まさかの緊急来日が決まったベックを筆頭に、今年リリースした傑作『Flower Boy』を引っ提げてカムバックするタイラー・ザ・クリエイター、新世代サイケデリック・ロックを牽引するポンドとテンプルズ、メジャー・レイザーとのコラボで出世を果たしたデンマークの歌姫ムー、それぞれ2010年/2015年の〈フジロック〉ぶりに日本の地を踏むマッシヴ・アタックとミューズなどなど、注目の来日公演が続く2017年の秋。これだけの来日ラッシュが起こるひとつの要因としては、同じアジア圏の香港で毎年11月後半に開催されるフェスティヴァル〈Clockenflap〉が、年々規模を拡大しながらそのブランド力と存在感を高めていることにあるでしょう。事実、ここ数年は〈Clockenflap〉と日本をハシゴするアーティストが格段に増えており、先述のポンド、テンプルズ、ムー、マッシヴ~らは、今年の同フェスへの出演が決定しています(他の来日組ではカシミア・キャットやティナリウェン、ヤング・ファーザーズといった名前も!)。
お財布事情もスケジューリングも悩ましい季節ですが、筆者が全身全霊でオススメしたいプランは、11月20日(月)~11月28日(火)――1週間と1日という短い期間に間髪入れず来日するファイスト、ミツキ、そしてシンズという北米インディー3連発。彼らの日本公演がいかに貴重で観逃し厳禁なのか? その理由を解説していきましょう。
ファイスト
個人的にもっとも心躍ったのがファイスト来日決定の知らせでした。〈Clockenflap〉で最初にヘッドライナーとして出演がアナウンスされた時点で少し期待はしたものの、彼女が最後に日本へやって来たのは2007年の〈フジロック〉なので、実に10年ぶり(単独としては2005年の初来日から12年ぶり!)。そのときは夕暮れ間近のオレンジコートを舞台に、儚くも麗しいフォーキーな歌声でオーディエンスを魅了。彼女もメンバーとして名を連ねるカナダの音楽集団、ブロークン・ソーシャル・シーンの首謀者=ケヴィン・ドリューが急遽飛び入りするなど、終始アットホームな雰囲気だったことを憶えています。
ところが、フジの直後に『The Reminder』(2007年)に収録されたシングル“1234”が、iPodのCMソングに抜擢され世界的な大ヒットを記録。あれよあれよという間に北米シーンを象徴するシンガー・ソングライターとして脚光を浴び、その後はウィルコの作品やベックが主催するカヴァー企画〈レコード・クラブ〉に参加、果てはメタル・バンドのマストドンとお互いの楽曲をカヴァーし合うなど、八面六臂の活躍を見せることになります。ジェイムズ・ブレイクのライヴ・レパートリーとしてお馴染みのカヴァー曲“Limit To Your Love”の本家本元として、ファイストの存在を知ったという読者も多いのでは?
2011年の4作目『Metals』以降はすっかり日本とは疎遠になっていた彼女ですが、今年4月にリリースされた最新作『Pleasure』がいわゆるSSW然としたナチュラルな手触りとは程遠いヘヴィー&ダークな仕上がりだったので、生バンドでどのように再現するのか興味は尽きません。盟友チリー・ゴンザレス&モッキーをはじめ、ホーンの魔術師コリン・ステットソンらの客演も話題になりましたが、やはりジャーヴィス・コッカーの演説をフィーチャーした“Century”の痙攣を起こしたようなアンサンブルが白眉。MVの冒頭で〈世紀〉という漢字タイトルも併記されていてニヤリとしますが、以下に掲載したテレビ出演時のライヴ・パフォーマンスも狂っていて最高なのでぜひチェックを。トリッキーなドラムスの配置といい、叩きつけるようなギター・ストロークといい、何度見てもゾクゾクします(オリジナルとは異なる演説シーンにもご注目!)。ちなみに、最近のライヴでは単独公演でのみ“1234”をプレイしている日もあるので、往年のファンもマスト・ゴーでしょう。
〈Feist Japan Tour 2017〉
2017年11月20日(月)東京・赤坂BLITZ
開場/開演 18:00/19:00
前売り 1F(スタンディング)¥6,500/2F(指定席)¥7,500(いずれもドリンク代別)
2017年11月21日(火)大阪・心斎橋BIG CAT
開場/開演 18:00/19:00
前売り ¥6,500(スタンディング/ドリンク代別)
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ミツキ
昨年6月にリリースした4枚目のアルバム『Puberty 2』が、欧米の主要メディアで軒並み年間ベスト・アルバムに選出されるなど、2016年の北米インディー・シーンにおける時代の寵児となったミツキことミツキ・ミヤワキ。その名の通り、彼女は日本人とアメリカ人の血を引くハーフで、現在の拠点であるニューヨークへと移り住むまでは、コンゴ民主共和国、マレーシア、中国、トルコといった国を点々としながら育っていたそうです。
母親のCDコレクションにあった、山口百恵など70年代の日本の歌謡曲を愛聴していたというミツキですが、その音楽性はウィーザーも引き合いに出されるほどキャッチーでファジーなオルタナティヴ・ロックとフォークの融合。彼女の代表曲となった“Your Best American Girl”のメロディー運びを初めて聴いたとき、筆者は真っ先に椎名林檎の“ギブス”を連想したのですが、つい最近Twitterでのファンとのやり取りで、中島みゆきや松任谷由実と並んで椎名林檎からの影響も公言していたので驚きました。もちろん、複数のアイデンティティの狭間で揺れる彼女だからこそ書ける愚直なストーリーもまた、世界中のリスナーの心を捉えて離さない魅力のひとつです。
来日公演というより〈凱旋公演〉と呼んだほうがしっくりくるものの、昨年12月の初来日公演はライアン・アダムスによる奇跡の日本単独ライヴとバッティングしていたので、泣く泣く諦めたという読者も少なくないでしょう。今回は昨年のソロ・アコースティックとは異なるバンドを率いた完全体のセットであり、キャリア初の京都公演も予定されているので関西のファンにも朗報です。しかも、10月にはなんとピクシーズの北米ツアーにサポート・アクトとして帯同するそうなので、今回の来日時では脂の乗り切った素晴らしいパフォーマンスを見せてくれるはず。実は、筆者は7月にLAで開催された〈FYF Fest〉で一足お先にバンド・セットを堪能してきたのですが、3ピースとは思えぬゴリッゴリの音圧に度肝を抜かれました。〈去年見たからいいや〉とスルーしたら後悔しますよ!
〈Mitski JAPAN TOUR 2017〉
2017年11月24日(金)東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演 18:00/19:00
前売り ¥5,500(ドリンク代別)
2017年11月25日(土)京都・丸太町CLUB METRO
開場/開演 17:00/17:30
前売り ¥5,500(ドリンク代別)
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シンズ
今年の夏フェスでリアル・エステートやホイットニーの歌心に触れて、〈やっぱUSインディー最高だわ〜〉と感じた読者こそ必見なのが、ポートランドを拠点とする20年選手の大ヴェテラン、シンズの来日公演。彼らは2007年のホワイトステージ、2012年のレッドマーキー(最終日の大トリ!)と2度〈フジロック〉で来日を果たしていますが、単独公演としてはちょうど10年ぶり。それも、今回は東京一夜限りという超スペシャルなライヴとなっています。
何と言ってもシンズの魅力は、ノスタルジックで美しいメロディーラインに、ビーチ・ボーイズさえ彷彿とさせるヴォーカル・ハーモニー、そしてちょっぴりユーモラスな歌詞世界にあると言えるでしょう。ザック・ブラフの映画「終わりで始まりの4日間」(2004年)にフィーチャーされた“New Slang”を筆頭に名曲も多く、お馴染みサブ・ポップからメジャー移籍後に放った4作目『Port Of Morrow』(2012年)では、グラミー賞の〈ベスト・オルタナティヴ・アルバム〉にノミネートという快挙を成し遂げました。はっきり言って、本国では日本とは比べものにならないほど強固なファン・ベースを持っているのです。
現在のオリジナル・メンバーは、デンジャー・マウスとのユニット=ブロークン・ベルズも掛け持ちするジェイムズ・マーサー(ヴォーカル&ギター)のみ。ベックの『Modern Guilt』(2008年)ツアーにも参加した才媛ジェシカ・ドブソンや、ブラック・キーズのサポートも努めるマルチ奏者リチャード・スウィフトが脇を固めた前回のフジが素晴らしい内容だっただけに、期待と不安が半々……というファンもいるかもしれません。でも、今年3月にリリースされたセルフ・プロデュースの最新作『Heartworms』を引っ提げてのツアーは、バンドの集大成とも呼べる風通しの良いステージとなっているのでご安心を。その証拠に、アルバムのオープニングを飾る“Name For You”の車中セッションの映像をご紹介します。アコギ1本と声だけで成立してしまう至福のハーモニーはシンズの真骨頂ですが、来たる東京公演でも、これを超えるぐらい温かなヴァイブで迎えたいものですね。
〈THE SHINS JAPAN TOUR 2017〉
2017年11月28日(火)東京・渋谷CLUB QUATTRO
開場/開演 18:00/19:00
前売り ¥6,500(ドリンク代別)
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冒頭で述べた〈Clockenflap〉が、日本ではなく香港で開催されていることからもわかるように、年々欧米のビッグ・アクト、特にUSインディー系の来日公演は減少傾向にあります。そんな中で、1週間ちょっとの間に本稿で取り上げた、いま観ておきたい3組のライヴが一気に体験できてしまうというのは、ある意味とても贅沢なことです(彼らがアメリカで今ツアーと同キャパ規模の公演を行えば、間違いなくチケットは争奪戦)。もし、ちょっとでも参加を迷ったライヴがあれば、多少ムリしてでも行くことをオススメします。その経験はきっと、あなたの音楽ライフを豊かにしてくれることでしょう。