Joy Oppositesが11月8日に発表したセカンド・アルバム『Find Hell』は、彼らにとって飛躍の一枚となりそうだ。シンセ・サウンドを積極的に採り入れたモダンなプロダクションは、90sオルタナ色の濃厚だった前作『Swim』(2016年)と比べて、スケール感が大幅にアップ。結成からもうすぐ2年が経とうとしているなかで、〈元FACTのメンバーを含む4人組〉という枕詞も不要となりそうなくらい、ここでは強固なアイデンティティーが確立されている。
そんな進境著しいバンドの要を担うメンバーのAdam(ヴォーカル/ギター)が、このタイミングで対談相手として切望したのが、去る10月に新作『FATELESS』を発表したcoldrainのヴォーカリスト、Masatoだ。シーンを牽引してきた盟友同士であるばかりか、FACTの諸作を手掛けてきたマイケル“エルヴィス”バスケットを『FATELESS』のプロデューサーとして推薦したのは、他ならぬAdamだったという。今回は、そんな2人の縁を改めて振り返りつつ、お互いのバンドや新作について掘り下げていくことに。さらに、バンドの海外進出が進むことによって、新たな局面を迎えつつある日本のラウド・ロックについても大いに語ってもらった。
〈タイムレス〉でミドルテンポなメロディー
――そもそも、お2人はいつ頃知り合ったんですか?
Masato(coldrain)「最初の頃のAdamの印象は、バンドマンというよりも〈たまにフェスとかの会場にいるロン毛の人〉だったんですよ」
Adam(Joy Opposites)「そうだね(笑)」
Masato「coldrainはもう少しエクストリームなシーンにいたから、Adamが前にやっていたバンド(Versus The Night)のことはあんまりよく知らなくて。でもAdamの存在は知っていたし、気付いたらFACTにひとり増えていた※。実際に会ったのは、それより前だった気がするけど……」
※Adamは2012年にFACTに加入
Adam「Masatoは覚えていないと思うけど、俺はすごく覚えているよ。2010年の〈PUNKSPRING〉だった」
Masato「そうだっけ。でも言われてみれば、幕張(メッセ)だった気がする。Adamはまだロン毛だったでしょ?」
Adam「うん(笑)。そのときはクリエイティブマンのビデオ・インタヴューを手伝っていたんだよね。で、coldrainがフェスに出演していて、そこで初めて知った。そのときは友達じゃなかったし、話したこともなかったけど」
――実際に仲良くなったのはいつ頃なんですか?
Masato「そこから何年か経ってからですけど、AdamがFACTとより深く関わるようになったことが大きかったですね。当時のcoldrainはもっと対バンをしたかったんですけど、FACTはあまりライヴをやらないバンドというか、ツアーに出ない印象が強かった。しかも、いざライヴを一緒にやるようになったと思ったら解散したんですよ」
Adam「そうだね、(coldrainが主催した)〈BLARE DOWN BARRIERS 2015〉にも呼んでもらって。確かに、俺が加入するまでのFACTは、あんまり日本のバンドと対バンしてなかったと思う。それはレーベル側のポリシーだったんじゃないかな。最後のほうは、もうちょっといろんなバンドとライヴするようになったけど」
Masato「Crystal Lakeを交えて福岡でライヴしたこともあったし、〈これから一緒にやりたいね〉って空気になっていたのに、FACTの頭のなかでは解散が決まっていたみたいな。でも、その後も連絡は取り合っていたし、バンド活動を続けるという話も聞いていて。その頃にはすっかり友達になっていましたね」
――なるほど。
Masato「あんまりFACTの話ばかりするのもアレですけど、解散を発表してから急にライヴが良くなったんですよ(笑)。福岡で対バンしたときも、これからストップするバンドの空気じゃなかったし」
Adam「それはあったと思う、プレッシャーがなくなったからだろうね。でも、FACTが解散してJoy Oppositesになった去年の4月に、coldrainはSiMと一緒に水戸でライヴすることになって。家が近いから観に行ったんですよ。そのとき、Masatoが〈今年の秋にツアーをやるから、Joyを呼びたい〉と言ってくれて。まだ俺たちの音源も聴いていなかったのに、全国7か所もツアーに呼んでくれたんですよ。Joyのメンバーは、みんなとにかく喜んでいた」
Masato「友達の立場で見たときに、FACTの頃にはできなかった活動がJoyには絶対に必要だなと勝手に思ったんですよね。いきなりツアーに入ったほうが(バンドのコンディションは)絶対に良くなるだろうし、音源を聴いてなくてもAdamだったら大丈夫だと思っていたから」
Adam「そうだね、嬉しい」
――それでライヴのほうはどうでした?
Masato「FACTみたいな人気のあるバンドをやってきたのに、Joyは1ミリも媚びていなかったんですよね。以前とは別のバンドになったことが、ライヴを観てハッキリ理解できました。Adamもフロントマンとしてやってきたわけではないのに、MCがナチュラルでおもしろかったし(笑)」
Adam「ハハハハ(笑)」
Masato「そのときのツアーでJoyが上手くいくことは確信していたし、今回のアルバムも期待することができたんですよね。それに、Joyと同様に(FACTの元メンバーによって結成された)SHADOWSもまた、過去の自分たちを越えようとしているじゃないですか。FACTのメンバーは二手に分かれたけど、決して〈÷2〉になったわけではない。どちらも今のバンドとして成り立っていることは、一緒に対バンしてみてよくわかりました」
――ちなみに、Adamさんは〈FACTの頃にはできなかった活動〉って具体的にはどのあたりだと思いますか?
Adam「簡単に言うと、速くない曲(笑)。FACTではエネルギッシュで激しい音楽をやってきたけど、それ以外にも音楽はたくさんあるじゃないですか。せっかく新しいバンドをやるんだったら、以前とは違うことをやりたいなと思って。それこそ、自分がキッズの頃に聴いていたものみたいに、大人になっても聴ける音楽を作りたかった。だから、Joyで曲作りしているときは、〈タイムレス〉という言葉をいつも意識しています。それこそ、今回の『Find Hell』は前作よりヘヴィーでモダンな音作りをしているし、ミドルテンポの曲が多い。これはFACTの頃にはそこまでやれなかったことだと思う」
Masato「エックン(Joy OppositesのEiji/ドラムス)はたぶん、Joyではやらない速い曲をまた他のところでプレイしているんだろうしね。彼のドラマーとしての幅広さはありえないところにいってるから」
Adam「うん、俺もエックンは進化していると思う。ミドルテンポの曲をやるときは、聴き手を飽きさせないように、(リズムに)変化をつけないといけない。エックンは叩きながら、おもしろいところにアクセントを入れてくるんだよね。FACTの頃は速くてテクニカルな感じだったけど、Joyでは雰囲気のあるドラムを意識している気がする」
――coldrainも〈タイムレス〉は意識するものですか?
Masato「そうですね。俺たちの核となるのはやっぱりメロディーだし、どんな音楽をやっていようと、長く残るためには〈歌〉が大切になってくると思うんですよ。実際に自分たちが好きだったのは、ヘヴィーだけどチャートインしていた、わりとメジャー寄りな音楽なんですよね。だからこそ、普段ポップなものしか聴かない人たちにも、どうやったら自分たちの音楽を響かせることができるのかは考えるし、自分たちの曲をどのアーティストと並べてほしいか質問されたら、フー・ファイターズって答えると思う。それくらい幅広い層に訴えかけるメロディーにしたいから、〈タイムレス〉という言葉はいつも念頭に置いています」
Adam「特にcoldrainの新作『FATELESS』はいい意味で懐かしい感じがするし、曲がすごくいい。“A DECADE IN THE RAIN”がまさにそうだし、“BURY ME”もメロディーがかなりタイムレスだなって思う」
Masato「流行った音楽のなかでも、ユーズドやマイ・ケミカル・ロマンスの楽曲には、長く残りそうなメロディーがあったじゃないですか。新作ではそういう感じを狙いつつ、coldrainらしいヘヴィーさを加えていきました。そういう意味では、速い曲ってそこまで作ってこなかったんですよ。でも、僕らがバンドを始めた頃はメロコアやJ-Punkの文化が凄く残っていて、そういう人たちに聴いてもらうことを考えて、ファストな曲も用意していたけど」
Adam「今回の新作は、ファストな曲があっても、サビはミドルテンポになるよね。そこは俺たちと似ているのかなって思う。サビのメロディーはできれば遅くいきたいんだよね。そういう気持ちはcoldrainもあるのかな?」
Masato「あるある。ていうか、速いパートのメロディーなんてね(笑)」
Adam「個人的には速い曲も好きなんだけど、メロディーが感じにくいんですよ。Joyでそういう曲を作ろうとして、前作の制作中に作ってみたんだけど、ノリが軽くなりすぎて笑っちゃった。そういう考え方は似ているんだなと、『FATELESS』を聴きながら思いましたね」