作曲家シューベルトは若かったことを痛感する。人間的な、私たちに身近に思える喜怒哀楽の表現が心を打つ。デセイによる初の全編シューベルト、かつドイツ語歌曲というアルバム。クラシック音楽という伝統の重圧を脱して、音楽を気持ちよく表現しているところに、突如クラシックの王道の録音。驚きを覚えたのは私だけではないはず。どんな歌かあれこれ予想しながら聴いた。歌声の色合いの変化による感情の濃淡の表現が自在で引き込まれる。色彩の変化はフィリップ・カッサールのピアノの支えもあってこそ。ジャズで評価が高いクラリネットのトーマス・サヴィが加わった“岩の上の羊飼い”も華を添える。