歌もののなかで唯一ふざけた“Tokyo OP”
――先ほどもドラムスの話が出ましたけど、今回は5人のドラマーが参加されてて、ドラマーごと、曲ごとにもそれぞれ音が特徴的ですね。曲ごとのドラマーを起用する基準はどういうところにあるのですか?
佐藤「クリフ・アーモンドはNYから呼ぶのも大変なので、ツアーに参加してもらう途中で中3日あるみたいな時にレコーディングしましたね。“風は野を越え”なんて曲の尺も決まってなくて、〈こんな曲だからこんなテンポで叩いて〉っていう簡単なオーダーでやってもらいました。だから、割と〈たまたまその人とできた〉っていう曲が多いんです。そうじゃないのは“News”くらいですかね。〈この曲は(屋敷)豪太さんとできたらうれしいです!〉ってお願いして」
――そうだったんですね。
佐藤「“How Can I Do?”は去年の音博の前に録ったから(戸渡)ジョニー君でしたね。朝倉(真司)さんと(石若)駿君は、ライヴでやる前に一度合わせておきたいっていうのでツアー前にレコーディングしました」
ファンファン「そうでしたね」
佐藤「事前に一度会話しておけば、ツアーのリハになってもやりやすいですからね」
――そんななか、歌を大事にしたという今作では、リズムの面で言ってもインストの“Tokyo OP”だけは異彩を放っていますね。これは当初〈歌もの〉と〈ふざけたもの〉の2作に分けようとした際の後者用の曲ですか?
佐藤「そうですね、ふざけたものです。ツアーでもやりましたけど、インパクトはありますよね。みんな好きそうだし、アルバム制作中の最後に繁君が〈12枚目のアルバムなのに11曲入りはおかしいやろ〉って言い出したのもあって入れました。〈なんでやねん!〉って思いましたけど(笑)。そういうのもあって、ツアー中は〈この曲は次のアルバムには入れない〉って言ってたのに入れたんですよね。でも、結果この曲があってよかったと思います」
――ツアー中は〈東京オリンピック〉というタイトルだったと思うのですが、オリンピックをイメージされてる曲なんですか?
佐藤「ギターにDADGADっていうチューニング方法があって、繁君がそのチューニングの時の練習用フレーズが元になってるんです」
ファンファン「2年前くらいですよね、あれを弾き始めたのは」
佐藤「かなあ。それでプリプロ後にまたそれを弾いてたから〈それ拍どうなってるんやろな〉とか言って〈一回打ち込んでみるか〉ってことになったんです。それで別にあったBメロと繋げたら〈これ曲になるんちゃう?〉て言って、さらに真ん中の訳わからん教会パートみたいな、あの部分を書いてきて(笑)。〈すごいなあ〉って言って。それでこんな感じになりました(笑)。当時オリンピック、オリンピック言われてた時期だったからかなあ? あと、くるりには珍しい体育会系な曲だし、演奏するのが大変っていうのもあって、そういう意味でモチーフとして出てきたのかもしれないですね」
――これって何拍子の曲なんですか?
佐藤「解釈によって違うから、弦楽器とドラムスでもリズムの取り方が違うみたいで、結局全部で何拍がいくつあるとかは自分も知らないんです(笑)」
ファンファン「私もいまだにわからないです」
――プログレみたいですよね。
佐藤「プログレ・バンドになれたんじゃないですかね(笑)。でもプログレって構築美じゃないですか。それとは違う体育会系のノリだし、きっかけもフレーズが弾けたから嬉しいってだけですからね(笑)」
岸田繁はどこへ行くのか?
――プログレという話も出ましたが、岸田さんってロックやフォークという地盤があり、これまでもメタルやパンクに影響を受けたり、エレクトロに行ったり、クラシックや民族音楽に行ったりと、いろんな音楽をくるりに取り入れてきましたよね。今後の岸田さんはどうなっていくと思いますか?
佐藤「何も考えてないと思います(笑)。そういうのって本当にたまたまなんですよね。例えば前作ではサズー(トルコの民族楽器)をよう使いましたけど、(京都・)磔磔でのライヴの日に急に買ってきて、〈弾き方もわからへん〉とか言って、ライヴのアンコールのソロで1回持ってきたんですけど4小節くらいで諦めて戻してて(笑)」
ファンファン「覚えてますそれ(笑)」
佐藤「でもサズーとかエレキ・シタールとかを、ふと曲の最中に使ってみたら音がハマったっていうことがあって。微分音(半音より細かい音程)が出せるから、自分たちにとって新しいというのもあったんでしょうね。そういうことから〈あの楽器、この曲にも入ってなかったけど入れてみよっか〉〈合うやん〉みたいになり、アルバムの方向性や統一感が決まっていくんですよね」
――それが先ほどおっしゃっていた〈スパイス〉ですか。
佐藤「そうです。例えば『ワルツを踊れ(Tanz Walzer)』の時だったら、そのレコーディングの前にプライヴェートで旅行して、コンサートで感動したから、これをくるりのお客さんにも味わってもらいたいっていうので、いきなりその年にウィーンに行ってみたりだとか」
――なるほど。
佐藤「次のネタを探そうとして探してるわけではなくて、何かにビビビッときたら〈これって何が楽しいんやろ〉ってことが理解できるまで突き詰めて、自分たちの血肉にしていく人なんじゃないかなって思いますね」
――それでは最後に、毎回さまざまな方向に突き進んでいく岸田さんのことを、お二人はどのように思っているんでしょうか?
佐藤「今作は基本に忠実にフォークだったから、それを素直にやりましたけど、〈次はテクノやん〉って言ってそうなる可能性もあります。でも、バンドとしては同じものとか焼き直しとかはやりたくないですからね。そうじゃないところで自分が刺激になることをやり続けないと、そんなバンドすぐ終わると思うんです。ファンちゃんも入ってくれて6、7年、体制もいろいろ変わりましたけど、これだけ続けられてるっていうのは、そういう変化を楽しめるメンバーとスタッフさんがいるからなんだろうなっていう気はします」
ファンファン「私は、岸田さんも佐藤さんもすごく音楽に詳しくていろいろ教えてもらうんですけど、すごい人たちと一緒にやってるんだなって日々思います。自分って普段、何も物事を真剣には考えてないんですけど、産休・育休をいただいて復帰をするまでの間に、バンドにおけるトランペットっていう楽器の必要性みたいなことを初めてちゃんと考えて。自分のいないくるりのライヴやレコーディングを観たら、よくわかんなくなってきてしまって」
佐藤「そんなの考えるだけ損やろ(笑)」
ファンファン「でも去年の夏フェスで復帰する前に、今まで無理に吹いて、曲を良くなくしてたところもあった気がしたから、初めて岸田さんに話をして。そしたら〈曲自身が大事やから、無理に吹くんじゃなくて、1曲分、次の曲の準備をしてるだけでもいい〉って言ってくれて、それくらいの気持ちでラクにいたらいいんだと思って。その言葉が、復帰してからの自分的にはすごく大きいですね」
佐藤「音博ではよく“宿はなし”っていう曲を最後にやるんです。2番の後に間奏があって、音源では歪んだ6弦ベースを自分が弾いているんですけど、ライヴではファンちゃんがトランペットを吹くんですよ。で、一番最後だから唇も疲れててなかなか高い音が出にくくて、みんなで〈がんばれよ〉って思って見守っているんですけど、いつぞやの音博では悩んだのか、最後の最後の音でトランペットじゃなくて歌ったことがあって(笑)。それがすごい衝撃的でおもしろかったんですけど、でも言ってしまったらそんなのどっちでもいいんです。人前で何がベストか自分でいかに考えてやるかっていうのが一番大事なことで、無理して絶対こうでなくちゃいけないとかないから。だから今作でもファンちゃんがいない時に録ってた曲は後からファンちゃんのパートを足したりしてないですし、そういうところに変な気遣いはないです」
――改めて良いバンドだと思います。ありがとうございました。
Live Information
タワーレコード新宿店20周年祭 LIVE ~FUTURE OF BASIC~
11月3日(土)東京・Zepp DiverCity
開場/開演:17:00/18:00
出演:くるり、ハンバート ハンバート
前売り:1F立見4,980円/2F指定席5,500円(税込)※1ドリンク代別
※3歳以上チケット必要/未就学児童は、保護者同伴の場合のみ入場可能
チケット一般発売:10月6日(土)10:00~