エクレクティックにしてクロスオーヴァーな10年ぶりの衝撃! カテゴリーもボーダーも超えたベルリンのレジェンドはさらに自由なマインドを手に入れた!
ドイツはベルリンにて95年に結成され、DJ/プロデューサーの集合体という珍しい形で活動をスタートしたジャザノヴァ。マイケル・レインボース率いるコンポストと共同でJCRを設立し、そこから90年代終わりに2枚のEPをリリースするやいなや、一躍ニュー・ジャズ~クラブ・シーンの脚光を浴びる存在となった。ヒップホップ/ブレイク・ビーツから4つ打ち、ブロークン・ビーツに至る多様なビートフォームを軽やかに駆使し、ヨーロッパやブラジル産のレアなレコードなどからの巧みなサンプリングと生楽器による演奏をシームレスに構築する、ずば抜けたプロダクション・スキルの高さは類を見ないものであり、ジャンルを超越したクロスオーヴァーな感覚をクラブ・シーンに定着させた立役者といっても過言ではないだろう。2002年にリリースされたファースト・アルバム『In Between』はタイトルが示す通り、特定のジャンルに囚われることなく当時の最先端のビートを網羅した文字通りの傑作として語り継がれている。2008年にはジャズの名門でたるヴァーヴからのリリースということでも話題をさらったセカンド・アルバム『Of All The Things』を発表。そこではイノヴェイティヴの塊のような初作の音楽性からオーセンティックなソウル・ミュージックへと軸足を移し、ソングライティングにフォーカスすることで楽曲の普遍性を追求する素晴らしい仕上がりになっていた。リオン・ウェア“Rockin' You Eternally”のカヴァーなどと並んで収録された名曲“Let Me Show Ya”などは往年のソウル・クラシックと遜色ない仕上がりで、メロディーメイカーとしての才能を十分に知らしめた名盤になったものだ。それから早10年。ついに3枚目のオリジナル・アルバム『The Pool』がリリースされた。
この10年の間にはキャリアを総括するようなリミックス・アルバムなどもリリースしていたが、彼らがもっとも力を注いでいたのはライヴ・パフォーマンス。世界各国のフェスなどに出演したこの10年は、DJ/プロデューサーとして以上にミュージシャンとして濃厚な経験を積む期間だったようだ。そして、新作『The Pool』にはそういった経験が見事なまでに反映されている。全曲にゲスト・ヴォーカリストを招いて構築された楽曲集は、しかしながらライヴ・バンドによるただのソウル・アルバムに終始しているわけではない。サンプリングと打ち込み、生楽器の理想的な融合を見せた初作の代表曲の第2章と位置づけられた“Now(L.O.V.E. And You & I -Part 2)”では深い音楽知識とエンジニアリングの粋を極めた職人技が堪能できるし、この曲の収録を喜ぶリスナーも多いことだろう。そして、デビュー作『Under Mountains』がスマッシュ・ヒットしたスコティッシュ・フォークの新たなミューズであるレイチェル・サーマンニをフィーチャーした“Rain Makes The River”をファースト・シングルに選んだことがこの『The Pool』を象徴している。クラブ・ヒットを念頭にただDJユースなものだけを作るのではなく、ジャザノヴァとして、いかにみずからの音楽を深めていくかという姿勢が滲み出たようなこの曲は、影絵をモチーフにしたMVも素晴らしい。また、お馴染みジェイミー・カラムが歌い上げる“Let's Live Well”や、オックスフォード大学のバイオサイエンスの学位を持つ異色のシンガー、オリヴィエ・セント・ルイスとの“Heatwave”、さらにアルバムの最後を飾るベン・ウェストビーチとの“Summer Keeps On Passing Me By”のようなソウルフルな楽曲たちは、ビートやグルーヴに重きを置いたクラブ・ミュージックというよりも、ソングライティングに軸足を置いたグッド・ミュージックを作るというジャザノヴァの信念を物語っている。
しかしながら一つのスタイルに囚われないのもまたジャザノヴァ流で、長年のコラボレーターであるポール・ランドルフとの“It's Beautiful”や新進気鋭のラッパーKPTNとのヒップホップ・トラック“No.9”やシャーロットOCとの疾走感溢れるデジタル・ソウル・チューン“Everything I Wanted”など多様な楽曲がアルバムを彩っているのも実に彼ららしい。ファースト・アルバムのイノヴェーションとセカンド・アルバムのエヴァーグリーンなソングライティングが見事に融合した新作『The Pool』は、キャリア30年を迎えようとするジャザノヴァの新章の開幕を迎えるのに相応しい仕上がりとなった。ついに幕を開けたジャザノヴァの第3楽章の行く末がいまから楽しみでしょうがない。 *AWANE
『The Pool』参加アーティストの作品を一部紹介。