©Hiroshi Takaoka

ハイブリッドなセンスと審美眼でジャズ〜クロスオーヴァーのシーンを牽引してきた二人がデビュー30周年――レジェンドたちへの敬意とフロアでの機能性から選び抜かれた珠玉の名曲カヴァーは時代を超えて未来へ響く!

先人への尊敬とKJMらしさ

 〈カヴァー〉は過去の曲を新たなフィルターを通してアップデートし、さらに未来に残していくという意味でリスペクトとプライドを同時に感じさせる行為だ。デビュー30周年という節目の作品をそのカヴァー主体の楽曲集とするところからも彼らの気概と〈らしさ〉は感じ取れる。94年の『Kyoto Jazz Massive』からシーンをリードしてきた沖野兄弟ことKyoto Jazz Massiveが、このたび『KJM COVERS Kyoto Jazz Massive 30th Anniversary Compilation』を完成させた。

沖野修也「実は海外の先輩DJから〈日本のプロデューサーはカヴァーが多すぎる!〉とご指摘を受けたことがあってから、KJMでカヴァーをやらないことにしていたんです。とはいえ、こういった選曲はDJ/プロデューサーの特技でもあるので、30周年の機会なら許されるのかなと。どんなアーティストに影響を受け、どんなアーティストを尊敬してきたかという我々の経歴の検証になりますしね」

沖野好洋「ライセンス許可が下りなかった音源もあったのは少し残念ですが、長年温めていた企画だったので、作品にまとめられて嬉しいです」

Kyoto Jazz Massive 『KJM COVERS Kyoto Jazz Massive 30th Anniversary Compilation』 SELECTIVE(2024)

 厳選された11曲にはライヴ録音の臨場感とスタジオ録音の緊張感が織り交ぜられ、曲順や構成も練られていてコンピレーションでありながらアルバムとしての完成度も高い。選曲のテーマはあったのだろうか。

修也「やはり我々の音楽的なルーツを一枚にまとめるというのがいちばんのテーマでしょう。毎回、好きでかけ倒している曲をカヴァーするわけですが、オリジナル曲をリスペクトしながらも、どこをどうやってKJMらしくしたのかという部分を聴いてもらえるとありがたいです。それと、参加ヴォーカリストで曲順を決めているあたりは聴きどころでしょうね。曲の並びはライヴでの再現も考慮して考えてあります」

 ライヴ音源の“Black Renaissance”、続く“No Cross No Crown”(2014年)という冒頭2曲でヴォーカルを務めるのはヴァネッサ・フリーマン、そしてバトンを受けてベンベ・セグエへ。合間には両者の共演が嬉しい新録の“Kowree Sambazzi”を収録。熱心なファンにはお馴染みのメディナ&メンサー曲のカヴァーだ。

好洋「選曲を始めたとき、ブラジル・テイストの曲が足りないなと感じていました。特に初期のKJMはブラジリアンの影響が強い作品もあったので、それならばと新たに録ることにしたんです。いくつか候補曲があったのですが、今年〈KJM30〉ツアーで兄がほぼ毎回DJでプレイしている“Kowree Sambazzi”をやるべきではないかと僕が強く推したことからこの曲をカヴァーすることになりました」

修也「作曲者のジェフ・メディナさんと連絡を取り、カヴァーの許可を直訴したのがいい思い出ですね。出版社が調べられず、Facebookで見つけて〈“Kowree Sambazzi”の方ですか?〉と訊いてみたらご本人でした(笑)。KJMのこともアルバムのジャケ・デザインも気に入っていただいて嬉しかったです」