超絶技巧連発のオッフェンバックとグルダでチェロの新世界を開くモロー

 フランスのオペレッタの創始者と言われるジャック・オッフェンバック(1819~1880)。実はドイツ生まれで、天才的なチェロ奏者であり、チェロを学ぶためにパリにやって来た。作曲活動の初期にはいくつかのチェロ曲を残しており、中でも難曲として知られるのが《チェロ協奏曲ト長調》だ。『軍隊風』のサブタイトルでも知られている(1847年作曲)。現在でもほとんど演奏されない作品だが、それをこの10月に東京都交響楽団と共にフランスの若きチェリスト、エドガー・モロー(1994~)が“日本初演”した。

 「ヴァイオリンで言えばパガニーニに並ぶようなヴィルトゥオーゾの作品で、誰も演奏出来ないようなパッセージが次々と登場します。難しさの連続技とも言える曲で、チェリストにとっては大変なチャレンジですが、それを日本で初演出来たということはとても光栄です。難しさだけでなく、オペラやオペレッタを書いたオッフェンバックだけに、リリカルな部分ではテナー歌手が歌う『愛の歌』のようなイメージもあり、演劇的な視点も感じる興味深い作品です」

 とモローは語る。彼はすでにこの曲を録音しているのだが、フリードリヒ・グルダの《チェロ協奏曲》(ハインリヒ・シフのために書かれた)とカップリングされているのも面白い。

 「オッフェンバックとグルダの作品は“2つのエクトリーム(注・極端なものの意味)”と言えるでしょうね。グルダの作品もシフを想定して書いただけあって、テクニック的にも非常に難しい。と同時に、まさにグルダその人を表現するような自由さに満ちていて、ウィーン郊外の牧歌的な世界があれば、サーカスのような音楽もあるし、クラシックとジャズ、ロックをミックスした音楽が展開されています。それは常に反逆者精神を持っていたグルダらしいものです」

 その録音の共演者にも注目したい。ラファエル・メルラン指揮のレ・フォース・マジュール。メルランはエベーヌ弦楽四重奏団のチェロ奏者として活動する一方、作・編曲家、指揮者としても活動している。

 「エベーヌ弦楽四重奏団とはシューベルトの五重奏曲などで何度も共演をしているので、メルランとは親しい関係です。レ・フォース・マジュールは室内楽をメインに活動する弦楽器奏者を中心に結成されたオーケストラで、特に“お互いを聴き合う”という点で素晴らしい能力を持ったオーケストラ。そこにロック界で活躍するギタリストなどを加えて、作品にぴったりとあった編成で録音することが出来ました」

 とモロー。彼自身も常にチャレンジを忘れない精神の持ち主。時代を変えつつあるチェリストに注目だ。