QUEENS OF POP
[ 緊急ワイド ]ポップの淑女たち
メインストリームの女王たちが動きはじめた。さまざまな状況の変化を超えて獲得した表現は、宝石よりも輝いている……

★Pt.2 KELLY CLARKSON『Meaning Of Life』
★Pt.3 P!NK『Beautiful Trauma』
★Pt.4 MILEY CYRUS『Younger Now』

 


 

FERGIE
11年ぶりのアルバムで決意のカムバック――彼女はどこまでも強気だ!

 いろいろな社会風俗、ファッションや音楽などをディケイドで括って、次は90年代だ、また80年代だ、なんて20世紀のスタイルが繰り返さし語られることの多い昨今。そういう目線で単純に王道のポップ・シーンを眺めた際に、何かが足りないと思う人は多いのではないだろうか。単純に言うと、ウィル・アイ・アムやエイコンがクロスオーヴァー志向を持って躍進し、ジャスティン・ティンバーレイクやブリトニーが先鋭化し、プッシー・キャット・ドールズのような存在もいて、ダンスホール・レゲエやソカとの相互乗り入れもあって、なおかつそれらすべてがまだ過剰なアイコンとしての共有を免れていたような時代。近過去なだけに却って古く感じる部分もあるだろうが、そういったアーバン・ポップ志向の面々によって一般化されたフォーマットが、EDM以降の新風が吹き込む下地になっていたのは明白だろう。そして、その時代の圧倒的なスタイルを力強く規定していったひとりといえば、間違いなく2006年のファーギーである。

 

時代を作った紅一点の時代

 もともとアニメの声優や子役として活動を始めており、75年生まれの42歳にしてすでに30年以上のキャリアを誇るステイシー・ファーガソン。90年に友人のガールズ・グループに加入してトリオで活動を続け、彼女たちはワイルド・オーキッドの名で97年にメジャー・デビュー。ただ、活動の最中でドラッグ問題を抱えていた彼女は2001年にグループを脱退。ふたたび下積みに戻る中でブラック・アイド・ピーズ(BEP)のウィル・アイ・アムと出会い、レコーディングに参加することになる。そのプロセスで意気投合すると、2003年の『Elephunk』から正式メンバーとしてBEPに加入したのだった(実際に正式メンバーにするよう提案したのはジミー・アイオヴィンだったらしいが)。

 コアなヒップホップ・ファンに愛されながらも伸び悩んでいたBEPは、アイコニックなファーギーを加えたことで個々のキャラクタ性をアップして一気に躍進する。生まれ変わったBEPは肌の色も性別も混在するユニークなグループになった。ウィルのサウンド・アプローチが格段に多彩かつ自由になったのも、そんな新生ぶりを受けてのものだっただろう。完全に最初から作り上げたアルバム『Monkey Business』(2005年)の記録的なヒットによってBEPはブレイクを果たすことになる。その後に控えていたのは紅一点として熱い視線を浴びるファーギーのソロ展開だった。

 ウィルが監督する形で制作されたソロ・デビュー作『The Dutchess』は、当時のトレンドを牽引するような“London Bridge”や“Glamorous”“Fergalicious”“Big Girls Don't Cry”“Clumsy”といった5曲のシングルすべてが全米TOP5入りし、さらに同一アルバムからのシングル5曲がすべてマルチ・プラチナに輝くという新記録を樹立(記録はその後ケイティ・ペリーが更新)。アルバムも全世界で800万枚超のセールスを記録するモンスター・アルバムとなった。その後に再結集したBEPは『The E.N.D』(2009年)と『The Beginning』(2010年)でそれ以上の成功を収めつつ、結果的にはEDMの北米上陸に先駆けて基礎工事を整える格好にもなった。世界中を駆け巡ったBEPは活動休止に入り、その間の2009年に長く交際していた俳優のジョシュ・デュアメルと結婚したファーギーは、2013年の出産を機にしばらく活動をセーヴすることになった。

 そこからのカムバック・ソングとなったのが、2014年の“L.A. Love(La La)”だ。気鋭のYGをフィーチャーしてDJマスタードを共同プロデューサーに据えるという当時の旬なLAサウンドを標榜したハイフィー風味のこの地元讃歌は、アルバムへの期待を大いに高める役割を果たすものでもあっただろう。ただ、二の矢となる“M.I.L.F. $”が出たのはそれから2年経った2016年のこと。〈M.I.L.F.〉とは〈Moms I'd Like to Follow: フォローしたくなるママたち〉の略で、キム・カーダシアンやシアラ、デヴォン青木ら実際に〈ママになったセレブ〉たちが多数出演したMVも話題になった。今風の野太いトラップを易々と乗りこなすこの曲で仕掛けたのはかつて“London Bridge”などを手掛けたポロウ・ダ・ドンで、アクの強いラップ交じりの歌唱を聴かせる主役の姿も完全復調を窺わせる。この年には〈サマーソニック〉で来日も果たす彼女だが、それに前後して発表された3枚目のシングル“Life Goes On”は、トビー・ガッドとキース・ハリスの手によるレゲエ×トロピカル・ハウス仕立てのトラックだった(トリスタン・プリティマンとの共作)。

 

変わらない表現の真髄

FERGIE Double Dutchess Dutchess/BMG/ワーナー(2017)

 ここまでのシングル3タイトルは休止前と変わらずウィル・アイ・アム(レーベル)を経由してインタースコープから出ていたものの、今年に入ってから出た4枚目のシングル“You Already Know”はBMG流通でファーギー自身が設立した新レーベル=ダッチェスにリリース元がいきなり変更されることに。とはいえ、逆にこちらのプロデュースは満を持してウィルが手掛けており、ロブ・ベース & DJ E-Zロック“It Takes Two”をそのまんま聴かせたヒップ・ハウスは、JJ・ファッドをリメイクした“Fergalicious”をも想起させる、いかにもウィルらしくファーギーらしい出来映えだ。レーベルの離脱に関しての詳細な声明などはないものの、単純にいまは別行動を取っている程度のものなのだろう(2015年にBEPが突如発表した“Yesterday”も男性メンバー3名によるものだった)。このようにいささか長すぎる前フリを経て登場したのが、実に11年ぶりとなったセカンド・アルバム『Double Dutchess』である。リック・ロスを従えた冒頭のダークでドープなトラップ“Hungry”から強気な姿勢が頼もしく、続くウィル制作の“Like It Ain't Nuttin'”は“Top Billin'”など数々のヒップホップ・クラシックを盛り込んだ“Yesterday”的な構造の、これまた非常にウィルらしいラップ・チューンとなっている。ウィル本人の関与はこれと先述の“You Already Know”のみに止まっているが、多くの曲で共作者に名を連ねるヴィーナス・ブラウンやキース・ハリス、ジョージ・パジョンJrらはウィル~BEPのブレーンでもある面々であって、やはりそのへんはあまり心配することでもないのかもしれない。

 そのようにリリース環境の変化に伴う影響はさほど感じられないものの、リリースを見計らったように公表されたジョシュ・デュアメルとの離婚は恐らくここに大きな影を落としているのではないか。リリースそのものの遅れにも関係があったのかもしれないし、レゲエの“Love Is Blind”から悲痛な紫雨ソウル“Love Is Pain”(コーラスのコード感がBEPの“Where Is The Love?”と同じなのも意味深……)へ続く本編ラストの流れは示唆的なようにも思えてくる。ともかく、アレッソによるディスコの“Tension”なども含め、前作にも劣らぬ振り幅の広いゴージャスな表現が楽しめるアルバムなのは間違いないだろう。

 

『Double Dutchess』に参加したアーティストの作品を一部紹介。