オリジナル・メンバーが久しぶりに集まって音を鳴らした新作『感覚は道標』……いまの3人はどんな世界を奏でる?

 約20年ぶりにドラムスの森信行が新曲の制作に参加し、オリジナル・メンバー編成で14作目のアルバム『感覚は道標』を完成させたくるり。その過程を追った自身初のドキュメンタリー映画「くるりのえいが」も10月13日から劇場公開およびデジタル配信されるとあって、ここに来てバンドはふたたび熱い注目を集めている。

くるり 『感覚は道標』 スピードスター(2023)

 アルバムの幕開けはローリング・ストーンズが薫る王道のブルース・ロック“happy turn”。これまで幾度かのメンバー・チェンジを経てもそうだったように、今作で鳴っているのもまぎれもないくるりサウンドではある。とはいえ、パッションむき出しで美しい乾きを残す森のドラムが入ったことで、明らかにロック・トリオ然とした音像に仕上がった。2曲目“I’m really sleepy”における岸田繁の野太いヴォーカルと奔放な歌詞、佐藤征史のメロディアスなベースラインからも、初期のラジカルなノリ、楽しげなセッションの様子が目に浮かぶ。全編でクラシックの要素やフォーキーさを抑えた点も特徴的。『感覚は道標』のタイトル通りに引き寄せられた静岡・伊豆スタジオという場の影響だろう。

 イントロから名曲“ばらの花”を思わせる“朝顔”には、キュンとさせられること必至。そんなセルフ・オマージュも多く含ませつつ、確実にあの頃は表現できなかった、いまの3人の音が聴こえてくるのが味わい深く、20年の歳月を感じずにいられない。“California coconuts”では、心地良いインディー・ロックの一方で、〈もし 僕の身体が動かなくなる日が来たら〉などと死生観が自白的に綴られる。

 ロック・バンドの存在価値を笑い飛ばすような妖しく痛快なブギー“LV69”、搾取や誹謗中傷を憂う社会風刺ソング“世界はこのまま変わらない”、ワールドワイドなビートが光る“お化けのピーナッツ”など、くるりならではの遊び心もたっぷり。終盤“In Your Life”で近年の慈愛モードが表われ、ノスタルジックながらも懐古趣味に陥らない瑞々しさを編み出せているのが本当に素晴らしい。人生のサウンドトラックになるかも。

くるりの作品。
左から、2023年のEP『愛の太陽EP』、2002年作『THE WORLD IS MINE』(共にスピードスター)