マリンバやスキャット・ヴォーカルを含む大所帯の13人編成で、壮大なスケール感を持ちつつもポップでアヴァンギャルドな異形音楽を奏でるWUJA BIN BIN。リーダー兼ベーシストのケイタイモ(元BEAT CRUSADERS)を筆頭に、ゴセッキー(サックス/在日ファンクほか)や類家心平(トランペット/RS5pbほか)、中村圭作(キーボード/toeほか)ら腕利きプレイヤーたちによる圧倒的なパフォーマンスでカルト的な人気を誇る彼らが、新作『THE BEST PLANET EVER』をリリースした。サード・アルバムとなる同作もまた、過去2作品で突き詰めてきたWUJA BIN BINの世界を凝縮した濃密な作品となっている。捉えどころがないがどこかクセになるサウンドは、昨年初作をリリースした2組――フォーキーなikanimoや80年代ポップをオマージュしたヘブンリーボーイズなど、さまざまなユニットで活動する鬼才・ケイタイモならではの世界観と言えるだろう。
実は、前作『INAKA JAZZ』(2014年)以降に迷走期間へと陥っていたという彼ら。そうした時期を経てようやく辿り着いた新作『THE BEST PLANET EVER』の背景について、ケイタイモ、BA(ヴォーカル)、高橋瞳(ヴォーカル)の3人に、BAが経営する東京・中野のバー/カフェ〈BAcafe〉にて話を訊いた。
大事なのは、何の縛りもなく自由であること
――まず、ここ〈BAcafe〉についてお訊きしたいんですけど、オープンしたのは2007年の7月7日だそうですね。
BA「そうですね、今年で10年目です。僕ともう1人のスタッフでやっているんですけど、彼がskillkillsというバンドのヴォーカル(マナブスギル)なので、音楽系のお客さんも多いんですよ。瞳ちゃんもよく来るね」
高橋瞳「本音を言えばもっと来たいんですけどね。でも、BAcafeに来ると大抵朝帰りになっちゃうんですよ(笑)」
――WUJA BIN BINのメンバーが集まって打ち合わせをしたり、何か活動に繋がるようなことは……。
BA「(即答して)まったくございません(笑)」
高橋「あはは、ヤバイぐらいにないですね」
ケイタイモ「メンバーみんなよく来るんですけどね。類家くんもよく来るし」
BA「類家くんが来たとき、お客さんに〈俺と一緒にバンドをやってるんだよ〉って紹介したら、みんなに〈嘘つけ!〉って言われました(笑)」
――雰囲気が全然違いますもんね(笑)。昨年、ケイタイモさんはikanimoとヘブンリーボーイズという別グループでもアルバムを出しましたよね。これほどまでにたくさんのユニットで活動するのはなぜなんでしょうか。
ケイタイモ「1、2年前、とあるところにWUJA BIN BINがお世話になるという話があったんですよ。でも、その話がなかなか上手くいかないうえに、その時期は曲作りも迷走していて。本来WUJA BIN BINでやろうとしていたのは、わかりやすいものではなかったし、複雑なものも良いバランスで出していければと思っていたんだけど、(当時の自分だと)吹っ切れてやることができなくて……。その時期にフットワーク軽く音楽をやりたくなって、ikanimoとヘブンリーボーイズをはじめたんです」
――いまおっしゃった〈複雑なものも良いバランスで入ったもの〉、つまりは〈複雑な楽曲構成とポップな音楽性のバランスが取れたもの〉が、当初からWUJA BIN BINがめざしてきたものなんでしょうか?
ケイタイモ「そうですね。フランク・ザッパがブラジル音楽をやったらというイメージでした」
――迷走の時期はそのコンセプト自体が揺らいでしまった?
ケイタイモ「(商業面を意識せざるをえない状況だったから)次のアルバムでは畳み掛けるような複雑な構成の曲も封印しなきゃいけないのか?と悩むようになってしまったんですね。でも、本当にやりたいのはそういう音楽なので、やっぱり自分のやりたいようにやろう、と」
BA「初心に戻ったということだよね?」
ケイタイモ「そうなのかもね。WUJA BIN BINのメンバーは俺が作っている音楽をおもしろがってくれているわけだけど、ビジネス的な観点から本当にやりたいことを封印してしまったら、他のメンバーがどんどん辞めていっちゃうような気がして」
高橋「確かにあの時期は私も辞めたいなと思っていました(笑)」
ケイタイモ「そうなんだ!(笑)」
高橋「WUJA BIN BINはあのままのスタイルだからこそWUJA BIN BINなのに、ケイタさんはもっと違う何かを求めていて、しかもそれは彼の本心じゃないということが見えていたんですよ」
ケイタイモ「なるほど(笑)」
高橋「でも、その時期があったからこそ、WUJA BIN BINにとって大事なことが見えた気がする」
――大事なこととは?
高橋「シンプルなことですけど、何の縛りもなくて自由であることだと思います。私は単純にやっていて楽しいからWUJA BIN BINに参加しているんですけど、迷走時期はやっていても楽しくなかった(笑)」
BA「俺は迷走していることにすら気付いてなかったけど(笑)」
――迷走していた時期の曲は今回の新作『THE BEST PLANET EVER』には入ってないんですか?
ケイタイモ「“TALK TO ME BABY”というファンクっぽい曲はその時期に作ったものですね。それまでになかった踊らせる方向性を持った曲。ライヴを1本作っていくうえで、こういう踊れるタイプの曲があったほうが良いんじゃないかと思って」
――“TALK TO ME BABY”、格好良いですよね。いままでになかった路線だったので、すごく新鮮に感じました。
ケイタイモ「あ、そうですか! それは良かった。迷走時期もあながち無駄じゃなかったのかも」
BA「こいつ、(ケイタイモとBAがWUJA BIN BIN以前に結成していた)MONG HANGのときと同じことを繰り返しているんですよ。MONG HANGも後半はめちゃくちゃ迷走していたし(笑)」
――ハハハ(笑)。では、そろそろ新作の話に移りましょうか。制作にあたってのコンセプトはあったんですか?
ケイタイモ「毎回のことですが、まったくないんですよ。いつもLogicでデモを作るんですけど、できあがったあとにCDの棚を見ながら曲名を決めるぐらいなんで(笑)」
――曲の構成はデモの段階でかなり作り込むんですか?
ケイタイモ「ある程度演奏者に任せるフリーなところは別として、ある程度は作り込んじゃいますね。フランク・ザッパやエルメート・パスコアールは構成が決まっているところとフリーなパートのバランスが凄く良くできていますけど、WUJA BIN BINでもそのバランスを大事にしています」
――メロディーとリズムでは、どちらから作っていくんですか?
ケイタイモ「メロディーから作っていくことのほうが多いですね。“SHIMANAMI SUNSET RIDE”は初めて7拍子で作ってみたんですけど、メンバーに〈今回初めて変拍子の曲を作ろうと思って……〉と話したら、〈ええっ!?〉って驚かれたんです。変拍子の曲、他にもあるでしょ?って」
――確かにWUJA BIN BINって変拍子のイメージがありますもんね。
ケイタイモ「でも、WUJA BIN BINには本当に変拍子の曲はなかったんですよ。俺の場合、たとえば4分の4拍子で曲を作っていても、〈メロディーに対して一小節余るな〉と思うと、(その一小節を)ばっさりカットするクセがあるんです。だから、4分の4拍子なんだけど、2拍足りない曲が出来る。逆に2拍足しちゃうときもありますしね」
――それで変拍子みたいに聴こえる、と。
ケイタイモ「そうだと思いますね」
BA「昔からそうなんですけど、図面みたいな曲の作り方なんですよ」
――WUJA BIN BINの音楽って緻密なのにどこかアンバランスさもあって、すごく絶妙なバランス感覚のもとに成立していると思うんですね。だからこそ、どうやってこういう音楽が出来上がったのか、すごく気になっていたんですけど、そういう曲の作り方にヒントがあるんでしょうね。
ケイタイモ「何かの影響を受けてそうしているというよりも、本当にクセなんですよ。他のミュージシャンの楽曲を解析することは好きなんですけど、自分の場合はメロディーの聴こえ方に耳がいくんですよね。拍数については完全に感覚でやっちゃっていると思う」
――高橋さんとBAさんはいかがですか。通常の感覚であれば、2拍少なかったり多かったりするわけですよね。歌っていて、リズムを掴みづらいことはない?
高橋「ゴセッキーさんなど譜面を見て演奏する方々は大変だと思うけど、歌はそうでもないんですよ」
BA「俺と瞳ちゃんはメロディーそのものを暗記しているんで、拍数はあまり関係ないんだと思う。あと、俺の場合はMONG HANG時代からの付き合いだし、ケイタの作る曲のクセにも慣れているというか。拍数のこともそうだけど、同じフレーズを3回繰り返すのもクセなんだと思う」
ケイタイモ「ああ、そうかも」
――2回じゃなくて、3回というのが独特の高揚感に繋がっているのかもしれませんね。2回でちょうどいいところをもう1回繰り返すことで、さらに上のレヴェルの高揚感に持っていかれるというか。
BA「逆に〈ここはこれだけしか繰り返さないの?〉というところがあったり」
全員「ああ~(笑)」