東郷清丸

〈Mikiki Pit Vol. 4〉のトップバッターは、東郷清丸。バンドや弾き語りなどさまざまな形態でライヴを行っているなか、この日はシーケンサーとギターを携えてのソロでの登場だ。リヴァーブのかかった東郷愛用のギター、スタインバーガーの残響のなか、彼が所属するバンドであるテンテイグループからの楽曲“サンキスト”からスタート。まずは弾き語りで、その歌力で観客を魅了する。曲が終わると〈こんにちは! 最後まで楽しんで帰ってください〉と挨拶。

そして、〈今日はもう夏って感じなので、夏の曲を〉と“サマタイム”を歌い始める。この日は最高気温32度の夏日。シーケンサーからポクポクという〈ゆるい〉ビートが刻まれた東郷製のサマーチューンで会場がいっそう夏モードに。そこから、“赤坂プリンスホテル”“SuperRelax”“美しいできごと”“ロードムービー”と、昨年リリースしたアルバム『2兆円』からの、ライヴでの定番曲を一気に畳みかけていく。キャッチーなのにどこか不思議な魅力をまとった楽曲の数々に、オーディエンスは気持ちよく揺れている。

ここで「まとまったことを伝えようとすると一曲分話してしまうので、ここまでノーMCでやりました」と、初めての長めのMC。今後のライヴやグッズ情報などを話しつつ、残すは新曲“よこがおのうた”一曲だと宣言。〈童謡なので、ここから5分だけみなさん5~8歳の子どもになって……いただけるかな?〉と、歌のお兄さん風にフロアへマイクを向ける。会場のあちこちから笑いが起きるなか、数回観客とコーラスの練習を敢行し、“よこがおのうた”がスタート。寺尾紗穂によるピアノ伴奏のオケが流れ、マイクを手に軽い振り付けをしながら歌う東郷。終始朗らかなムードのなか、その抜群のパフォーマンスで初見の観客の注目も一挙に集め、本日の一番バッターとして鮮烈な印象を残していった。

 

Wanna-Gonna

東郷清丸に続く二番手として登場したのはWanna-Gonna。東郷同様、まさに〈新進気鋭〉と呼ぶにふさわしい、いま注目すべきバンドの一組だろう。彼らの紹介記事でも軽く触れたが、すばらしかや阿佐ヶ谷ロマンティクスなど、東京のバンドたちから共感を寄せられ、大袈裟に言えば〈同志〉としてのリスペクトを集めている。Wanna-Gonnaが交流する20代のメンバーを中心としたバンドたちが現在、新たな東京のロック、ポップ・シーンを形成していっているという予感は間違いではないだろう。

1曲目には、2017年にリリースした初の全国流通盤となったEP『In the Right Place』から“Three Miles”を披露。ザ・バンドを思い起こさせる、アメリカーナへの愛にあふれたバラードだ。確かな演奏力と、竹澤浩太郎(ギター/ヴォーカル)の緩急をつけた歌唱、豊かな声量、エモーショナルな表現に胸を打たれる。セカンド・ライン調の2曲目を経て、“Man in the Right Place”へ。MCでは、EPの制作後、バンドのモードの変化によって生まれた曲をやります、とアナウンス。どこかビリー・ジョエルの“Piano Man”を彷彿とさせる4分の3拍子で、落ち着いたミドル・テンポのその新曲は、次第に緊張感を高め、高揚していく。ノイジーかつブルージーにうねるギターとピアノの響きが印象的だ。

〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉への出演経験もある彼らだが、6月16日(土)には〈やついフェス〉に出演することも発表。注目度の高さがうかがえるが、「ナイツとカブっていまして、〈ヤホー〉が聞けないんですよ」という飄々としたMCで観客を笑わせる。ラストの、バンドにとっての定番曲である“Green Green Grass”では、パワフルで息の合った演奏を聴かせる。〈ああ、ロック・バンドっていいな〉と改めて思わせられる見事なライヴで、いまのWanna-Gonnaの勢いと良いムードをパッケージしたファースト・アルバムのリリースが待ち遠しく感じられる。

 

ミラーボールズ

3番手は名古屋在住の夫婦デュオ、ミラーボールズ。〈名古屋の至宝〉とも称される彼らは、東京でなかなかライヴを行わないこともあり、ミラーボールズを目当てに来ていた人も多い印象。会場の人口密度が高まりざわつくなか、アコースティック・ギターの音色が聴こえはじめる。そして、ファースト・アルバム『スピカ』(2006年)収録の“黒い足跡”が突如スタート。ギターをかき鳴らしながら、舌足らずで気怠いのに情感たっぷりな森恵子(以下、恵子)のヴォーカルに会場は釘づけになる。

“黒い足跡”が終わると挨拶を一言だけして、すぐに2曲目“ビッケの子供”へ。昨年リリースしたアルバム『ユートピア』のなかでも、ひときわ彼らの濃厚な世界観が堪能できる一曲で、オーディエンスを別世界へと連れていく。続けて“白昼夢”を演奏。一見寡黙そうな森真二(以下森)のエモーショナルなギターとパフォーマンスも抜群で、会場がどんどん盛り上がっていく。

MCでは、東郷清丸が演奏した童謡“よこがおのうた”がとても楽しかったとコメント。恵子が森に「ノッてましたねえ……」と言い、照れる森。会場に笑いが起こる。そして、ライヴは後半戦へ突入。〈あの娘は頭がもげたの/それで夕べは燃えたの〉という衝撃的な歌詞からはじまる“口笛が聴こえる”で会場がヒートアップ。続いて間髪入れず始まった“青い鳥”が恵子のキュートなシャウトで終了すると、会場からは拍手と歓声が起きる。

そして、〈最後の曲になりました、ありがとうございました!〉と恵子が元気よく言うと、ライヴの定番曲“野生の王国”がスタート。2008年作『創世記』の終曲でもある同曲の〈生きてるんだ〉という印象的なフレーズが耳にいつまでも残るなか、ミラーボールズの圧倒的なステージは終了した。

 

見汐麻衣

この日のトリは見汐麻衣。エレキ・ギターを携えてのソロ・ライヴで、まずは埋火のラスト・アルバム『ジオラマ』(2011年)より“溺れる魚”を披露。「最後を飾らせていただきます、見汐麻衣です」と語りながら、弦を掌で叩く。リヴァーブとディレイが深くかけられたギターと見汐の伸びやかでよく通る歌声とがフロアに響き渡る。2014年に解散した埋火の傑作『ジオラマ』、そしていま聞いている“溺れる魚”はもう7年前の作品なのかと感慨深くなる。

続いてNOKKOの“人魚”とビートルズの“Blackbird” をカヴァー。〈抱いて抱いて抱いて〉というあけすけな歌詞が強烈な“人魚”だが、見汐が歌うとまったく違う表情を見せることに気付かされる。歌詞の意味よりも歌そのもの、旋律そのものが前景にせり出してくるような……歌手というのは、本来そうであるべきものなのかもしれない、なんてことを、ふと思う。

埋火の2008年作『わたしのふね』(この作品も、2008年という年の記憶と共にある傑作だ)より“と、おもった”、そして、「喜怒哀楽という4つの感情のどれかが生きていくうえでのエネルギーとなっていると、よく酒場で話します。私は〈怒〉だと思っていて、そういう曲を作りました」と未発表曲(?)を披露。短いフォーク風のその曲では、〈さよなら/二度と会うこともないでしょう〉という歌詞が耳に残る。

最後は、若いときに作った歌が答え合わせになることがあるんですね、と前置きし、『わたしのふね』より“だから私と”。ブルース風のギターとシャンソンのような発声で、まるでフルートやピッコロのような軽やかさで歌い上げる。「いちばん地味な私が最後でいいのでしょうか」と見汐は言うが、新旧織り交ぜた楽曲を披露したそのパフォーマンスは、歌声や歌そのものがいつまでもフロアに残響しているかのような深い余韻を残し、まさに今回の〈Mikiki Pit〉を締めくくるにふさわしい存在感を放っていた。