瞳が持参していた歌詞カード
 

――すごいな、ほとんど現代詩みたいだ(笑)。でも、同じスキャットにしても〈パ〉と〈ラ〉ではずいぶん印象が違うんじゃないですか?

ケイタイモ「そうなんですよ、そこは凄く重要で」

BA「〈ワ〉と〈ラ〉は歌っていてもほとんど違いが分からないぐらいだけど(笑)」

――WUJA BIN BINの場合は歌が他の楽器とユニゾンになっていますよね。そこも通常の歌の形とは違いますよね。

高橋「そうですね。楽器のフレーズとバチッと合ったときは本当に気持ちいいんですよ。ただ、細かいところはいまだにわかってないかも(笑)」

BA「そうだね(笑)。レコーディングをして初めて〈こうなってたのか〉とわかるぐらい」

ケイタイモ「ここはあんまり考えずに勢いでやろう!という曲もあるしね」

 
 
BAcafeの店内
 

――あと、今回も話題になっているのがアルバムのジャケットですよね。ファースト・アルバム『WUJA BIN BIN』では“SAFE DRIVING”のミュージック・ビデオを制作するためにケイタさんみずから1500枚のイラストを描き、前作『INAKA JAZZ』でも500枚のジャケットを手描きされていましたけど、今回は東京・名古屋・大阪で個展〈CRASHED DATA ELEGY〉を開催して、ライヴペインティングでジャケット500枚を描かれていました。

ケイタイモ「いまはCDが売れない時代ですけど、自分はやっぱりCDに対する思い入れがあるんですよ。手描きで描けば、世界で1枚しか存在しないアルバムとなるわけで、そういう付加価値をつけて1枚でも多くパッケージが売れればと思っていて。あと、作り手からじゃないと、こういうアイデアって出てこないんじゃないかと思うんです。自分でもまだ模索中だし、あまり偉そうなことは言いたくないんですけど、絵を描いたり、いろんなバンドをやったりしていると、〈何をやりたいのかわからないよ〉と言われることもあって……」

高橋「そうなんですか……」

ケイタイモ「でも、音楽をきちんとお金に変えさせるためには自分がいろんなアイデアを出して、ひとつひとつ実行していかないと、CDが売れないという時流に流されるだけだと思うし、そういう流れにはちゃんと逆らっていきたいんです」

――なるほど。今回のアイデアもパッケージを売るための戦略であると同時に、ひとつの壮大な遊びみたいに見えてくるのがケイタさんらしいなと思ったんです。500枚異なるパッケージでリリースすること自体はたぶん難しくないと思うんですけど、わざわざそこを手で描く。しかも、描いている場面そのものもギャラリーで見せる。そういう破天荒なおもしろさって伝わりやすいと思うんですよ。

ケイタイモ「確かに大阪で前回の個展をやったあと、ライヴのお客さんが増員したんです。2週間ずっと描いていたんで、シンパが増えたんですよね。名古屋でも新しい人たちと出会えたし、地方でやるといろんな広がりがありますよね。あと、自分自身、細かい作業が好きなこともあって」

BA「好きじゃなきゃやんないでしょ、あれは。前回でまだ懲りねえのか!と(笑)」

――そうやって考えていくと、パッケージを売るためのアイデアってまだまだありそうですよね。

ケイタイモ「そうなんですよ。そういえば、こないだある人からこんなアイデアを聞いて……。おっと、ここでは言わないでおきます(笑)」

――わかりました(笑)。

ケイタイモ「次の展開も楽しみにしていてください!」

 

Live Infomation
〈WUJA BIN BIN『THE BEST PLANET EVER』発売記念 東名阪ツアー〉

2017年4月15日(土) 東京・代官山UNIT
※ワンマン公演
2017年4月22日(土) 大阪・心斎橋FANJtwice
共演:Yasei Collective
2017年4月23日(日) 名古屋TOKUZO
共演:Yasei Collective
★詳細はこちら