伝説的名著の翻訳出版でディーリアスの本質に迫る注目のプロジェクト!
両親はドイツ人でイギリス生まれ、20代前半でオレンジ栽培のためにアメリカへ渡って黒人音楽に触れ、ヨーロッパに戻ってからはドイツの音楽院で学び、最終的にはフランスに移り住んで本格的に作曲家としてのキャリアをスタートさせた……そんな作曲家をご存知だろうか。あるいは晩年、盲目と全身麻痺に苦しみながらも弟子に口述筆記させることで作曲しつづけた作曲家は?
答えはイギリス近代の作曲家、フレデリック・ディーリアス。
クラシック愛好家のほとんどは《春初めてのカッコウの声を聴いて》や《夏の歌》などの作品名を聞いたことがあるだろうし、実際の作品を耳にしたことがあるという人も少なくないはずだ。だが冒頭の問いに答えられた人は、それほど多くないのではないだろうか。ディーリアスはビーチャムをはじめとする英国人指揮者の商業録音が数多く存在する一方で、日本語で読むことのできる文献が少なく、我々にとって全貌をつかむのが困難な作曲家であったといえるだろう。
音楽ジャーナリスト、林田直樹さんの主導により今年の夏より進められている「ディーリアス・プロジェクト」は、そんな日本におけるディーリアス受容の状況を大きく変える可能性を秘めた素晴らしい企画である。メインとなるのは弟子フェンビーによる伝記『Delius as I knew him』の日本語訳出版。併せて英国在住のヴァイオリニスト、小町碧さんによるヴァイオリン・ソナタの全曲演奏会も予定されており、こちらは翻訳者による演奏という点でも見逃せない。そして本稿で紹介する、ワーナー・クラシックスならではの貴重な音源を用いたオフィシャルCDの発売。フェンビー自身による演奏(指揮・ピアノ)を含む、伝記の内容に沿った形での収録という点がポイントである。ディーリアスの魔法のような音楽は、実際に音を聴いて体感することが重要。ぜひ伝記とのセットで手に入れて、楽しみながら理解を深めていただきたい。
LIVE INFORMATION
真実のディーリアス ~小町碧 出版記念リサイタル~
○11/1(水)19:00開演
会場:銀座・王子ホール
出演:小町碧(vn)米津真浩(p)
曲目:ディーリアス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタロ長調(遺作)/ディーリアス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番/第2番/第3番