初のシューベルトの歌曲集で味わい深く情感豊かな美声を遺憾なく発揮
フランスの名ソプラノと称されるナタリー・デセイは、長年オペラ歌手として活躍したが、近年はピアノのフィリップ・カッサールと組んで歌曲の世界で活動。歌詞の深い表現と特有の美声で聴き手を魅了している。新譜は『シューベルト:歌曲集』。4月の来日公演ではシューベルトを含む幅広い作品で感動を生んだ。
「私が歌曲をうたうようになったのは、フィリップとの出会いからです。彼はドビュッシーのまだ公表されていない歌曲を携えて、私にうたってほしいと提案したのです。すぐに断りましたよ。だって、私が歌曲をうたうなんて、想像もつかなかったからです」
しかし、カッサールは諦めなかった。根負けしたデセイは、やがて歌詞と音楽の美の融合に魅了されていく。
「私は昔から演技をすることが好きで、芝居をする俳優を目指していました。でも、なかなか機会に恵まれず、声の方を認められたわけです。歌を始めたのは20歳過ぎてから。作品の勉強は大変でしたよ。ですからオペラでも、演技にとりわけ力を注ぎました」
こうしてオペラ界で活躍するようになったデセイは、「ホフマン物語」のオランピア、「ランメルモールのルチア」「椿姫」などの当たり役を生み出していく。
「私は声が小さかったのでいかに大きな声を出し、丸みを帯びた声にするかで苦労し、何年間もこの問題と闘いました。いま、歌曲では自然な声量と表現でうたえるようになり、ようやくシューベルトの録音にこぎつけたわけです。シューベルトの歌曲は600曲もあり、そのなかからフィリップと吟味し、有名な曲とあまりうたわれない曲とを組み合わせました」
NATALIE DESSAY 『シューベルト: 歌曲集』 Sony Classical/ソニー(2017)
デセイ初のシューベルト『歌曲集』は多彩な声が存分に味わえ、カッサールのピアノとの見事な音の対話が堪能できる。今回は、カッサールと20年に渡って共演を重ねてきたオーストリアのバリトン、ヴォルフガング・ホルツマイアーが助言役として加わった。
「ヴォルフガングは長年シューベルトの歌曲をうたい、作品を知り尽くしています。彼は私を勇気付け、ドイツ語の歌詞やフレージングの助言をしてくれ、多くの知識と呼吸法を授けてくれました。私は11歳からドイツ語を学び、ウィーンやミュンヘンで暮らしていますから親しみのある言語ですが、詩の表現となると、より深い語彙力が必要となるのです」
今後、芝居の予定が数多く入っているそうだが、歌手として次に視野に入れているのはヴォルフの歌曲。「これもまた深い詩の内容と旋律の難しさが伴う作品。時間をかけてじっくり取り組んでいくわ」と語る。ミシェル・ルグランとのコラボレーションも予定され、これはワールドツアーが組まれているそうだ。