90年代にトーレ・ヨハンソンのプロデュースのもと、スウェーデンにてレコーディングを行ない日本でのスウェディッシュ・ポップ・ブームの火付け役にもなった、シンガー・ソングライターのカジヒデキと、2006年の発足以降、精力的にUK/EUバンドの日本盤をリリースし、ここ数年は北欧ポップも数多く扱う大阪拠点のレーベル=Rimeoutの主宰、オナガ・リョウヘイ。この二人が北欧の最新音楽事情について、たっぷりと語った対談が行われたのは、今からちょうど2年前だった。あれから北欧ポップ・シーンはどう変わったのだろうか。
好評につき第2回目を迎える今回は、カジ、オナガに加えて京都出身の男女混合4人組バンド、Homecomings(以下、ホムカミ)から畳野彩加(ギター/ヴォーカル)を迎えて行なわれた。畳野自身、北欧シーンへの興味が沸々と沸いてきたところだそうで、カジ、オナガという二人のスペシャリストによる〈北欧講座〉を、我々と一緒に受講してもらうことにした。なお、カジ&畳野については、Mikikiで2017年12月に公開したオールウェイズら海外インディー・ポップについて語ってもらった記事も好評を博しており、今稿はその続編的な意味合いもある。
前回も紹介したノルウェー出身のカックマダファッカや、フィンランド出身のスローター・ビーチ、アイスランド出身のヴァーなど、今回も個性的なバンドが次々と登場。これを読めば、北欧の〈今〉がきっとわかるはずだ。
――今回は第2回目ということで、前回に引き続きカジさんとオナガさんに加え、今回はHomecomingsの畳野さんにもお越しいただきました。
畳野彩加(Homecomings)「実は私、北欧シーンには疎くて……。Homecomingsでは、スウェーデンのアルパカ・スポーツと対バンしたこともあるんですけど、まだまだ北欧のこと掴みきれていないので、今日は勉強するつもりできました。よろしくお願いします!」
――では、早速ノルウェーからいきましょうか。Rimeoutでは、カックマダファッカの最新アルバム『Hus』を今年1月にリリースしたんですよね?
オナガ・リョウヘイ「はい。フィンランドで毎年開催されている〈Flow Festival〉に昨年行ったとき、彼らのライヴを観てものすごく気に入って。それで前回の対談でも取り上げさせてもらったんですけど、そのときはまさか自分たちのレーベルから出すとは思ってなかったので非常に感慨深いですね」
――どのあたりが特に気に入ったんですか?
オナガ「まずはライヴ・パフォーマンスですね。パーティー感全開で、煽りもすごかった。しかも曲がいいんですよ。今までずっとキングス・オブ・コンビニエンスのアーランド・オイエがプロデュースしていたのもあって、ベルゲン周辺の独特なポップ職人気質がある。そこにパーティーの高揚感も加わっているわけです。元々はヒップホップ・グループから発展していったということも、今の音に影響しているのかもしれないですね」
――ヒップホップだったんですか! だから名前がこんな変わった響きなのかな。意味はどう考えても〈ファック・マザーファッカー〉だろうけど……。
カジヒデキ「ですよね(笑)」
オナガ「でも、本人たちに意味を訊いても教えてくれないんですよ(笑)。新作『Hus』は本人たちのセルフ・プロデュースなんですが、1曲目の“All I Want To Hear”からトロピカルです」
――このトロピカルなリズムは、例えばヘアカット100やオレンジュースあたりを連想しますね。
カジ「うん、すごくネオアコっぽいというか。今回のアルバムを聴いても、シンセの重ね方とか80年代のギター・ポップを彷彿させるところもあって。“Save Yourself”のギター・リフも、ちょっとゴー・ビトウィーンズっぽいんですよ。そういう、若いバンド独特の〈好きなもの全部詰め込んでやれ!〉みたいなところも魅力ですよね」
オナガ「しかも、彼らなりのフィルターが通っているところがいいんですよね」
――畳野さんはいかがですか?
畳野「好きです(笑)! まだ私、〈この曲は〜っぽいな〉とかそういう分析ができるほど聴き込めていないんですけど、でもカックマダファッカはトロピカルなリズムやサウンド、ギターのカッティングに耳を奪われますね。きっとそこにもポップさや輝きが宿っているんだと思います」
――カックマダファッカは、メンバーのソロもRimeoutがリリースしたんですよね?
オナガ「はい。双子のメンバー、ヴィンデネス兄弟の片割れで、ヴォーカルとギター、そしてチェロを担当しているポールのソロ・ユニット=ピッシュのアルバムを昨年末に出しました」
オナガ「カックマダファッカの楽曲は、彼がほぼ手がけていて、ピッシュもかなりカックマダファッカっぽい。若干シンセ色が強いのが特徴ですかね。プロデュースは、ヤング・ドリームスのマティアス・テレス。最近ベルゲンではマティアスが結構プロデュース仕事をしていて、去年ツアーを一緒に回っていたソンドレ・ラルケのアルバム『Pleasure』でも数曲手がけていました」
カジ「へえ! 本当に売れっ子なんですね、彼は」
オナガ「マティアスはとにかく音楽オタクで、以前来日したときもレコード屋へ行っては掘りまくっていたり、気になる曲があれば〈これは誰だ?〉と尋ねたりしていたそうです。山下達郎のアルバムとかを手に入れていたと聞きました」
――他にノルウェーのバンドで注目なのは?
オナガ「ストレンジ・ハローズというバンドが良かったです。初アルバムの『Chromatic』(201年)は、大阪のFLAKE SOUNDSから日本盤がリリースされているんですが、bounceのレヴューで〈マイブラとティーンエイジ・ファンクラブとスミスが合体したら……〉って紹介されていました(笑)。実際、90年代のイギリスのギター・ロックを総括したようなサウンドで、オッサン的にはかなり泣ける。個人的には去年、ノルウェーもののリリースの中でいちばん良かったアルバムです」
――ちなみにノルウェーの国民性ってどんな感じなんですか?
オナガ「よく言われるけど、シャイですよね。特にベルゲンは人付き合いがあまり上手ではない人が多い印象です(笑)。仲良くなるまでに時間がかかるらしい。でも、仲良くなるとグッと距離が近づくんですよ」
カジ「昔、Riddim Saunterがベルゲンでレコーディングしてました※よね」
※2009年作『Days Lead』
オナガ「確か、ロイヤリティーズが来日したとき(2009年)に仲良くなって、それが縁で行くことになったらしいですよね。で、向こうでライヴをしたら、共演がアーランド・オイエだったとか」
畳野「結構、世間が狭いんですね(笑)」
――次はフィンランドのオススメを教えてください。
オナガ「以前、僕はフィンランドのフレンチ・フィルムズというバンドを出して、2回来日させているんですけど、彼らは活動を休止してしまったんですね。その後、キーボード奏者が脱退して、なぜか突然自分でギター&ヴォーカルのバンドをやり出した(笑)。それが、このソニック・ヴィジョンズです。2017年にうちからファーストEP『Lost In Between』を出したんですが、ちょっとオアシスとかプライマル・スクリームを思わせるようなサウンドを奏でているんですよ」
カジ「おもしろいですね。それこそプライマル・スクリームのセカンドみたい」
――ロゴのデザインもそれっぽいですよね(笑)。
オナガ「彼らも、90年代のUKロックに憧れ、自分たちの解釈で演奏した結果、他にないオリジナリティーを獲得しているバンドですよね。ただ、フィンランドってメタルのイメージも強いじゃないですか。それか、サイケ・ロックやヘヴィー・ロックがほとんどで、あまりインディー・ギター系は育ってないのかなっていう感じもする。と言いつつ〈掘ったら出てくるのかな?〉と思いながら掘っていたら、たまたま見つけたのが彼らですね」
カジ「フィンランドというと昔、シュペールっていうバンドがEscalatorから音源を出していて。それを今もたまに聴き返すんですけど、すごくいいバンドだったなって思うんですよね」
オナガ「フィンランドって、言語的にも他の北欧諸国とはだいぶ違うみたいです。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの3国は、言葉が違ってもだいたい何を言っているのかわかるらしいんですけど、フィンランドはまったく言語が違っていて通じない。ちょっとはぐれているからこそのオリジナリティーが、もしかしたらあるのかもしれない」
カジ「先日、〈トーキョー ノーザンライツ フェスティバル 2018〉で『オンネリとアンネリのおうち』という、児童文学を映画化したフィンランド映画の先行上映を観てきたんですけど、すごく可愛い作品だったんですよ」
畳野「へえ!」
カジ「フィンランドって、映画やファッション、インテリアなどポップでカラフルなものが多いのに、音楽はあまりそういうカラフルさ、ポップさみたいなところを打ち出しているバンドは少ないですよね。どちらかというとマッチョなイメージがある。そういう意味では、フレンチ・フィルムスやその周辺のバンドは稀有な存在なのかも」
オナガ「フィンランドだと、最近売り込みがあったのは、ハヴ・ユー・エヴァー・シーン・ザ・ジェーン・フォンダ・エアロビック・VHS?っていうやたら長い名前のバンド(笑)。一度フィンランドでライヴを観たことあるんですけど、なかなかぶっ飛んでるんですよ。キーボードとベースとドラムの三人編成なんですけど」
畳野「これは可愛いですね!」
――ちょっとラモーンズっぽいというか。ポップでパンキッシュなところがいいですね。
オナガ「あとはヤーコ・アウクスティ(Jaakko Aukusti)っていう、ちょっとパッション・ピットやMGMTっぽいアーティストもいい感じです。さっきのジェーン・フォンダ・エアロビック・VHSにしてもヤーコにしても、シンセの使い方が印象的なんですよね。フィンランドはもっといろんなバンドを掘っていきたいんですけど、他の国と比べると情報量が少なくて……。まず、英語の記事が全然見つからないんですよ(笑)。そこがかなりハードルになっているんですよね」