21世紀のトラッド
クロノス弦楽四重奏団の新譜はアメリカのフォーク・ソング(民謡)を弦楽四重奏とそれぞれの曲に一人のシンガーをゲストに迎えたアルバム。初めて聴いた時、ジョン・タヴァナーのビョークの為に作曲された中世音楽風の室内歌曲を思い出したが、このアルバムはそれからもう一歩進んでいる。本当に新しい! クラシックや現代音楽風の響きはここにはない。クロノスのバックグラウンドはクラシックだが、スウェーデンのフィドル、ルーマニアのヴァイオリン、ブルースのヴァイオリンなど様々なスタイルをしっかりとマスターしている。それを感動的に表現できるクラシック系のプレイヤーは今まで中々いなかった。日本にこんなプレイが出来る人が今いるだろうか? もし、いたら聴かせて欲しい!
曲は英国のトラッド風の曲が多い。中世音楽のモードが聴こえて来る。アメリカの伝統音楽もそこがルーツだ。歌詞の物語とメロディが本当に生きるアレンジになっている。こうした曲のアレンジに勉強になるアルバムだ。
このアルバムでギターの弾き語りで2曲参加しているサム・アミドンも、同じくNonesuchから新譜が出た。聴くと、21世紀のニック・ドレイクだろうかと思わせる。声の質が似ている。ニックは1970年代に独特のオープン・チューニング・ギターを使って、静かで詩的で内向的な音楽の弾き語りを室内楽やジョン・ケールやフェアポートの伴奏アレンジでアルバムを作っていたイギリスのシンガー・ソングライター。サムも曲によってはオープン・チューニングで演奏していて、Twitterで彼のファンがチューニングについてディスカッションをしたりして、注目を集めているようだ。イギリスのトラッドに基づいている弾き方だ。こうした曲はAyuoのオープン・チューニングのワークショップで教えているので、ご興味がある方はご連絡ください! アレンジは21世紀のものである。歌い方と彼のプレイはシンプルで静かだが、様々なサンプリングや生の弦楽器が複雑にコラージュされしている。時には前衛的であったりもする。70年代のニックと現代のサムを聴き比べれば、その時代の響きの違いが伝わって来る。