ALL EYEZ ON ME
[特集]2パックを再考する
伝説のラッパー? 誇り高き路上の闘士? 非道なディスの権化? 伝記映画の公開を機に、そんなに単純じゃないこの傑物の功績に改めて触れてみよう
★Pt.2 不世出のラッパー、2パックの太く短い生涯を振り返る
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「オール・アイズ・オン・ミー」には2パックの複雑な人間味が溢れている
世代ごとの捉え方
DG「そもそも世代によって2パックをどのくらい知ってて、どういう認識でいるかはバラバラだと思うんだけど」
ケン「20代の自分らからすると、もちろんリアルタイムでは全然知らないっすね。でも、彼が亡くなってからウェッサイのブームとかあったわけだし、エミネムとよく絡んでた時期があるじゃないですか? 自分は『トゥパック:レザレクション』とか、あれぐらいの頃にヒップホップを掘りはじめた中にトゥパックの作品もあった、っていう感じです」
DG「まあ、そうだろうな。つまり、リアルタイムで触れてた人と、死後作はリアルタイムで聴いてた人と、それ以降の世代みたいな分類ができるわけか。 ほぼほぼリアルタイムで聴いてた自分がとんでもなくジジイに思えてくるぜ……」
ケン「ジジイじゃないっすよ、オッサンぐらいでしょ。まあ、少なくとも自分は、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』でちゃんとトゥパックの凄さを知ってからは、初期の作品から全部チェックしましたからね。うちらの周りではもうちょっとした常識っすよ」
DG「やはりケンドリックの影響は凄く大きいんだな」
ケン「そうっすよ。うちらよりももっと若い連中だと、リル・ヨッティの話があったじゃないですか? ビギーもトゥパックも曲をよく知らないとか言ってて。冗談じゃないというか、ああいう若者が増えてくるとヒップホップがダメになりますね。お先真っ暗ですよ」
DG「君も若者じゃないか。とはいえ、若者でもコダック・ブラックのミックステープで『Lil B.I.G. Pac』があったり、単純に世代で切るのは安易すぎるかもしれないけどね。逆にオレの世代だと、当時の日本ではパックなんてまったく評価されてなかった気がするしね。やっぱり昔は捉え方がNY中心だったとこもあるし」
ケン「それはそうかもしれないっすね。カイリー・ジェンナーとケンダル・ジェンナーが勝手にトゥパックやビギーを使ったTシャツを売ろうとしてビギーのオカンに怒られた騒動があったんですけど……」
DG「そうなんだ。けっこうパックの話題っていまも多いんだね。そのTシャツは何か意味があったのかな?」
ケン「いや、多分ただのアイコンっていうぐらいのイメージでカッコイイでしょ!みたいにやろうとしたんでしょうけど」
DG「もう歴史上の人物というか、フリー素材扱いなのかね(笑)。ジェイムズ・ディーンとか、マリリン・モンローとかみたいな?」
ケン「でしょうね。でも、彼女らもトゥパックの位置付けは知ってたからこそやったことだと思うんで、やっぱり若いからって知らないわけじゃないんですよね。まあ、ヨッティみたいな子もいるということで」
DG「そういや、トロイ・エイヴが撃たれた後にアルバム・タイトルを『NuPac』にして叩かれてたことがあったからね、〈撃たれたぐらいでパックを名乗るな!〉って。やっぱり安易に触れちゃいけないアイコンって感じはするな」
ケン「もう神ですよ、神」
LT・ハットンとは?
DG「そんなふうに神格化されてる題材を実写で映画にするわけだから、ぶっちゃけ今回の『オ−ル・アイズ・オン・ミー』はなかなか勇気のいるプロジェクトだっただろうな。NWAの『ストレイト・アウタ・コンプトン』は本人たちも関わって作ってたから良かったけど、基本的にピッタリ貼り付いてた仲間が作ったわけでもないし」
ケン「そもそも、プロデューサーのLT・ハットンってどういう人なんですか? トゥパックの死後アルバムで何曲か リミックスを任されてたり、アウトロウズの曲も手掛けてたりするみたいですよね」
DG「そうそう、『Until The End Of Time』と『Pac's Life』に参加してた人なんだ。もともとはスヌープがデス・ロウ時代に舎弟に組ませたLBCクルーっていうユニットが90年代半ばにあって、それのプロデュースをやってたのが名前を最初に見たぐらいの人かな。シカゴの人で、同郷のダ・ブラットのヒット曲“In Love Wit Chu”とかもやってるんだけど、最近はボンサグとかアシャンティとかを手掛けてたぐらいで、前ほどプロデュースとかで名前を見なくなったなと思ったら、知らないうちに映像の方面に行ってたみたいだな。でも、90年代からスヌープとはずっと絡んでるし、その間にはルースレスやインタースコープでもA&Rを務めたり、オマリオンやバウ・ワウ、デイ26とかと仕事をしてたりもした腕利きなんだ」
ケン「よくスラスラ出てきますね。流石、昔のことはよく覚えてるってヤツですか」
DG「資料に書いてあるんだよ! でも、パック主演の映画『グリッドロック』のサントラに入ってた2パック他の集団カット“Out The Moon(Boom, Boom, Boom)”もLTさんがやってたから、もしかしたらスタジオで絡んだ経験もあるのかもな。そうじゃなくても、もちろん面識ぐらいはあったと思うけど」
ケン「なるほど。一方で、監督のベニー・ブームは2000年頃から200本以上のMVを撮ってきた人みたいですね」
DG「もちろん生前のパックと仕事したことはない人だけど、このリストによると、近いところではキーシャ・コールの“Playa Cardz Right”を撮ってたんだな。あと、ジャ・ルールの“Clap Back”もやってたのか! じゃあフェイタル・フセインとは面識があったわけだな……」
ケン「最近だとミーク・ミルとニッキー・ミナージュの“All Eyes On You”も撮ってますね。50セント、バスタ・ライムズ、エイコン、T・ペイン、ニッキーが客演したデヴィッド・ゲッタ“Light My Body Up”とか……これだけ見てると、どうやらニッキー・ミナージュお気に入りの監督っぽいですね」
DG「なるほどな……って、もう校了で時間もないから、早く映画の話をしとこうぜ」
2パックってどんな人だった?
ケン「はい。まず、本編を実際に観てみて率直にどうでしたか?」
DG「まあ、俺はわりと単純に何でも喜んで観ちゃうから、いわゆる映画好きの人からどう見えるのかはわからないんだが、こういう作品だけに主役が本物そっくりに見えたことをまず評価したいね。パックを演じたディミートリアス・シップ・ジュニアが単純にカッコ良かった。パックはヴィジュアルが大事な人だから」
ケン「ビギーの伝記映画『ノトーリアス・B.I.G.』でビギーを演じたジャマール・ウーラードがこっちでもビギーをやってますけど、彼以上にディミートリアスは似てて良かったですよね。ビギーは似せることもできそうだけど……『ストレイト・アウタ・コンプトン』のトゥパック役の人は何かちょっとコスプレみたいでしたし(笑)」
DG「まあ、再現ドラマ的な感じだし、ホンモノの動いてるところをそんなに観たことはないんだけど、身のこなしとか振る舞いがそういう感じに思えた……ていうか、〈パックがこうだったらカッコいいな〉っていう多くの人たちの理想に近かったんじゃないかな」
ケン「内容についてはどうでした?」
DG「文章だけで知ってたようないろんなエピソードが映像化されてるから、信号無視して道を横断して逮捕とか、細かい事件を把握してるような昔からのファンも楽しめるし、そうじゃない人もパックについての大体のことがわかるんじゃないかな。レイラ・スタインバーグ先生とか、出てはくるけどハッキリ言及されないからわかりづらいのかもしれないけど」
ケン「サグ・ライフだったり、描かれてないところもありますよね」
DG「そうだね。サグ・ライフもそうだし、ストレッチもそうかな。パックが獄中で結婚してたところとかね。もちろんマドンナとの交際とかは話がブレるから出てこないとして(笑)。でも、いい具合に匂わせてある程度でサラッと流せて良かった部分もある。映画の中でドラッグ・ディーラーのレッグスっていう奴が出てくるじゃない? あの人はアフェニ母さんの愛人でもあった人なんだよな」
ケン「近所にいそうな、怖いけど優しい人みたいな感じでしたけど。そうだったんですね」
DG「パック少年にこっそり小遣いをくれたりするけど、アフェニにクラックを教えてドラッグ中毒に引きずり込んだ張本人でもあるんだ」
ケン「それ、いちばん恐いやつじゃないですか」
DG「映画ではそこまで書いてないけど、パックは彼に父親像を見ていたって後に語ってるんだよな。特にサグな部分は。継父も家にいられなかったわけだから」
ケン「なるほど、そこまで描くとブレそうですよね」
DG「そこから考えて昔から思ってるんだけど、パックはシュグに強い父親とか兄貴像を見てたのかもな……と思わなくもないんだよ」
ケン「それは新しいですね。でも、今回の映画を観ておもしろかったのは、シュグがそこまで極悪非道な感じで描かれてなかったことですね。もちろん、やってることはメチャクチャなんですけど(笑)」
DG「そう思うと、ある程度パックが言いなりだったこともわかるんだよな。その後パックがどうなるかを知ってるから悲劇のように思えるけど、自分からそうなるように振る舞ってしまってたところはあるからね。パックもある一面ではノリノリだった部分もあるわけだから」
ケン「確かに。そんなフラットな描き方だからこそ、シュグもパフ・ダディも内容にOKを出したのかもしれませんね」
DG「誰しも完璧じゃないからね」
ケン「そうっすね。トゥパックの曲には最近のブラック・パワーに通じるメッセージを感じていますし、もっとパンサーの血を引く闘士みたいな部分を描かないのかなって勝手に思ってましたけど、実際の本人はもっと人間臭くて多面的な人だったように思えてきました」
DG「どんな面を見てもいいと思うけど、これをきっかけに過剰な神格化から解放されてほしいとは思うかな。オレの好きなパックはワルくてチャーミングで喜怒哀楽が激しくて女にも男にもモテる奴って感じだし、これはそういう映画だからね」
LT・ハットンの参加した近作を紹介。
「オール・アイズ・オン・ミー」
【監督】ベニー・ブーム
【製作】LT・ハットン、デヴィッド・ロビンソン、ジェイムズ・G・ロビンソン
【出演】ディミートリアス・シップ・ジュニア(2パック)、ドミニク・サンタナ(シュグ・ナイト)、アニー・イロンゼ(キダーダ・ジョーンズ)、カット・グレアム(ジェイダ・ピンケット・スミス)、ジャマール・ウーラード(ノトーリアスBIG)、コリー・ハードリクト(ナイジェル)、ダナイ・グリラ(アフェニ・シャクール)、ハロルド・ハウス・ムーア(ドクター・ドレー)、ジャレット・エリス(スヌープ・ドッグ)、アザド・アルノー(ダズ・ディリンジャー)他
■2017/アメリカ/139分/原題:All Eyez On Me
■12月29日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
■配給:パルコ/REGENTS