天野龍太郎「みなさんこんにちは。Mikiki編集部の田中と天野による新連載がいよいよスタート! 題して〈Pop Style Now〉です」
田中亮太「構想約数か月、ついに始りましたね。〈Pop Style Now〉はMikikiの2018年のテーマのひとつである〈洋楽復権〉を促すべく、週ごとの海外シーンの動きと、公開されたばかりの必聴な5曲を紹介する企画です。このタイトルはドレイクの“Pop Style”からとったんだよね?」
天野「そうです! 企画内容やタイトルを2人で考えるうち、当然のように挙がったのが〈ポップ〉というテーマで。じゃあ、〈ポップ〉をタイトルに掲げつつ、好きな音楽へのオマージュにしたいなって思ったので、このタイトルにしました」
海外シーンの気になる動向
田中「というわけで、まずはこの1週間のトピックから振り返っていきましょう。まずは、これですよねー。マック・デマルコがレディオヘッドの“High And Dry”をカヴァー!」
天野「えっ、それですか……。確かに微笑ましいですけど……。真面目に言うと、ワシントンで学生たちが銃規制を訴えた〈March For Our Lives〉です」
田中「ですよね。マイケル・スタイプも初のソロ曲“Future, If Future”を支援のために発表しました。実はR.E.M.の解散以降、カヴァーやインストの曲を披露したことはあったけど、歌アリのオリジナル楽曲は初なんですよ」
天野「デモのきっかけとなった乱射事件の被害に遭った高校の生徒、エマ・ゴンザレスは〈#NeverAgain〉ムーヴメントの象徴的な存在になりましたね。デモのために立ち上がったり、ライヴ・パフォーマンスをしたアーティストは本当にたくさんいました。テイラー・スウィフト、マイリー・サイラス、チャーリー・プース……アリアナ・グランデはマンチェスターでのテロのこともありましたし。デモに参加したポール・マッカートニーは〈僕の親友の一人は銃で殺されたんだ〉とジョン・レノンに言及しました」
田中「パール・ジャムが〈アメリカの素晴らしい学生たちに捧ぐ〉と言ってライヴで新曲“Can’t Deny Me”を初披露したのが格好良かったですね」
田中「新曲といえば、ゴリラズやボン・イヴェールもそれぞれライヴでの初披露がありました」
天野「ボン・イヴェールの活動、相変わらず活発ですね。エドガー・ライトが監督したベックの“Colors”のビデオもApple Musicで公開されました。あとは、ケンドリック・ラマーとの共演も含むカニエ・ウェストの未発表曲がリークされましたけど、みんな消されちゃいましたね~。今年はアルバムがリリースされるんじゃないかっていう噂も」
田中「ちょっとネガティヴな話題ですけど、チャンス・ザ・ラッパーがハイネケンのコマーシャルを人種差別的だと批判して、CMが取り下げられたっていうニュースも」
天野「チャノはもはや新世代のオピニオン・リーダーですよね。レイシズムや性差別に反対する動きはここ数年、特にアメリカ発で世界へと広まっていて、ミュージシャンも当然のようにそこにレスポンスします。政治的な動きや社会の動向と不可分なのが、やっぱりアメリカやイギリスの音楽、ひいてはカルチャーですよね」
田中「ですね。さてさて、今週の5曲へといく前に、ここでインディー豆情報を。ノア・アンド・ザ・ホエールのファースト『Peaceful, The World Lays Me Down』(2008年)とセカンド『The First Days Of Spring』(2009年)がアナログ盤で4月にリイシューされます! 実はこの2作はレコードで出ていなかったんですよ。これは買うっきゃない!」
天野「はい(苦笑)。必要な方には必要なインディー・ニュースでした」
今週必聴の5曲
Natalie Prass “Sisters”
Song Of The Week
天野「それでは本題の今週の5曲です! 5曲のなかでも〈これは!〉という1曲を〈Song Of The Week〉として選んでいます」
田中「記念すべき第一回の〈Song Of The Week〉はこちら! ナタリー・プラスの“Sisters”です。ナッシュヴィル出身のシンガー・ソングライターによる新作『The Future And The Past』からのリード楽曲。優雅なオーケストラ・ポップを奏でていた前作も素晴らしかったんですが、今回はグルーヴを強めたサウンドになっていて、これもまた良い!」
天野「うん。飾り気のないベースがカッコいい」
田中「ソランジュやブラッド・オレンジの諸作で知られるブルーと、エル・キングなどを手掛けてきたマイケル・ ブラウワーがミキシングを担当しているようで、納得の音作りですね。固めのドラムと洒脱な鍵盤に、思わず腰が動いてしまうソウル・チューン」
天野「〈Keep your sisters close / You gotta keep your sisters close to ya...〉というコーラスが耳に残ります。この曲はきっとシスターフッドについてのものですし、フェミニズム・バンガーな1曲ですね。ここ最近、Mikikiではトレイシー・ソーンやフィーヴァー・レイの新作についてのコラムなど、フェミニズムの潮流と音楽とを絡めた記事を公開しています。ヤング・ファーザーズの対談でも〈メイル・ゲイズ〉の話題が出ましたし。そうした文脈をふまえてもいま必聴の1曲じゃないでしょうか!」
CHVRCHES “Never Say Die”
田中「2曲目はチャーチズが5月25日(金)にリリースするサード・アルバム『Love Is Dead』からのニュー・ソング。最初に公開された“Get Out”、ナショナルのマット・バーニンガーをフィーチャーした“My Enemy”も話題になっていましたが、個人的には今回の“Never Say Die”がいちばんキラーだなと。粘っこいビート感は今様だし、彼女たちのコケティッシュなエレクトロ・ポップを時流に合わせてアップデートしているんじゃないですかね」
天野「リード・ソング、どれも最高! ちなみに、アルバムのプロデューサーはグレッグ・カースティンです。その野心的な人選やEDM以降のポップスも貪欲に取り込んだサウンドも含めて、2018年のポップ・シーンの覇権を取りにいっている気がします。ビヨンセの“XO”をカヴァーしていたのもマスな市場に飛び込んでいこうというメッセージでもあったのかな」
BlocBoy JB Feat. 21 Savage “Rover 2.0”
天野「ブロックボーイJBは今年の注目株です! 去年、“Shoot”って曲がバズって、今年の2月にドレイクと共演した“Look Alive”で地元メンフィスから飛び出して、一躍時の人に。OVOサウンドからデビューするという噂も。メンフィスってアトランタの西の方ですが、スリー6マフィアとかヨー・ガッティとかを輩出している街で、ラップはずっと盛んで」
田中「へー。楽曲を手掛けたのは“Shoot”“Look Alive”と同じくテイ・キースという人なんですね。ブロックボーイさんにとっては10代のときからの友人だそうで。この人もプロデューサーとしてドンドン羽ばたいていくのかな」
天野「テイ・キースとは名コンビって感じ。この曲は“Rover”のリミックスで、アトランタの21サヴェージが参加しています。曲名通り〈ローバーに乗ってるぞ〉って曲なんですけど、21は〈ベントレー・ ベンテイガに乗ってるぞ〉と(笑)。ビデオでは同じような建築の家がだーっと並んでますね。これはプロジェクト(低所得者用の公共団地)的なものなのかな? ブロックボーイJBはエイサップ・ロッキーとの共演曲“Bad Company”もリリースしましたし、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い!」
Sibille Attar “I Don’t Have To”
田中「いわゆるインディー・ポップと言われる音楽にはほとんど反応してくれない天野くんが、珍しく良いと言ってくれたのがこの曲」
天野「いやいや、インディー・ポップは好きです(笑)。インディー・ロックは自分のベースですし。でも、僕はそういった音楽にノスタルジーや保守性は求めてなくて……。ことあるごとに遠い目をして昔を懐かしがっている亮太さんとは違うっていうか。アクチュアリティーやサウンドの新鮮さ、目の覚めるようなメロディーやリリックを音楽に求めているんです。その点、シビル・アターの歌にはハッとされたので」
田中「リズムの組み方とかは、凝ったものになっているしね。Stereogumの記事ではレディオヘッド“Reckoner”のリズムと書かれていました(笑)」
天野「あ~。言われてみれば、そうかも」
田中「加えて、王道ガールズ・ポップの持っていた突破力、ロマンティックな甘さやエモーショナルな昂ぶりも備えています。彼女はスウェーデンを拠点に活動。リリース元は、カジヒデキさん&ホムカミ畳野さんに参加してもらった〈北欧ポップ鼎談〉でも、Rimeoutのオナガさんが注目レーベルとして紹介していた、ストックホルムのインディー・レーベル、PNKSLMなんですよ」
Rich The Kid “Dead Friends”
天野「今日、デビュー・アルバムの『The World Is Yours』をリリースしたアトランタのリッチ・ザ・キッドです。なんといっても、この曲はリル・ウージー・ヴァートをディスってるってことで話題。ウージーをスターに押し上げた“XO Tour Llif3”を引用しつつ、こき下ろしてます。そもそもTwitterやInstagramのストーリーでやりあってたのが、こうして曲になったと。プロデューサーはDJマスタードです」
田中「ビーフの経緯は、FNMNLにわかりやすくまとめられていますね。といいつつ、僕みたいなヒップホップ弱者には、このやりとりをどうおもしろがっていいのか、イマイチわからない面もあるんですけどね(汗)」
天野「ラップだと、あと2チェインズとYGとオフセットの“Proud”のビデオが最高だったな~。みんなのお母さんたちが出演していて。これはいつもラップに反応してくれない亮太さんも良いと言ってくれました(笑)。と、ここまで選んだあとに、突如タイラー・ザ・クリエイターの新曲“Okra”が公開されましたね!! これについては次週で紹介したいところ!」
今週の新譜
田中「で、最後に本日3月30日(金)リリースの新譜をまとめておくと、このあたりに注目じゃないでしょうか」
Amen Dunes『Freedom』
Chris Carter『Chemistry Lessons, Vol.1』
Czarface & MF DOOM『Czarface Meets Metal Face』
DJ Esco『Kolorblind』
Flame 1『Fog / Shrine EP』
Frankie Cosmos『Vessel』
Kacey Musgraves『Golden Hour』
No Joy / Sonic Boom『No Joy / Sonic Boom』
Rich The Kid『The World Is Yours』
The Shacks『Haze』
Sons Of Kemet『Your Queen Is A Reptile』
The Voidz『Virtue』
The Weeknd『My Dear Melancholy,』
田中「なかでも、天野くんの推しはどれですか?」
天野「やっぱりリッチ・ザ・キッドの『The World Is Yours』、それと先行曲がどれも話題のDJエスコの『Kolorblind』。あとはロンドン・ジャズをさらに盛り上げるであろうサンズ・オブ・ケメットの『Your Queen Is A Reptile』ですね。インパルス!からのデビュー作で、曲名が全部“My Queen Is...”っていうすごいアルバム」
田中「サンズ・オブ・ケメット、アフロ・ファンク的な熱さもあって格好良いですね。僕はアメン・デューンズの『Freedom』がイチオシ。シド・バレットを引き合いに出されることの多いシンガー・ソングライターで、とにかく声の深みに引き込まれます。また、ポップ・カントリー畑のケイシー・マスグレイヴス『Golden Hour』がめちゃくちゃ話題ですね。テイラーの座を脅かしそうな雰囲気さえあります」
天野「ですね~。ディスコな“High Horse”は今週の5曲に入れようかめっちゃ迷いましたが……。それと、ウィークエンドのサプライズ・リリースには驚きました」
田中「あと再発ですが、ストリーツの大傑作ファースト&セカンドのリイシュー盤が今日店頭に並びます。これも嬉しいですね~」
天野「やっぱり後ろ向きだな……」