ファンクの伝道師7人組が帰還! コミュニケーションの楽しさ、社会のムードに対して思うこと――日々の感覚で作り上げた新作には、ライフそのものの音が鳴っている!

 在日ファンクが帰ってきた。アルバムとしては2018年の『再会』以来、実に5年ぶり。『在ライフ』と題されたその復活作には、彼ららしい濃厚なファンクがギッチリ詰まっている。

在日ファンク 『在ライフ』 KAKUBARHYTHM(2023)

 ここまでの歩みは紆余曲折だった。2020年には浜野謙太(ヴォーカル)が椎骨動脈乖離の治療のため入院。コロナ禍の影響もあり、表立った活動はいったんストップしてしまう。浜野はこう話す。

 「在日ファンクはアナログなバンドなんですけど、そうも言ってられないので遠隔で作業をやりはじめたんですよ。1人ずつ録音していって、それをミックスしたり。そのことによってメンバーの録音スキルも成長しました」(浜野謙太)。

 のちに触れるように、そこで磨かれたスキルは新作の制作に活かされることになる。

 2021年8月に渋谷WWW Xで復活ライヴを行うと、2022年には在日ファンクとして舞台「室温~夜の音楽~」に出演・生演奏。同年から今年にかけては、樋口楓“恋すな”、鈴木雅之“スポットライト”、s**t kingz“衝動DO”などさまざまなアーティストへの楽曲提供を行う。作詞作曲の中心を担った浜野はこう言う。

 「コラボ曲は曲を作る段階で複数メンバー間でアイデアを投げながら作っていったんですよ。すごく捗ったし、自分自身も軽くなり、かえってシンプルでパワフルな曲が出来るようになりました」(浜野)。

 そうした再生期間を経て、浜野の意識も少しずつ変化してきたという。

 「在日ファンクはコミック・バンドに見られがちなんですけど、それだけじゃない!とずっと意地を張ってたんですよ。でも、そういうさもしい自己顕示欲はもう置いてきた感覚があって。ここにメンバーがいて、ファンクへの渇望があって、みんなの笑顔を見られるんであれば、なんでもします、そういう気持ちになれたんです」(浜野)。

 コラボ曲で培われた制作方法は新作『在ライフ』にも反映されている。

 「いままでは僕のなかでいいイントロが出来たとしても、そのあとの展開が思いつかなくてボツるのがあるあるだったんですよ。今回は煮詰まった瞬間、仰木(亮彦/ギター)に投げたらパーッとBメロを作ってくれる。で、そこで仰木も止まるんですよ(笑)。でも、そこで僕に投げ返してもらうと、また新たな広がりができるという無限。だから、今回は共作が多いんです」(浜野)。

 「以前はリハの段階で細かいアレンジの調整をしていたんです。でも、コロナがあったことでリハの前にLogicのファイルを投げ合って、そのうえでリハに臨むことが当たり前になりました。結果的により細かくアレンジを詰められるようになったと思います」(仰木)。

 いわば全員野球である。在日ファンクは個人の能力で戦うのではなく、チームの総合力で勝負するバンドへと進化を遂げたのだ。スウェッティーなJB流ファンクが炸裂する“今から本気”、仰木がソングライティングの中心を担う“在来外来”や“ハラワラナイト”、浜野が日常の風景をしっとり歌う“いつもどおり”など、ヴァリエーションの広さは過去最大。細かいアレンジにこだわりながら、曲そのものの強度は明らかに増した。

 そこに彩りを加えているのが、七尾旅人、YOUR SONG IS GOODのサイトウジュン、SANABAGUN.の高岩遼、片想いのMC.sirafu、高橋佑成といったゲスト陣だ。浜野1人が担っていたものを他者と共に作り上げていくというスタンスは、ゲストを迎えた楽曲にも通じている。浜野はこう話す。

 「“平和”を作ったとき、ここ何年かでいちばんやりたかったことができたという手応えがあったんですけど、僕らだけでは背負いきれない広がりがあって。そのなかで仰木から〈旅人さんと一緒にやるのはどうかな〉というアイデアが出てきて。旅人さんは入管法改正案について何年も前から反対の声をあげていたし、僕自身、彼の社会的姿勢にすごく触発されていたんです。旅人さんが入ってくれたことで、ある種の重みがある曲になったと思います」(浜野)。

 ジェントル久保田(トロンボーン)の歌詞から作り上げた“おすし”は初めてセッションで作った。

 「この曲が出来たのは自分たちでも衝撃でした。音楽においては楽しいことが正義なんだ、とあらためて思いましたね。演奏もダンスもリラックスしてやるのがいいというのは前からわかってたんだけど、今回ようやくそれをやれた気がしています。身体の使い方がやっとわかってきたんじゃないかな」(浜野)。

 最後に『在ライフ』というタイトルに込められたものについて浜野はこう話す。

 「タイトルをメンバーから募ったら、ドラムの永田(真毅)がこれを挙げてきたんです。今回は意地から解放されたからなのか、地に足のついた曲で構成されていると思うんですね。音の土台には生活がある。でも、それと高い理想は決して乖離していない。ここにライフがあるんじゃないかと思ったんです」(浜野)。

在日ファンクの近作と近年の参加作を一部紹介。
左から、在日ファンクの2020年のシングル“おかんむり”、同2018年作『再会』(KAKUBARHYTHM)、鈴木雅之の2023年作『SOUL NAVIGATION』(エピック)、樋口楓の2022年作『i^x=K』(ランティス)

『在ライフ』に参加したアーティストの作品。
左から、七尾旅人の2022年作『Long Voyage』(SPACE SHOWER)、SANABAGUN.の2019年作『BALLADS』(ビクター)、YOUR SONG IS GOODの2020年作『Sessions 2』、片想いの2021年の編集盤『B my baby』(共にKAKUBARHYTHM)、高橋佑成&中牟礼貞則の2022年作『NU』(地底レコード)