ビッグバンドを現代的に採り入れたサウンド上で解き放たれる得難いダンディズム――あれから10年、スターになることを夢見る男の、ソロとしての第一歩!

スターになる

 2008年のある日、スターになることを夢見たとある男が東京をめざして故郷の岩手県宮古市を旅立った。彼が家族/仲間たちに残したのは「俺はビッグバンドを率いたアルバムでソロ・デビューするんだ」という言葉。――それから10年、その夢がついに実現した。異形のヒップホップ・グループ、SANABAGUN.や〈ニュー・サムライ・ロックンロール・バンド〉を謳うTHE THROTTLEで活動する稀代のエンターテイナー、高岩遼のファースト・ソロ・アルバム『10』がそれだ。

高岩遼 10 ユニバーサル(2018)

 「〈スターになるんだ〉と言って18のときに田舎を出てきたんですよ。しかもやるのであればビッグバンド。高校生の頃からレイ・チャールズやスティーヴィー・ワンダーが好きで、フランク・シナトラと出会ってから歌手になりたいと思うようになった。とにかくデカイことがやりたかったんですね」。

 高岩はそう話す。当時は完全にアメリカ志向。〈ゴッドファーザー〉シリーズなどのギャング映画を食い入るように観ては、スクリーン上のマフィアたちに憧れを抱いていたという。その時期に培われたダンディズムは現在の高岩の世界観の下地となっていく。

 そして、大学時代には念願だった17人編成のビッグバンドを結成。同バンドには現SANABAGUN.のメンバーの一部も参加しており、高岩は「自分にとっての原点」と話す。

 「ただ、当時やってたのは完全にシナトラの模倣。〈目立ちてえ、格好つけてえ〉っていうだけだった。それが、ある日アパートの鏡を見ていたら、自分が日本人だということに気付かされたんです。それで永ちゃん(矢沢永吉)や石原裕次郎を超えることを目標にしたんですね」。

 そうした思いはSANABAGUN.やTHE THROTTLE、さらにはジャンルレスな表現者集団であるSWINGERZの結成に結び付いていく。

 「もちろん自分の歌唱法や立ち振る舞いはジャズから学んだものなので、意識しなくても出てくる部分はあると思います。でも、自分はジャズ・シンガーではないと思いますね」。