デフ・ハヴァナのことをご存知だろうか? 2005年にUKはキングスリンにて結成された彼らは、ファースト・アルバム『Meet Me Halfway, At Least』を2009年にリリース。この頃はスクリーモポスト・ハードコア色が強かったが、当時のフロントマンだったライアン・メラーが脱退したのをきっかけに、今日までソングライティングの要を担うジェイムズ・ヴェック・ジローディ(ギター/ヴォーカル)を中心に据えた、ポップで普遍的なエモ・ロック志向を強めていく。そして、このたびリリースされた通算4枚目となる新作『All These Countless Nights』はバンド史上最高位となるUKチャート5位を記録し、爽快なメロディーと90年代オルタナ色の強いサウンドでさらなる飛躍を遂げた。

そんな彼らのファンを公言しているのが、FACTを経て現在はJoy Oppositesとして活躍しているAdamだ。日本のラウド・ロック界を牽引し、新旧のオルタナ・ロックを愛する彼がデフ・ハヴァナに太鼓判を押す理由とは? ミュージシャンならではの視点と聴き込みで、この5人組の魅力をとことん解説してもらった。

DEAF HAVANA All These Countless Nights So Recordings/HOSTESS(2017)

歌詞やサウンドにすごくイギリスらしさを感じる

取材当日はデフ・ハヴァナについてびっしり書き込んだメモを持参し、気合十分のAdam。「彼らは絶対に聴いたほうがいいですよ、素晴らしい!」と笑顔で語る彼に、まずはデフ・ハヴァナとの出会いについて訊いてみた。

「2011年の2作目『Fools And Worthless Liars』は俺の友達がやっているレーベル、ZESTONEから日本盤が出たんです。そのあと彼らは、〈UNIONWAY FEST 2012〉という東京・神戸・名古屋を回るサーキット・イヴェントで初来日もしているんですよ。その時はライヴを観られなかったけど、友達からCDをもらって注目するようになりました。でも当時は〈若いな〉と思いましたね(笑)。アレンジや音作りがまだちょっと甘かったし。だから、いまは本当に進化したと思う。あの頃は2000年代のエモ・ロックみたいな感じを狙っていたんじゃないかな」

2011年作『Fools And Worthless Liars』収録曲“I'm A Bore, Mostly”
 

その後、デフ・ハヴァナは2013年に『Old Souls』を発表。クラシック・ロック的なサウンドを採り入れた同作でUKチャート9位を獲得し、そこからブルース・スプリングスティーンミューズといった超大物のサポート・アクトを務めるなど大躍進を果たす。

「やっぱり、あのアルバムで結構変わったと思う。俺も『Old Souls』を最初に聴いた時、ブルース・スプリングスティーンやガスライト・アンセムとか、そのあたりに近いスケールを感じました。あと、前よりも(曲調が)ハッピーになった気がします」

2013年作『Old Souls』収録曲“Boston Square”
 

ここで初歩的な質問をひとつ。エモと言えばUSの印象が強いが、UKでデフ・ハヴァナのようなエモいサウンドを持つバンドのシーンは、現在どのような盛り上がりを見せているのだろうか?

「俺はデフ・ハヴァナと共通の友達もいっぱいいて、例えばイギリスのロウアー・ザン・アトランティス。彼らも最近、『Safe In Sound』という新しいアルバムを出して、UKチャートでトップ10入りしたんですよ。デフ・ハヴァナは彼らとも一緒にツアーをしたことがあって、ライヴァルみたいなところもありますね。こういう音楽性で、いま一番売れているのはブリング・ミー・ザ・ホライズンだと思うけど、彼らはもうちょっとヘヴィーな感じ。あとはユー・ミー・アット・シックスもUKで大人気ですね」

ロウアー・ザン・アトランティスの2017年作『Safe In Sound』収録曲“Work For It”
ユー・ミー・アット・シックスの2017年作『Night People』“Give”
 

「逆に質問しますけど、日本人がデフ・ハヴァナみたいなバンドを聴いた時にイギリスっぽさを感じるものですか? 俺はすごく感じますね、まずは歌詞がイギリスっぽい。俺が用意した新作(『All These Countless Nights』)についてのメモにも、1曲目の“Ashes, Ashes”は〈アメリカンなサウンド〉だと書いてあるけど、歌詞はすごくイギリスっぽい。このアルバムの歌詞は(これまでよりも)特に暗いですね。ほかにも、“England”というイギリスについて歌った曲があるんですけど、これも暗くて、〈イングランドはヴァンパイア、俺の元気を吸い取っていく〉みたいな感じ。だから本人たちは、あまりイギリスが好きじゃないのかもしれない(笑)」

確かに、“Ashes, Ashes”のサビで歌われる〈僕らが辿り着くのがもっとも愛する場所だとしたら 肺が破裂して心臓が壊死した日 この身の灰は海に還そう〉というフレーズは、叙情的でかなりUK的だ。

「あとは音にもイギリスを感じるところがある、ギターのリフとかね。“Like A Ghost”という曲にちょっと1975っぽいギターが入っていたり、音のチョイスやリフの弾き方にイングランドを感じるんですよ」

実は前作『Old Souls』のリリース後、金銭的な問題やバンド内のトラブルによって危機的状況にあったデフ・ハヴァナだが、新曲のアイデアが溢れ出したことによって解散は取り止めとなり、再起を図って『All These Countless Nights』が制作された。これまで以上にディープでエモーショナルな作りになっているのは、そんな背景も関係しているのだろう。アルバムの音楽性について、「初期のロックな感じに戻ったところもありつつ、物凄く成長している」とAdamは語っているが、とりわけ目を見張るのが充実したアレンジ・ワークだ。

「このアルバムの何がすごいって、アレンジですよね。音は本当にビッグ。俺はメモに〈ワイド・スクリーン〉と書きましたけど、そんな感じじゃないですか? 映画っぽいけど、よく聴くといろんな音が入っていて。それに、やりすぎていないというのがポイント。特にストリングスは、やりすぎちゃうバンドが多いじゃないですか。だけどデフ・ハヴァナは上手い具合に、ストリングスかどうかもわからないくらい細かい使い方をしてる。ドラムもリム・ショットを入れたり、本当に深いところまで考えてあると思う。曲が出来たら10回くらいは見直しているんじゃないかな。(リード曲である)“Trigger”のビートなんて、もう奇跡的ですよ(笑)。サビもすごくいいけど、あの曲の一番の良さはビートだと思う」

「“Trigger”にはアコースティック・ヴァージョンもあるんだけど、そこではサビのフレーズが(一部)なくなっているんですよ。〈オッオ~〉という部分がカットされていて。俺はあそこがフックだと思っていたから〈あれ?〉と思ったけど、それでもイイ曲だと感じるのはどうしてだろうと考えた時に、やっぱりビートがすごく印象的なんだと。これはロンドンのエア・スタジオで録音されたものですけど、俺はそのスタジオの近くに住んでいたことがあって、ずっと行ってみたかったんですよね。だから、デフ・ハヴァナが羨ましい(笑)。このアコースティック版は、日本盤のボーナス・トラックとして収録されています」

 

ソングライターとして尊敬するしかない、アレンジと曲作りのセンス

『All These Countless Nights』でプロデュースを担当しているのはアダム・ノーブル。海外でのインタヴューによると、彼が手掛けたプラシーボの『Loud Like Love』(2013年)にデフ・ハヴァナが惚れ込んでの起用だという。そんなアルバムの収録曲で、Adamのお気に入りは?

「まあ全曲すごいけど(笑)、特に好きなのはさっきの“Trigger”と、日本盤にだけ入っている“Anemophobia, Pt. 2”。実は『Fools And Worthless Liars』にも“Anemophobia”という曲が入っていて、これはその続きなんですよ。歌詞も同じような内容で、同じフレーズを使っているんだけど、その頃から6年が経って考え方も変わって、歌詞のなかでも(自分たちを)見直しているような感じ。昔はこう思ったけど現在はこう、みたいな。オリジナルの“Anemophobia”が結構激しいのに対して、〈Pt. 2〉は落ち着いた大人の仕上がりになっていて、バンドの成長がよくわかる。こういうのは昔からのファンだったら気付くと思うけど、新作から聴く人には伝わりづらい要素なので、新作を聴いたら前作/前々作も聴く価値があるということを知ってもらいたい。この2曲でバンドの成長が本当によくわかるから」

2011年作『Fools And Worthless Liars』収録曲“Anemophobia”
 

「あとは“Pretty Low”。この曲は中盤にファズ・ギターのソロがあって、曲自体はそんなに激しくないけど、ソロになった時に演奏がパーカッシヴになって、メタルとは違うやり方で重い感じを表現している。パーカッシヴになってファジーなギター・ソロがあって、〈いきなりこの展開はなんなの!?〉と思うけど変な感じはしない。そこが超おもしろいですね。同じ曲のなかで全然違う雰囲気を織り交ぜているのに、違和感がないところがやっぱり上手いですよ。アット・ザ・ドライヴ・インや日本だとマキシマム ザ ホルモンみたいに、グワッと180度曲調を変えるバンドは結構いるじゃないですか。もちろん、そういうのも俺は大好きだけど、デフ・ハヴァナの場合はそのチェンジがスムースなところがすごい。ソングライターとしても尊敬するポイントですね」

「もうひとつ、日本盤のボーナス・トラックで“Sing”のアコースティック・ヴァージョンが収録されていて。それも原曲はすごく凝っているんだけど、彼らはそんな曲をアコースティックでも違和感なく演奏できるんですよ。ヘヴィー系のバンドがアコースティックでやるのはなかなか難しいじゃないですか。コーンのアコースティック版は聴いたことあります? あれは……ちょっとね(笑)。あと(原曲の)“Sing”は、個人的にギター・リフがスマッシング・パンプキンズっぽくて好き。あんなに格好良いリフが出来たらいっぱい使いたいと思っちゃうけど、彼らは使いすぎてない。自分たちの良さをよくわかっているバンドだと思う。いろんな面で上手くバランスが取れている。だから、すごく尊敬しますね」

 

フー・ファイターズと比較しても見劣りしないメロディーの強さ

冒頭でも触れたように、UKでは商業的な成功を収めており、ビッグネームとして君臨しているデフ・ハヴァナだが、日本での知名度はもうひとつといったところか。しかし、ここまでAdamが力説してきたように、確固たる実力と普遍的なサウンドを誇るバンドであり、これを見逃すのはあまりに惜しい。ジャンルの垣根を越えて注目されるべき存在だろう。

コールドプレイみたいなゆったりとした感じもあれば、格好良いリフも入っているからオルタナ系が好きな人にもアピールするだろうし、ラウド系のファンだけじゃなくて、1975みたいなUKロック好きも聴けると思う。いろんな人にアピールできるバンドだと思いますね。“Fever”のイントロがベースの4コードのリフで、あそこもすごくオルタナを感じます。Aメロでギターの音がギャーンと鳴るところとか、〈昔、ブッシュもこういうのやってたな〉と思うし。でもコピーをしているわけじゃなくて、そういう良さを上手く採り入れている」

 

Adam(Joy Opposites)
 

ここであえて、デフ・ハヴァナとJoy Oppositesを比較してみると?

「うーん(苦笑)。Joy Oppositesでは俺とドラマーのEijiストーナーデス・メタルも好きだから、そういう影響がモロに出ているわけではないけど、ちょっと変態的な方向性に行きたがるんですよ。デフ・ハヴァナもオルタナティヴ・ロックというベースは一緒だけど、彼らは真っ当にいい曲、歌いたくなる曲を作ろうとしていると思う。だから彼らは、Joy Oppositesよりも〈ワイド・スクリーン〉でビッグな感じがしますね。例えばジミー・イート・ワールドビッフィ・クライロフー・ファイターズとかが好きだったら、間違いなく好きになると思う。ジミー・イート・ワールドは俺からするとすごくアメリカンで、ビッフィはUKって感じ。デフ・ハヴァナはその中間かな。ジミー・イート・ワールドのスウィートな感じと、ビッフィのUKらしい粗い部分や細かいアレンジが入っていて、それでバランスを取ってると思う」

Joy Oppositesの2016年作『Swim』収録曲“In My Bones”
ビッフィ・クライロの2016年作『Ellipsis』収録曲“Flammable”
 

「あとはやっぱり、ヴォーカル・メロディーのセンスがいいですよね。2000年代のエモは、自分からしたらヴォーカルのメロディーがおもしろくない。テイキング・バック・サンデイの影響なんだろうけど、あそこまで上手くできない微妙なバンドが多かったと思う。でもデフ・ハヴァナの場合は、ただ同じメロディーを繰り返すだけじゃなくて、曲の中で育てている。単純に同じことを2回やるんじゃなくて、1回目のAメロと2回目のAメロが違うニュアンスで出てきますよね。だから、メロディーが生きている。ジミー・イート・ワールドやフー・ファイターズもそういう手法を採り入れているし、だからこそ彼らのようなバンドが好きなら、デフ・ハヴァナのことは絶対に気に入ると思う」

こうやってAdamに話を伺っているうちに、筆者はデフ・ハヴァナが夢のバンドに思えてきたが、同業のミュージシャンにここまで熱く語らせる彼らの魅力が、読者の皆さんにも伝われば幸いだ。では最後に、何か言い残したことは?

「そうですね……メインで曲を作っているジェイムズは天才ですよ。俺のなかで、曲の良さを測る基準があって。〈もしテイラー・スウィフトが歌ったらどうなるだろう〉と想像するんです。テイラーは素晴らしいソングライティング・チームと一緒に曲を作っていますよね。だから、彼女に渡してもおかしくないような曲だったら、それはすごく強いんじゃないかな。ジミー・イート・ワールドの曲は、テイラーに歌わせても違和感なさそうでしょ。この『All These Countless Nights』も、そういう曲がたくさん入っていると思う。それにジェイムズは、イギリスの音楽メディアの間でも評価が高い。〈この人は天才的〉だと騒がれていますよ。フー・ファイターズがいまのデフ・ハヴァナと同じくらいの年齢の時に作ったアルバムと比べると、やっぱりデフ・ハヴァナはすごいと思いますもん。(当時より)テクノロジーが進化してスタジオ・マジックでできることが増えたのもあるけど、フー・ファイターズと比較しても見劣りしないレヴェルだと思う。ジェイムズが天才だというのと曲の強さ、この2つはすごく伝えたいですね」