渋谷のストリートを拠点にライヴを繰り広げている巷で噂のジャズ/ヒップホップ・バンド、SANABAGUN。 スキルも確かなプレイヤーたちが鳴らすジャズやファンク、ブレイクビーツにラップ&ヴォーカルを乗せたクール極まりない彼らの音楽は、いったいいかにして生まれたのか――それを炙り出すべく、サナバの構成員に自身の滋養となっているアーティストの作品をカメラの前で紹介してもらう連載、ちょっと時間が空きましたが第4回!  今回も高岩遼(ヴォーカル)、岩間俊樹(MC)のフロント・コンビを進行役に、SANABAGUNの映像コンテンツを担う川村静哉監督のもとお届けします!

今回は、サックスを担当する大男・谷本大河が登場。映像内で紹介している楽曲と共に、そこで語られている内容をテキストでも掲載しますが、オモシロ話は映像に集約されているのでどうぞ両方ともご覧ください。取材から時間が経ってしまい、メンバーの服装に夏っぽさはゼロですが、そこは突っ込まないで!

 


 

【前編】

高岩「今回は、ついこの間までしばらく病院の家畜になっていた、あの大男を紹介したいと思います!」

谷本「SANABAGUNでサックスを吹いております、谷本大河です。皆さん初めまして!」

高岩「ではさっそく、1枚目のご紹介を!」

谷本「1枚目は、ブレッカー・ブラザーズの『Heavy Metal Be-Bop』というアルバムを紹介します」

THE BRECKER BROTHERS Heavy Metal Be-Bop Arista(1978)

一同:パチパチパチ

高岩「『Heavy Metal Be-Bop』!」

谷本「タイトルがイカすんですよね、『Heavy Metal Be-Bop』」

高岩「どういうこと?」

谷本「掛け合せちゃってますね~。この人たちはフュージョンのバンドなんですが、リーダーが兄弟なんです。兄貴はトランペッターのランディ・ブレッカーで、弟はテナー・サックス奏者のマイケル・ブレッカー。当時最先端だったフュージョンという音楽をガツガツ演奏する、というアルバムになっております」

【参考動画】ブレッカー・ブラザーズの78年のライヴ映像

 

高岩「ほぇ~」

谷本「今回は僕の音楽人生的に分岐点になった、ターニング・ポイントになったアルバムを持ってこようと思いまして。これは僕がサックスを始めた時に、当時のコーチが聴かせてくれたアルバムです。ジャズをやりはじめたけどまず何を聴けばいいか、となった時に、コーチも気を遣ってくれたのか、ビバップやいわゆる昔ながらのジャズをいきなり聴いても難しいだろうから、最初はこういったファンキーなアルバムから聴いたほうがのめり込むんじゃないかという思惑があったらしくて。聴かせてもらったら、まあ~圧倒的に楽器が上手い!」

高岩「なるほど」

谷本「ブレッカー・ブラザーズは70年代~80年代に活躍したバンドなんですけど、この人たちの世代は小さい頃にジャズを聴いて育っているんですよ。時代的にスタジオの仕事が盛り上がってきている時代、ミュージシャンがジャズだけをやるんじゃなくて、スタジオの仕事をしながら自身でジャズをやったり、という人が多いので、50年代とかジャズが栄えていた時代に比べて楽器力が上がっていたんですね」

高岩「なるほど」

谷本「僕は弟のマイケル・ブレッカーがすごい好きなんですけど、彼はジョン・コルトレーンを小さい頃から聴いていて、こういう人になりたいと思っていたわけですけど、そこにスタジオ・ミュージシャンらしいスキルフルな要素が加わって、圧倒的にメカニカルなフレーズを弾くんですけど、フレーズを細かく聴いていると、ジャズだなというか、コルトレーンからの影響が大きいなと感じるところがある。サックスにディストーションをかけてたりするんですよ」

【参考音源】ジョン・コルトレーンの57年作『Blue Train』収録曲“Blue Train”

 

高岩「うんうん」

谷本「サウンド的には70年代~80年代に流行ったエレクトロニックな音も入ってるんですけど、要所要所を聴いていくと、ジャズの薫りがする。まあ、すごく有名なアルバムなので、知ってる人ももちろんいると思うんですけど、皆さんにぜひ聴いてほしいなと」

高岩「ジャズとか知らねーなという人に、まず聴いてみたら?と」

谷本「オススメできるアルバムになっています」

岩間「じゃあジャズを薫らせていただきましょうよ」

谷本「2曲目の“Inside Out”」

谷本「ノリとかカウントはこの時代の感じですね」

高岩「ブルースだね。ジャズにおけるブルース」

谷本「超昔のスタンダード曲をこういうサウンドでやっているんです。形式はジャズな感じで。トランペットにもディストーションをかけたりして、エレクトリックな音で表現しているんですね」

高岩「カッコイイね」

谷本「もう1曲紹介したいのがありまして……」

谷本「僕、アルバムのなかでも特にこの“Some Skunk Funk”を聴いて、ワー!ってなったんですよね。それまでも普通にいろんな音楽を聴いてきたなかで、〈こんな音楽聴いたことない!〉となった。不協和的な、メロディーになってるのかなってないのかわからない、けどバックのリズム隊との兼ね合いもあってちゃんと曲になってる。スリリングな感じも好きで、この曲を聴いた瞬間に、うわ~コイツら超カッコイイなと思いまして」

高岩「この曲が大河をSANABAGUNに入れたといっても過言ではないと」

谷本「うーん、まー…そういうことになるかな。僕はプレイ的に、兄貴も上手いんですけど、弟のサックスのプレイが大好きなので、そういったあたりも聴いてもらいたいと思います」

高岩「俺思うんだけどさ、これはジャズでもあるじゃん。南部のブルースが北部に渡って洗練されてジャズになり、ビバップとかハード・バップが生まれて……っていう流れがあって、そのうえでこういう音楽が生まれたわけでしょ。個人的な意見なんだけど、こういうファンキーなものって日本人が好きだよね。単純にカッコイイって思えるから手を出しやすいし。だから若い奴らはこういうのをトライしたがるけど、ブレッカー・ブラザーズには(そこに至るまでの)裏付けがあるわけでさ。だからやるんだったらそういうところまで掘らないといけないと思うんだよね」

谷本「それはすごく思うよね。向こうのジャズ・ミュージシャンは何でもできるじゃないですか。日本だと、ジャズはジャズで、ファンクはファンクで、ロックはロックで、と分けて考えているけど、向こうの人たちはいろんな音楽を聴いて育ってきているからどのジャンルでもある程度できるというか。日本はいろんなジャンルが別々に(欧米から)流れてくるから、(その時系列が)わからないんだと思う。音楽をちゃんとやりたくて掘っていけば、そういった流れがわかるようになると思うけど、単純にこれだけ聴いたら〈こういう音楽があるんだ〉という印象しかないかもしれないよね」

高岩「これはジャズなんだとわかる人は日本だと少ないかもしれないね。ロックじゃないの? ファンクじゃないの?みたいなさ」

 

後半】

高岩「そんなわけで、2枚目は何を紹介してくれるのかな谷本くん!」

谷本ウータン・クラン『Enter The Wu-Tang: 36 Chambers』を持ってきました」

WU-TANG CLAN Enter The Wu-Tang: 36 Chambers Loud/RCA(1993)

高岩「ヒップホップきましたね」

谷本「前編で紹介したアルバムもそうなんですが、僕の分岐点となったアルバムです。高校から音楽を始めて、ジャズをずっとやってきたんですけど、大学生の頃のある日、高岩君と町田で遭遇して、ひょんなきっかけでSANABAGUNを始めたんです。その時に、(高岩)遼が〈ヒップホップを生バンドでやりたい〉と言っていたんですが、僕はあんまりピンときてなかったんですよ。ヒップホップという音楽には興味あったんだけど、生バンドでやる、これカッコ良くね?という時に、おもしろそうだなと思ったけどちょっとピンとこないところがあって。でもそもそもヒップホップを知らないんだなと思って、その時に高岩くんが〈これだよ! とりあえずこれ聴いとけ〉と紹介してくれたのがこのアルバムなんです。3年前くらいですかね」

高岩「すべて嘘です。それ俺じゃない」

谷本「ウソ!……まあ誰でもいいんですけど紹介してもらって、ヒップホップというものを初めて意識的に聴いたのがこれで。俺のイメージだとヒップホップの人はやっぱり怖いな、やたらファックって言う、みたいな……」

高岩「やたらピー(自主規制音)って言う(笑)」

谷本「そうそうそう(笑)。でもこれがクラシックのヒップホップだっていうから聴いてみたんですけど、いや~もうホントに、こんなにファックって言うんだっていうくらいファックって言ってるんですよ。俺がヒップホップってこんな感じなのかなとイメージしていた通りで、こういう音楽なのかとある意味新鮮で。ジャズと通ずるというか、(ヒップホップも)黒人が始めた音楽じゃないですか、それもあって、フロウの仕方が黒人だからこそ出せる感じだな思って」

高岩「リズムがね」

谷本「ウータンのメンバー9人それぞれが個性的で、歌詞もおもしろいんですけど、リズム的な部分で、こういうビートの上でこんなフロウでやってるのか、とおもしろいなと思うことが多くて。皆さんに聴いてほしい一枚となっております」

高岩「ちなみに……俺、ウータンあんま聴いてないから」

谷本「おかしいな……」

高岩「俺のヒップホップはウィル・スミスだから(笑)。ウィル・スミスっていうかフレッシュ・プリンス

谷本「生音っぽいのがおもしろいなと思って。この↑“Bring Da Ruckus”はRZAがトラックを作ってるんですけど(このアルバムでは一部共作もあるが全曲をRZAがプロデュース)、彼はその後、映画「キル・ビルVol.1」のサントラのプロデュースに関与していたりするし、ウータンはメンバーそれぞれが単独でも活躍しているんですよね」

谷本「これは曲名が“Method Man”というんですが、メンバーのメソッド・マンがフィーチャーされています。彼のフロウがすごく好きで、独特の声質やスモーキーな感じ、そのわりには拍に対してパツパツ決めていくところがすごくいい。そういうところに注目して聴いてもらえるとおもしろいのではないかなと」

高岩「この連載でヒップホップ持ってきた人は初めてだね」

岩間「そうだね」

高岩「意外とびっくりしてる。みんな持ってきてなかったから」

谷本「俺はサナバを始めた頃に影響を受けて、こんな音楽あるんだと教えてもらった一枚だから。俺はメソッド・マンのフロウがいちばん好きですけど、ゴーストフェイス・キラーはソフトというか、ジャジーなイメージがあって、それもカッコイイと思うし、メンバーそれぞれ個性が強くておもしろいなと。リベラルさんはどうですか?」

【参考動画】ゴーストフェイス・キラーの2014年作『36 Seasons』収録曲
“Love Don't Live Here No More”

 

岩間「ウータン・クランは全然聴いてない。フロウ……そんなに意識したことないです。そういう観点で捉えるのってしっかり音楽を勉強しているからこそかもしれないね。ヒップホップが好きな人ってそういう観点でみてるのかな、結構アバウトっていうか感覚的なものだと思うんだけど」

谷本「特に英語だしね」

高岩「大河はジャズ好きだからさ、ああいうレガートっていうかスウィングしているところにおいてのリズムの捉え方はかなり渋いよね」