QUEENS OF POP
[ 緊急ワイド ]ポップの淑女たち
メインストリームの女王たちが動きはじめた。さまざまな状況の変化を超えて獲得した表現は、宝石よりも輝いている……

★Pt.1 FERGIE『Double Dutchess』
★Pt.3 P!NK『Beautiful Trauma』
★Pt.4 MILEY CYRUS『Younger Now』

 


 

KELLY CLARKSON
オリジナル・アメリカン・アイドルが新天地でソウルフルに覚醒!

 日本で放送されなくなってからは往時ほど気に留める人もいなかっただろうが、オーディション番組として隆盛を誇ったFOX局の「アメリカン・アイドル」が昨年で終了した(実際は視聴率低迷を受けて打ち切られ、局をABCに移して復活するそうだ)。もともと英国の「ポップ・アイドル」からフォーマットを流用して2002年に始まった同番組は、さまざまなアーティストを輩出しながら15年近くに渡って継続してきた。現在ではSNS経由で見い出された逸材がフックアップされることも珍しくなくなっているし、何なら大手にフックアップされる必要もない時代になっていると言える。とはいえ、番組が始まった頃は、オーディションの過程を覗き見ることができ、トップ・スターの誕生に寄与できるという視聴者参加型のシステムは画期的なものとして受け止められたはずだ。もっとも、その間には「The X Factor」や「America's Got Talent」、さらには「The Voice」といった類似の新興番組に人気を奪われていったこともあり、番組が全盛期を過ぎていたのは確かだろう。で、何を言いたいのかというと……そんな栄枯盛衰ぶりとシンクロするかのように、初代「アメリカン・アイドル」のケリー・クラークソンが、15年在籍した19/RCAを離れてアトランティックに移籍したのである。

 

シンデレラじゃいられない

 ケリー・クラークソンといえば、グラミー3冠の受賞をはじめ、アメリカン・ミュージック・アウォードやMTVのVMAなど数々の栄冠を手にしてきた、21世紀のアメリカが選んだ最初の正統派ポップ・ディーヴァである。2002年放送の「アメリカン・アイドル」最初のシーズンを制した彼女は、すぐにサイモン・フラーの主宰する19を経由してRCAとメジャー契約を結ぶ。シーズン終了から程なくしてリリースしたデビュー・シングル“A Moment Like This”はすぐさま全米1位に輝いた。それは番組の躍進が約束された瞬間でもあっただろう。絵に描いたようなシンデレラ・ストーリー、もしくはオーヴァーナイト・サクセス。彼女の飛躍は番組をプロモートする役割として適任だったのだ。

 2003年のファースト・アルバム『Thankful』も当然のように全米No.1を記録。当初は正統派すぎるきらいもあったものの、Drルークとマックス・マーティンが剛腕を揮った翌年のセカンド・アルバム『Breakaway』で見事に脱皮。チャートこそ全米2位に終わったものの本国だけで700万枚のセールスを上げ、代表曲“Since U Been Gone”や“Breakaway”のヒットも輩出するキャリア最大のヒット作品となった。以降もアルバムを出すたびに大きな成功が舞い込んできたものの、ケリー自身はいつもオーディション上がりというシンデレラ像を払拭するためにもがいてきたように思える。

 2009年の4作目『All I Ever Wanted』は全米1位に返り咲き、デビュー曲以来となるNo.1シングルにして指折りの名曲“My Life Would Suck Without You”も誕生。2010年代に入ってからも安定感は抜群で、この頃になると流石に番組の影響からは完全に脱していたのだろう(なお、この頃になると「アメリカン・アイドル」優勝者でもブレイクできない状況になっていた)、2011年の5作目『Stronger』からは“Stronger(What Doesn't Kill You)”がまたも全米チャートを制覇。2013年には私生活でも結婚という慶事に恵まれ、出産を経てのカムバック作にあたる7枚目のアルバム『Piece By Piece』(2015年)も全米1位に輝いた。そして、それがRCAへの置き土産となったのだった。

 移籍先に選んだアトランティックといえば、レッド・ツェッペリンやロッド・ステュワートを育んだロック・エラの最重要レーベルであり、レイ・チャールズらを送り出したソウル・ミュージックの先導ブランドでもある。そして、ケリーにとっては、憧れのアレサ・フランクリンをブレイクさせたレーベルとして思い入れがあったという(本人いわく、実の父親がアレサやホイットニー・ヒューストン好きだったそうだ)。そんな思い入れもあるレーベルから最初にリリースしたのは、配信オンリーで出たライヴ曲集の『Kelly Clarkson Live』。それから満を持して登場する新天地での最初のアルバムが、このたびリリースされる『Meaning Of Life』なのだ。

 

さらなる王道の歌姫に

KELLY CLARKSON Meaning Of Life Atlantic/ワーナー(2017)

 今回の『Meaning Of Life』は、先述の『Piece By Piece』から約2年ぶりとなる通算8作目。エグゼクティヴ・プロデュ=サーはクレイグ・コールマンが担っている。資料にはアレサ・フランクリン、ベット・ミドラー、デビー・ギブソン、ブランディらアトランティックから生まれた実力派の名が並んでいて、レーベルとしてもその王道に彼女を位置づけるという意識なのだろうか。実際にアルバムでのケリーは、これまで以上に官能的でソウルフルな歌唱を披露し(恐らくはアデルのリスナー層をターゲットにしている部分もあるのではないか)、純粋に実力派シンガーとしての原点/本性を改めて前面に出している。

 アルバムのファースト・シングルとなったのは、力強くアップテンポな“Love So Soft”(ケンドリック・ラマーらを手掛けるデイヴ・マイヤーズ監督のMVも話題だ)。こちらはケリーの前作で“Take You High”をコライトし、マドンナ『Rebel Heart』の多くの曲やマイリー・サイラス“Wrecking Ball”を書いたことで知られ、リアーナ、エリー・ゴールディング、リア・ミシェルら女性シンガー作品で頭角を表しているモーリーン・“モゼラ”・マクドナルドらが共作したナンバー。また、いままでにないほどの滋味深さでじっくり聴かせるゴスペル調の“Move You”は、アトランティック期待の新人モリー・ケイト・ケストナーのペンによる曲で、ニック・ルース(カーリー・レイ・ジェプセン、エリック・ハッスル、ザラ・ラーソン他)がプロデュースにあたった珠玉のバラードとなる。これら先行の2曲だけでもより懐の深くなったケリーの新章を感じることができると思う。

 アルバム全体の布陣は、彼女の音楽監督も務めるジェイソン・ハルバート、これまでの作品でも絡んできたジェス・シャトキン(リンキン・パーク、マット&キム他)、さらにはジェレマイを後見するミック・シュルツ、リタ・オラやクリス・ブラウンを手掛けるモナーク、そして説明不要のグレッグ・カースティン……と、ポップもアーバンも跨いだメインストリームのヒットメイカーたちが固め、ケリー自身も引き続きソングライティングに関わっている。多彩な楽曲を得て、過去からゆっくりと解き放たれたケリー・クラークソンは本当に大歌手になった。

 近年では子ども向けの本「River Rose And The Magical Lullaby」で作家デビューを飾り、NBCのTVシリーズ「American Dreams」でブレンダ・リーを演じるなど、歌の世界以外にも活動の幅を広げているケリー・クラークソン。そう思っていたら……何と来年2月から新シーズンが始まる人気オーディション番組「The Voice」で候補者たちのコーチを務めることも決定しているそう。新たな女王の活躍からもいよいよ目が離せなそうである。

 

ケリー・クラークソンの作品。