〈通好み〉のポップスを究めつつ、手に入れた上質のオリジナリティー。優れたクリエイターと優れたリスナーが編んだ初のアルバムが完成!

 通好みから耳年増まで幅広いリスナーをアッ!と驚かせた『ブルー・ペパーズ EP』から2年、ようやくフル・アルバム『RETRO ACTIVE』を作り上げたブルー・ペパーズ。〈シティ・ミュージックの明日を担う若きポップ・スタイリスト・ユニット〉というキャッチフレーズは伊達じゃなく、2年の間にやけに背中が大きくなっていたというか、AORからMPBまでいろんなエッセンスを呑み込みつつ腕っぷしを強くして自分らなりのオリジナリティーを引き寄せることに成功。持ち前のセンスの良さも抜群だし、さすがわかってらっしゃる!と大橋巨泉のようなセリフを吐きたくなる場面の連続で嬉しくなる。

ブルー・ペパーズ RETROACTIVE ヴィヴィド(2017)

 「前回は〈現役大学生の自主制作EP〉という文句で売り出しましたけど、良くも悪くもその言葉は的を射ていて。いま聴くとサウンド面でのDIY感がすごくて、未熟だなあという感じはする。その点は宅録用の機材も充実してひとつひとつの音を妥協なく理想に近づけることができ、そのぶんこだわる部分が増えました」(井上薫、キーボード/ヴォーカル)。

 「EPの頃は冨田恵一さんらの仕事などを参考にしていましたが、僕個人の曲はそういう影響を完全シャットアウトしようと思って。大滝詠一さんの分母分子論じゃないけど、以前の〈洋楽分の邦楽分の邦楽〉のような構造が、最近は単純に〈洋楽分の邦楽〉をやる方向へシフトしている。理由は単純ににそれが得意だとわかったから。中学時代の音楽の原体験がウェストコースト・ロックやAORなので、むしろそこに正直になったほうが自分らしいものが生まれるんじゃないかなと。最近はエフェクターの質感など、好きなレコードに漂っている空気感までパッケージできないかと考えていて」(福田直木、ヴォーカル/ギター)。

 「ふたりの強みは、片方は作り手、もう片方は聴き手としての感覚が強いことだと思う。そのうえで逆の立場としての意見も持っているので、お互い納得いくまで話し合えるのも強い」(井上)、「最近はお互いの作風が明確であるほうがおもしろいと思って、意識的に作り分けたりしている」(福田)というふたり。優れたミュージシャンシップを持った井上と、徹底したリスナー気質の持ち主である福田がお互いを尊重し合ってうまくバランスを保っている点も作品の完成度を高めているが、何より嬉しいのは、〈いつもレコードのことばかり考えている人が、いつもレコードのことばかり考えている人に向けて作ったアルバム〉という印象を抱かせてくれるところ。マニアックに音楽を追求する楽しさ、おもしろさ、カッコ良さを伝えてくれるのだ。

 「いまはCDを買わない人が健全で、僕らが毒されているのかも(笑)。でも、曲でもそうだし、僕が好きで聴いているものもオープンに発信していきたいし、こういう曲が好きで作ったんだ、というのがわりとわかりやすいように作っている。少し大袈裟にデフォルメしているフシはあるかもしれないけど(笑)」(福田)。

 曲の構成から尺の長さまでスティーリー・ダン愛に溢れた“サーチライト”。そこでは井上の師匠である森俊之のキーボードが圧倒的な存在感を放っており、“ふたりの未来”では佐野康夫のドラムが嵐のようなハイテンション・プレイを披露。こういうヴェテランとの垣根を越えて生まれた関係性もいい具合にブレンドされていて素晴らしい。レーベルメイトの星野みちるを迎えた“コバルトブルー”(南波志帆への提供曲のセルフ・カヴァー)に吹く風もペパーミント味で心地良さ満点。そしてアルバムを聴きながら思うのは、名前にも付けられた〈ブルー〉ってやはり彼らの音楽を成立させる重要な感覚になっているなってこと。その部分がこの先どう変化していくのかってことも興味がある。

 「次は〈レッド・ホット・チリ〉ペパーズになっていたりして(笑)」(福田)。

 


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ここではブルー・ペパーズの作品ならびに関連盤を紹介します。2015年に初作『ブルー・ペパーズ EP』(ヴィヴィド)を発表し、AORやそれに連なる邦楽アーティストのファンを中心に注目を集めた彼ら。翌2016年には、南波志帆のアルバム『meets sparkjoy』(sparkjoy)に今作でセルフ・カヴァーしている“コバルトブルー”を、エレクトリックリボンのファースト・フル・アルバム『YEAH!!』(箱レコォズ)に“そよ風のKiss”を、2017年に、『RETROACTIVE』にも参加している星野みちるのアルバム『黄道十二宮』(HIGH CONTRAST)に“気がつけばLooking for your love”を提供。10月にリリースされた青野りえの初ソロ・アルバム『PASTORAL』(ヴィヴィド)には井上がレコーディング・メンバーとして全面参加しています。 *bounce編集部