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ワーナー・クラシックスが続々リリースする注目の若手演奏家「ライジング・スターズ」シリーズ

 最近のクラシック界の若手演奏家を見ていると、徐々に力を蓄えながら世の中に出て来るといった努力型の才能よりも、若い頃からその実力が注目され、あっと言う間に世界から求められる演奏家になっている、そんなケースが多いような気がする。ワーナー・クラシックスから2015年11~12月にCDがリリースされたふたりの演奏家がその良い例だ。ソプラノのサビーヌ・ドゥヴィエル(1985年生まれ)、チェロのエドガー・モロー(1994年生まれ)である。

SABINE DEVIEILHE ラモー:壮大なる愛の劇場 Erato(2013)

 11月にCDがリリースされたドゥヴィエルから紹介しよう。『モーツァルト・アリア集~ウェーバー三姉妹』と『ラモー・壮大なる愛の劇場』の2枚だが、本国フランスでは「ラモー」のアルバムが2013年にまずデビュー盤としてリリースされた。ラモーの歌劇に関しては、日本ではほとんど上演されることがないので(「レ・パラダン(遍歴騎士)」「プラテー」などごく一部が上演されたことがある)、その魅力を体験した方は少ないと思うが、一度ラモーの歌劇を体験してみると、フランス・バロック時代の音楽のかなりアヴァンギャルドな世界に驚くと思う。コセンコ指揮レザンバザドゥールをバックに、ドゥヴィエルが歌うのは「優雅なインドの国々」「レ・ボレアド」「カストールとポリュックス」など、ラモーの代表作ばかり。それらを実に巧みな配列で並べてある。ラモーの音楽をあまり知らないと言う人には、こうした紹介の仕方のほうが楽しめるだろう。ドゥヴィエルの声は、非常に透明感があって、低音から高音までムラの無い響きを持っている。バロック時代のヒロインにぴったりの声。フランスのグラミー賞と言われるヴィクトワール・ドゥ・ラ・ムジーク、及びディアパゾン・ドール賞を受賞したアルバムだ。

SABINE DEVIEILHE モーツァルト・アリア集~ウェーバー三姉妹 Erato(2015)

 もう1枚は『モーツァルト・アリア集~ウェーバー三姉妹』である。こちらはアマデウス・モーツァルトと関わりの深かったウェーバー家の三姉妹をテーマにしたアルバムで、モーツァルトがヨゼファアロイジアコンスタンツェ、のために書いたと言われる作品などを中心に構成したアルバムだ。《レ・プティ・リアン》序曲から始まり、《ああ、ママに言うわ(有名なキラキラ星変奏曲のテーマとなったフランス歌謡)》に始まり、歌劇『魔笛』の代表的なアリアである夜の女王のアリア(初演の時はヨゼファが歌った)をクライマックスに置く、まるで一夜のコンサートのような構成によるアルバムで、こちらも音楽だけでなく、それぞれの作品の関連、人物関係などにまで想像を広げさせてくれるアルバムとなっている。リリック・コロラトゥーラ・ソプラノとしてのドゥヴィエルの魅力が十分に発揮されたアルバムである。

 

(C)Julien Mignot

 続いては、チェロのエドガー・モロー。17歳でチャイコフスキー国際音楽コンクール・チェロ部門の第2位となり、2015年には「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」に出演してドヴォルザークのチェロ協奏曲などを演奏し、日本の音楽ファンの間でも話題となった若手チェリストである。

EDGAR MOREAU ジョヴィンチェロ~バロック協奏曲集 Erato(2015)

 『ジョヴィンチェロ~バロック協奏曲集』『PLAY~チェロ少品集』の2枚がリリースされた。「ジョヴィンチェロ」はハイドンヴィヴァルディボッケリーニとチェロ協奏曲の初期の傑作を集めているが、その他にジョヴァンニ・ブラッティ(1697~1763)、カルロ・グラツィアーニ(?~1787)というあまり知られていない作曲家の作品も収録。特に後者は世界初録音である。モローのチェロの魅力は伸びやかに歌うところ。バロック期の作品での生き生きとした表現が爽やかさを感じさせる。「PLAY~小品集」ではチェロの定番的な小品を集めているが、それぞれの作品の個性を見事に表現しており、次から次へと現れる風景の変化に驚く。演奏の多様性は、モロー独自の魅力だ。特にフォーレの「エレジー」、プーランクの「愛の小径」などは聴きごたえある演奏となっている。

 4枚のアルバムを一気聴きすると、新しい時代の表現の可能性ということを考えなくてはいけない気持ちにさせられる。時代はとても速く動いているのかもしれない。

EDGAR MOREAU PLAY ~チェロ小品集 Erato(2014)