Mikikiがいま、このタイミングで観てほしい出演陣を揃えたショウケース企画〈Mikiki Pit〉。その第7回が2月2日、東京・下北沢 BASEMENTBARにて開催されました。Crispy Camera Club、Half Mile Beach Club、毛玉、So Sorry,Hoboの4組を迎えたこの日の模様を、編集部がレポート! 当日のライヴ写真とともにお伝えします。

週の半ばに雨が降ったため、天気が不安視された〈Mikiki Pit Vol. 7〉。蓋を開けてみれば快晴で、冬にしては温かで過ごしやすい一日になりました。順調に出演いただく4組のリハを終え、定刻通り正午にオープン。次第にオーディエンスが集まってきます。時間帯もあってか入場してすぐに、三軒茶屋・クジラ荘のホットドッグをオーダーするお客さまもチラホラ。我々Mikiki編集部員も舌鼓を打ったのでした。

 

Crispy Camera Club


1番手は京都を拠点に活動する男女混合のギター・ロック・バンド、Crispy Camera Club。この日は、いきなり新曲“OH YEAH”でスタートした。続いて、最新ミニ・アルバム『SWAG』収録曲の“good morning sunshine”を披露する。豪快なギター・サウンドとハーモニーが気持ち良いドライヴィンなナンバーで、聴衆の心を一気に掴む。

次は、自主制作でリリースしたEP『MIRA』に収録されていた“crescent moon”。マイナー調のコード進行とタメの効いたリズム・セクションが特徴のサイケな楽曲だ。中根トモヒロが弾く、うねりまくるベースラインが実にグルーヴィー。続いて、まだ音源化されていない新曲“ネイビー・ショア”を演奏。跳ねるビートと甘酸っぱいギター・サウンドが、まさに〈Crispy Camera Club印〉な一曲と言えよう。加えてメロディー・ラインはこれまで以上に開けた印象で、彼らにとって憧れの存在であるスピッツ――特に『ハチミツ』~『インディゴ地平線』期の楽曲を彷彿とさせた。

次も新曲の“グッバイ・マイフレンド”。こちらは2月14日(木)に配信限定でリリースするヴァレンタイン・シングルに収録されるそう。ミッドテンポのどっしりしたリズムが、ポップでキュート……という彼女たちのイメージとはまた異なる一面を見せてくれた。そのままモータウン・ビートがゴキゲンな人気曲“雨があがったら”を演奏。最後は件のヴァレンタイン・シングルから“ティンセルタウン”で約30分のパフォーマンスを〆た。

サポート・メンバーだった年長者の稲本裕太が正式にギタリストとして加入したことで、バンド・アンサンブルがタイトかつパワフルになっている。そして、演奏面での成長によってバンド自体の土台が強固になり、その安定感がメロディーの存在感をさらに高めていた。この日は、現在バンドがとんでもない勢いで成長していることが伝わってくるパフォーマンスだったが、おそらく次に観たときはさらに良くなっているのだろう。今後も追いかけていきたい!

 

Half Mile Beach Club

2番目に登場したのはHalf Mile Beach Clubだ。気取った装いのメンバー5人がステージに揃うと、昨年リリースしたミニ・アルバム『hasta la vista』の収録曲“Olives”で幕開け。結成当初に志向していたチルウェイヴ的なサウンドから、90年代初頭のマッドチェスターを思わすサイケでダンサブルな音楽性にモード・チェンジした同作を経て、バンドの演奏はますますグルーヴ感を増している。

そして、ビートを叩き続けたままバンド初期の人気曲“Yankee”に繋げる。DJやトラックメイカーとしても活動中のメンバーを擁する彼らだけに、このあたりの展開はお手のものといったところか。パーカッシヴなリズムにサンプリングした声ネタが絡まる。官能的なサウンドに、彼らの拠点である逗子海岸の風景を幻視した。

続いて、『hasta la vista』から“Blue Moon”。生演奏とリズム・マシーンを重ねたドラムの上で、ファズ・ギターと艶やかな歌声が舞うさまに、『Screamadelica』期のプライマル・スクリームを筆頭としたセカンド・サマー・オブ・ラヴを彩ったバンドたち――スープ・ドラゴンズやインスパイラル・カーペッツらを彷彿せずにはいられなかった。

未発表曲(?)の“Zapper”を挿んでラストは“Monica”。高橋遥が弾く、地面を掘りながら前進していくかのような超ファンキーなベースラインが渋い。フロアのムードもクラブの〈深い時間帯〉を思わず、ドープなものになっていった。まだお昼の13時過ぎとは思えない。

聞くところによると、Half Mile Beach Clubは現在フル・アルバムを制作中とのこと。このライヴを観るかぎりでは、生のバンド演奏とエレクトロニクスをよりスムースに融合させたサウンドになっていそうだ。早くも今年の楽しみが増えた。

 

毛玉

3番手、毛玉の演奏はファースト・アルバム『新しい生活』の収録曲“バイパス”からスタート。“バイパス”は初期の毛玉を象徴する一曲と言えるが、1月に行われた新作『まちのあかり』のリリース・パーティーでは演奏されなかっただけに、うれしい選曲。ブラシで叩かれるロールとループするギターのフレーズが、ぐいぐいと楽曲を推進させていく。

個人的におもしろいと思っているのは、ギターを携えたフロントの黒澤勇人が足を揃えて真っ直ぐと立って歌うその姿。ドラマーの露木達也も背筋をピンと伸ばし、肘から先で手を振り下ろして叩く。毛玉はサウンドも独特だが、ステージ上での佇まいにも不思議な存在感がある。

ハイハットの開閉で刻まれる裏打ちはそのままに、“しあわせの魔法”へとシームレスに雪崩れ込む。“バイパス”と同様、露木の叩くロール(今度はマレットで叩いている)がビートの中心にありつつ、クラッシュ・シンバルの激しい連打とワウの効いたギターがカーニヴァル感、祝祭感のようなムードを生み出していく。

続く“暗夜行路”は、新作『まちのあかり』から。上昇と下降を繰り返すギターの風変わりなフレーズ、黒澤のリズム・ギター、そして石黒健一によるレゲエ風のベースが重なり、個性的なビートを編み上げる。サポートで参加している深田篤史の歪んだギターが爆発的なソロが繰り広げると、石黒もそこに挑みかかるようなベース・プレイを聴かせる。インタヴューで露木が〈いちばん毛玉っぽい〉と語っていた風変わりな一曲だが、〈暗夜行路〉というタイトルの一方で〈あぁ暗夜行路 結局読まなかったな〉と歌われる歌詞も実に毛玉らしいというか、黒澤らしさが感じられる。

〈8ビートが全然ないバンド〉というのもインタヴューで語られていたことだが、4曲目の“雨降りの午後に珈琲を”は4ビートが主体。そして最後は、アルバムのタイトル・ソング“まちのあかり”。ライヴではその他の短編ズの2人に代わってサポートの岸真由子(Ri Ri Riligion/madrone avenue)が短編ズのラップを歌い、石黒のベースと露木のドラムからはソウル、R&Bのフィーリングがにおい立つ。露木の抑制の効いた、強烈な主張を持った演奏が圧倒的だ。アウトロでは黒澤のポエトリー・リーディングが独特の余韻を残した。

 

So Sorry,Hobo

この日のトリを務めたのはSo Sorry,Hobo。音出しもそこそこに、ヴォーカル/ギター梶原笙の軽快なおもしろトークが早速スタートする。「最初に、お客さんにあんまり関係ない話で恐縮なんだけど、今日俺たち9時40分入りでさ、そんなん無理だよ。俺無職だしさ。7時半起きだよ無理だろ。俺15分くらい遅刻して来たらさ、普通に(メンバーが)演奏してるの。リハ10時からって聞いてたのに。なに5分も前に! 時間を守れって言われてるだろ! どうにかしてるよ」とボヤくと、会場からは失笑が巻き起こる。さらには〈逆リハ〉〈順リハ〉の説明をくどくどとし始め、「順リハにすればいいのにね。4時間も待たされて身体がダルダルになっちゃう。もう帰りたくなっちゃうよ」とメンバーの次は編集部にダメ出し。次回のMikiki Pitからは順リハにするよう梶原が提案したところで、ようやく演奏がスタートする。

1曲目は昨年リリースのアルバム『大なつかしい展』より“はてだのさてだのうるさいよ”。演奏はかっこいいけど、逆リハだの順リハだのうるさいよ。演奏が終わると間髪入れずに〈朝早いから早めに寝ようとしたけど、不眠症と同居中の兄がうるさいのとで眠れなかった話〉を延々と喋り続ける梶原。「午前2時に兄が作った煮卵から借りたパワーでライヴをやっていますSo Sorry,Hoboと申します。どうぞよろしくお願いします」と長々とした前置きから華麗な挨拶に繋げる。客席からは乾いた笑いと拍手が巻き起こり、隣にいる初見のお客さんは思わず「ラジオやればいいのに……」とつぶやいていた。

生家がダムの底に沈んだ光景を描いた“ぼくらの堰堤信仰”、街から電気を奪った彼女を歌った“電気泥棒を忘れない”と続けると、その後も梶原は延々と喋り続け、〈Mikikiのプレイリストの記事で長く書きすぎた話〉〈客席との距離感が埋まらない話〉とすべらない話を繰り広げる。ギターの岩井正義からも「今日はおもしろいねえ」とお褒めの言葉が出ると「やめろ! そういうのがあるから客席との溝が深まるのよ。本質を見失うな!……なんだよ本質って」と憤り、これまた客席のクスクス笑いを誘っていた。

大爆笑トークを合間に挟みつつ、ラストは次回作に期待が膨らむ新曲“けん玉の散りかた/ラグビー日和他”と“蝶々強盗”を熱演。観客の熱気は冷めやらぬまま、So Sorry,Hoboの4人はステージを後にした。これまで以上に4者4様、ヴァラエティーに富んだ顔ぶれとなった〈Mikiki Pit Vol.7〉。次回はどうなることやら……。