ラモーンズと日本のファンとのプラトニックなラヴストーリー

yuki kuroyanagi Thank You RAMONES リトルモア(2017)

 パンクロックのオリジネイターとしてロックの歴史に名を残すラモーンズ。96年にバンドは解散、2014年までにオリジナルメンバーは全員死去して彼らは伝説になった。そんななか、世界で唯一、現在も活動を続けているメンバー公認のファンクラブが日本にあり、今も入会する若いファンが後を絶たないとか。そのファンクラブを立ち上げ、今も会長として活動しているカメラマンの畔柳ユキが、ラモーンズやファンクラブへの想いを綴ったのが本作だ。

 畔柳は音楽雑誌〈BURRN!〉の編集部に勤務していた際に初めてラモーンズに取材。それ以来、バンドと交流を深めた彼女は、メンバーのジョニー・ラモーンの提案でファンクラブを立ち上げ、ジョニーと頻繁に文通をしながらファンクラブを運営した。ジョニーは常に〈どうすればファンはハッピーか?〉と気にかけていて、そこまでジョニーが積極的に関わっていたファンクラブは日本だけだったとか。本書では、ラモーンズがいかにファンを大切にしていたのか、その裏話を披露する一方で、ファンがいかにラモーンズを愛したかも語られる。なかでも感動的なのは、2016年に開催されたラモーンズの聖地巡礼の旅だ。それは、ラモーンズの現役時代を知らない若いファンの〈ラモーンズを少しでもリアルに感じたい!〉という切実な想いに突き動かされて、畔柳が企画したツアーだった。ジョニーの行きつけの郵便局やダイナー。アルバムのジャケットに映し出された場所。メンバーが安らかに眠る墓地など、行く先々で畔柳はファンに思い出を伝え、ファンはラモーンズの息づかいを感じた。何かを心から好きになったことがあるなら、彼らの一喜一憂に引き込まれるだろう。

 ファンクラブのほかにも、ラモーンズに途中から加入したCJラモーンや、ラモーンズのヴィジュアルデザインを手掛けたアートゥロ・ベガなど関係者のエピソードも心に残る。そこには、ラモーンズなき後、自分とラモーンズの関係をどう続けていくかという苦悩もあり、その生々しい声は人間味に溢れている。ファンからいくら金を搾り取るか、という愛より利益が優先される今の世の中で、本書はバンドとファンのプラトニックで濃密なラヴストーリーともいえるだろう。こんな風に愛されたバンドも幸せなら、愛したファンも幸せ。泣けてくるほど愛おしい一冊だ。