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 1990年のデビュー以来、主に超絶技巧を駆使した難易度の高い役柄で世界中の歌劇場を席巻し、アリア集やオペラ全曲盤でも常に高い評価を得るなど、シーンの頂点を極めたスター・ソプラノ。4月には同じフランス出身の名ピアニスト、フィリップ・カサールとのデュオ・リサイタルで東京の聴衆を魅了した。「昨年、もうオペラはやらない宣言をしてやっと解放されたので、これからはどんどんリサイタルをやってみたい。“引退”にネガティヴなイメージはなく、今は目の前に広がる新しい世界にワクワクしています」

NATALIE DESSAY,MICHEL LEGRAND ミシェル・ルグランをうたう ERATO(2013)

 オペラの舞台では“狂乱の場面”のヒロインなど、入魂の演技でも絶賛を集めていた彼女が、歌曲の世界にどのようなアプローチで臨むのか大いに注目された。「私は本来、自分をとことんまでさらけ出し、追い詰めるような表現に喜びを見出していくタイプではないのです。今いちばん心掛けているのは、ステージの上から作品を聴衆に届ける良き仲介者になりたいということ、私ではなく曲と歌詞の世界をじっくり味わってもらえるような。特にフランスの偉大な詩人たちの作品は、作曲家の手で歌曲となり演奏家を通じて表現されることで解釈が生まれ、文字だけの時とはまた違う魅力が生まれると信じています。またドイツ・リートは一曲の中にも起承転結があり、筋立てがはっきりしたものが多くて、一見歌いやすいのですが、だからといって、例えば曖昧で難解な19世紀後半の象徴詩によるフランス歌曲よりも劣っているとか、もしくは優れているとかいう比較はできません。私自身は歌曲の世界にはいつも物語が存在していると思うし、それを感じつつ歌うのが好きです。ドイツ・リートにはまだ足を踏み入れたばかりですが、これからも研鑽を積んでその奥深い世界を進んでいきたいと考えています」

【関連動画】ナタリー・デセイとミシェル・ルグランの2013年作
『ミシェル・ルグランをうたう 』収録曲“Les moulins de mon cœur”

 

 巨匠ミシェル・ルグランとのコラボも継続中で、好評だった前作のソングブックに続き、シューマンの連作歌曲《女の愛と生涯》の現代版のような作品を録音する企画も進んでいるとか。一方で新譜はイスラエルのギター奏者、リアット・コーエンを中心に女性4人で制作したブラジル音楽アルバムと、これまた新境地。

NATALIE DESSAY & FRIENDS リオ⇔パリ ~ブラジルへのラヴ・コール ERATO/ワーナー(2014)

 「コーエンさんから話をいただいた時に、すぐ興味を持ちました。ヴィラ=ロボスからボサノヴァの名曲まで収録したとてもユニークな自信作です。ルグランさんとの第2弾はアランマリリン・バーグマン夫妻を作詞家に迎えたプロジェクトで、凄く楽しみにしていますが、少し進行が遅れているようです(笑)。カサールさんとも近々フランス歌曲集の第2弾を録音する予定…と、やりたいことはたくさんありますが、声のことを第一に考え、無理をせず挑戦を続けたいですね」

【関連動画】ナタリー・デセイ &フレンズの2014年作『リオ⇔パリ ~ブラジルへのラヴ・コール』PV