垣根なんてない、進化を恐れない 新世代チェリストに注目!
正統にして新奇。それが第一印象だった。ジャンドロン、トルトゥリエ、フルニエと名チェリストを輩出し続けるフランスだが、その伝統の最先端で活躍するモローは、1994年パリ生まれ。今年6月の日本初リサイタルでは、意欲的なプログラムと鳥肌モノの超絶技巧、そして官能的な美しい音で観客を魅了した。チェロの音が惚れ薬だとしたら、今その効能を最も理解しているのは彼かもしれない。
「サン=サーンス《サムソンとデリラ》のアリアのような声楽曲は、人の声に近いチェロの音によく合います。フォーレの《エレジー》は葬送の曲ですが、死は絶望ではなく希望でもあるというフランス文学からの流れが、豊かで開放的な音にマッチします。チェロの音色こそが、自分にとっては大切なのです」
モローの魅力は、この音色への強いこだわりだ。チェロとの出会いは3歳。骨董店を営む父と9区の骨董街を歩いていたとき、チェロのレッスンを受けている女の子を見かけ、曰く「体験そのものに一目惚れした」。同じ先生に5年間手ほどきを受けたのち、パリ国立高等音楽院でフィリップ・ミュレールに師事。11年には国際チャイコフスキー・コンクール第2位を獲得しスターダムへ。運命というほかない。これまでファーストアルバム『PLAY』(13)とセカンドの『ジョヴィンチチェロ』(15)をリリースし、革新的なプログラミングと音楽性で賞を総なめにしてきた。
「最初のアルバムは、名刺代わりになるようオールラウンドを心がけました。チェロの定番曲はもちろん、パガニーニなどのヴァイオリン曲や隠れた名作を盛り込んで、自ら編曲も手がけました。次にバロックの協奏曲集に挑戦したのは、正反対のことがしたかったから。今はやりたいことが何でもできる時代です。いわゆるクラシックにもバロックにも、垣根なんてない。ほんとうにやりたいことなら、情熱をもって、意識的に動けば実現できるのです」
理知的に語るモローの眼差しには、揺るぎない自信と、それを裏打ちする仲間への信頼があふれていた。秋以降、連続でリリースされる室内楽のアルバムにも期待が高まる。
「ルノー・カピュソンは僕のメンター的存在です。17歳のときからいろんなことを語り合い、そのたびに背中を押してくれた人。シャマイユとの出会いは最近ですが、フランス音楽界を背負うふたりとドビュッシーを演奏できて光栄です。カドシュとはフランク、プーランク、そしてストロールの知られざる佳曲を。今後も発見を楽しみ、挑戦しつづけます」
進化し続ける新世代から、目が離せない。
LIVE INFORMATION
プロムナードコンサートNo.376
○2018年2/10(土)14:00開演
会場:サントリーホール
準・メルクル(指揮)エドガー・モロー(vc) 東京都交響楽団
【曲目】
メンデルスゾーン:序曲《フィンガルの洞窟》op.26
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 op.104 B.191
シューマン:交響曲第3番 変ホ長調 op.97《ライン》
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