昨年に結成15周年という節目を迎えた3人組・avengers in sci-fi(以下、アベンズ)が、新EP『Pixels EP』をリリースした。〈ロックの宇宙船〉とも形容される、エフェクターを多用したスペイシーなダンス・ロック・サウンドで他のミュージシャンからも厚い信頼を置かれる彼ら。本作ではこれまで以上にサンプラーを多用し、伝統的なロックの制作プロセスではないやり方でロックを表現したという野心的な内容となっている。Mikikiではそんな『Pixels EP』とアベンズの現在地に、2つの特集で迫ってみたい。
まず第1弾としてお届けするのは、『Pixels EP』の収録曲“2019”にフィーチャーされているTENG GANG STARRのkamuiと、アベンズの木幡太郎(ヴォーカル/ギター)による特別対談。木暮栄一(the band apart)やDATS、DE DE MOUSEがそれぞれリミックスで参加するなど、様々なアーティストとのコラボレーションに挑んだ『Pixels EP』のなかでも、およそ一回り世代も異なる両者の共演は際立って意外に思える。だが、聞けば両者の親交は互いの音楽活動を知る前からすでに始まっていたのだという。そんな二人の対話はヒップホップとロックの両側から音楽シーンの現状を探る、非常に興味深いものとなった。
★第2弾は次週公開予定!
カッコよかったので、正直ちょっとムカついた(木幡)
――まずは今回TENG GANG STARRが参加した“2019(No Heroes)”という曲のタイトルについて教えてください。木幡さんがここで新曲のモチーフを〈2019年〉とした理由とは何だったのでしょうか?
kamui「俺はすぐにわかりましたよ。送られてきたデモに〈2019〉という仮タイトルが付いてた段階で〈たぶんこれはそういうことだな〉と。当てちゃっていいですか?」
木幡太郎「どうぞ(笑)」
kamui「これは『AKIRA』なんです。『AKIRA』って、2020年に東京オリンピックが開催される1年前のネオ東京が舞台なんですけど、多分この〈2019〉というタイトルは、その『AKIRA』で描かれたような世界観を曲にしたいってことなんだろうなと」
木幡「うん。あと、『ブレードランナー』も2019年なんですよね」
kamui「そうそう。で、いよいよ来年はそういうアニメとかSFで描かれていた世界にリアルが追いつくっていう」
木幡「もう、ぜんぶ説明されちゃったな(笑)。まさにその通りで、僕らが若い時に未来とされていた時代がいよいよ訪れるってことには、やっぱり何かクるものがあったんですよね。〈平成最後の年〉っていうのも含めて、2019年はすごく象徴的な年になるような気がしてて」
――つまりそれは、SFで描かれていた世界が現実に訪れることへの興奮を表したかったということですか?
木幡「うーん。ワクワクするというよりは、なんか不思議な感じですよね。別にこういう変化を望んでいたわけでもないし、むしろいまはスマホから常にアップデートを急かされたり、こっちが変化を必死に追いかけているような状況でもあるわけで」
――〈2019年〉がやってくることに対して、kamuiさんはどんなことを思っていますか?
kamui「僕の場合は普通にワクワクしてるだけですね。『AKIRA』も『ブレードランナー』も全然後追いだし、その時代が近づいてきたってことに関しては〈いよいよ自分もあの世界観のなかに入り込むんだな。やった!〉みたいな」
木幡「kamuiは『AKIRA』や『攻殻機動隊』みたいなアニメもそうだし、映画全般がすごく好きだよね? 彼は見た目はこんな感じだけど、いい意味ですごくナードなところがあって、好きなものがわりと近いなーとは、以前からよく思ってたんです」
――それにしても、今回の共演はかなり意外でした。アベンズがこの曲でTENG GANG STARRをフィーチャーしたきっかけとはずばり何だったんでしょうか?
木幡「俺はロック畑で生きてきたこともあって、まわりにヒップホップの話をする人がいなくて。kamuiがそのへんを好きだと知ってからは、よく〈XXXテンタシオンってどうなの?〉みたいな話をしてたんです。そしたら彼が〈実は自分もラップやってる〉というので、教えてもらった“Livin' The Dream”のミュージック・ビデオを観てみたら、これがえらいかっこよくて」
――あ、音楽活動を通じて知り合ったわけじゃないんですね?
木幡「そうなんです。3~5年前だったかな? 実は僕、わりと長いこと副業をやってるんですけど、それがきっかけで知り合うタイミングがあって。でもまさかラッパーだったとは(笑)」
kamui「まあ、俺は〈ラップやってますよアピール〉を普段しないんで(笑)。でも、太郎さんはDJもやってるし、〈カニエの新譜、聴きました?〉みたいな音楽の話が普通にできてたんですよね」
木幡「で、MVを観てカッコよかったので、正直ちょっとムカついちゃいましたよね(笑)。〈こいつ、音楽ちゃんとやってたんだな〉って。ゴリゴリのヒップホップ・シーンでやりつつ、TENG GANG STARRはけっこうクロスオーヴァーな要素もあって純粋におもしろくて」
――お互いの活動を知らずとも、自然と通じ合うものがあったと。
kamui「俺はMVも自分で作ってるんですけど、その太郎さんが観てくれた“Livin' The Dream”のMVは、それこそ『ブレードランナー』とか『AKIRA』みたいな近未来をイメージして撮ったんですね※。そしたら太郎さんから〈タイトルのフォントがよかった〉とDMがきて」
※“Livin' The Dream ft. MIYACHI”のリリックにも〈アキラ〉〈ネオ東京〉などといったワードが出てくる
木幡「そうそう、あのMVはフォントからして思いっきり『ブレードランナー』なんだよね」
kamui「俺はそこに気づいてもらえたのがすごい嬉しかったんですよ。だから、今回は俺らが持っているそういうSF、近未来的な世界観なんかも含めて依頼してくれたのかな?と思ってて」
木幡「それはそうですね。僕らsci-fi=SFと名乗るほどなんで、ラッパーをフィーチャーするならまずはkamuiに声をかけてみたいなと思ってました」
ヒップホップの音響的な気持ち良さに惹かれる(木幡)
――そもそもラッパーをフィーチャーしてみようと思ったのはなぜ?
木幡「さっきも言ったように、もともとヒップホップが好きではあったんです。まあ、基本的にはロックの耳で聴けるヒップホップなんですけど。やっぱりヒップホップの強みはキックとベースだと思っていて。メロディーとか歌詞だけじゃなくて、音色そのものがかっこよさのバロメーターになってる。いまは自分のなかでいちばんヒップホップを聴いてる時期だと思うんですけど、それは音響的な気持ち良さに惹かれてるのも大きいんじゃないかなと」
kamui「ヒップホップ自体、いまはロックとすごい親和性があるんです。それこそトラップなんかは、もうめちゃくちゃバウンスしまくってるし、ライヴではお客さんもモッシュしてる。要はリズムとノリ方が変わったんですよね」
木幡「グランジ的だよね、最近のヒップホップって」
kamui「実際にXXXテンタシオンとかリル・ピープはグランジ・ラップとか呼ばれてるし、格好もそうですよね。みんなスキニー・パンツ履いて、バンドTを着てる」
――こうしてお話をうかがってると、どうやらkamuiさん自身もロックをかなり聴いてるようですね。
kamui「めっちゃ好きですよ。ナイン・インチ・ネイルズとか本当に大好きだし、レディオヘッドもマイブラも大好き。でも、いちばん影響を受けたのはデヴィッド・ボウイかな」
――デヴィッド・ボウイはたしかに納得かも。
kamui「〈ジギー・スターダスト〉(72年)とか、本当に衝撃を受けましたからね。音楽でここまで映画みたいなことがやれるんだって。だから、いまの時代はラッパーたちのなかでロックがファッションになってるけど、俺はそうじゃない。本当に好きなんです」
――kamuiさんにとってのロックはファッションじゃないと。
kamui「そう。ただ、おもしろいのは、昔のヒップホップはドラッグを売る側がラップしてたんですけど、いまは使う側のラップになってるってことで。コカインを吸ったり、LSDでぶっ飛んだりしてる描写とかね。要は、最近のヒップホップは歌詞の内容がどんどんロックスターになってきてるんです」
木幡「ああ、たしかに」
kamui「だから、太郎さんがいちばんヒップホップにハマってる時期がいまだっていう話は、もしかしたらそことリンクしてるのかなって」
木幡「まさにそうですね。やっぱり僕はニルヴァーナが大好きなんで、どっかでカート・コバーンの再来を待っている気持ちはあったんですよ。そういう人がまたロック・バンドから出てこないかなって」
kamui「で、それがヒップホップから出てきたっていう」
木幡「そう、ホントそうなんだよね。リル・ピープなんてさ、もう見た目からしてそんな感じだし、XXXテンタシオンのライヴでモッシュが起きてるのもそう。まさにあれはオルタナ・ロックみたいな光景だなと思って」
kamui「しかも、音自体は二番煎じでもなんでもないんですよね。影響は受けているけど、ジャンルが全然違う。同じくニルヴァーナから影響を受けていても、ロック・バンドだと〈え、またそれ?〉みたいな感じなんだけど、それがヒップホップだと音がフレッシュだから」
アップデートされていくんだけど、なにかが足りない感じ(kamui)
――たしかに。それにしても、ロック・ミュージシャンがいまヒップホップに惹かれるポイントをこれだけ掴んでいて、なおかつ曲で表現したい世界観も理解できていたとなると、今回のコラボはかなりスムーズだったのでは?
木幡「いや、それがねぇ……(笑)。俺、こいつに歌詞を書き直しさせられたんですよ」
――それはフックの歌詞を?
木幡「そうなんです。どうやら元の歌詞にはkamuiのポリシーに反する部分があったらしくて、まさかの添削が入ったっていう(笑)」
――kamuiさんはどんなところが気になったんですか?
kamui「送られてきたデモを聴いてたら、サビの歌詞で現代のテクノロジーについて具体的に触れているところがあったんですけど、それが〈ハッシュタグ〉や〈アップデート〉を全肯定しているように読めちゃったんです。
で、なんかそれは太郎さんらしくないなと。むしろ太郎さんは性格上そういうのが苦手だと思うし、俺らもSNSでハッシュタグばかり付けてるのってホントくだらないと思ってるんで、ここはもう少しブラッシュアップしたほうがいいんじゃないですか、と伝えたんです。いや、ホントおこがましいよな(笑)。すみませんでした(笑)」
木幡「いやいや(笑)。俺としては、ハッシュタグとか、強制的なアップデートに対する皮肉も込めているつもりだったんですけど、たしかに表面上を汲み取られると、逆にそういうことを礼賛しているようにも捉えられかねないなとは薄々感じてたので、あの時それを指摘してもらえたのはよかったよ。まあ、歌詞を変えろと言ってきたときは〈こいつ、なに言ってんだよ〉と思いましたけど(笑)。結果的にはそのおかげで最高の歌詞になったし」
――その修正によって、歌詞はどのように変化したんですか?
kamui「なんていうか、虚無感が出ましたよね。アップデートされていくんだけど、なにかが足りない感じ。〈ロックスターの居た街〉にしても、〈ギャングスタの居た通り〉にしても、すべて過去形なんですよ。つまり、もうここにはロックスターもギャングスターもいないっていう。そこで俺は、テクノロジーの進化によって失われたものを〈ヒーロー〉だと解釈して、自分のヴァースに〈ヒーローなんていないぜ/だけど俺たちまだ死んじゃいないぜ〉と書いたんです。そしたら、太郎さんがこの曲に〈No Heroes〉というサブタイトルを付けたんですよね」
木幡「kamuiから〈これ、ノー・ヒーロー感ありますね〉と言われたときに、いいワードだなと思って。それでちゃっかりサブ・タイトルにしちゃいました(笑)」
――すごい。やり取りの中で曲がどんどん発展していったんですね。
kamui「それこそ〈アップデート〉ですよね」
木幡「実際、こっちはけっこうヒヤヒヤしてましたけどね。もうマスタリングの段階なのにまだラップが送られてこないっていう、なかなかシビれる作業でした(笑)」
kamui「すげえ催促がきましたね(笑)。まあ、ラッパーは追い込まれてからが勝負なんで。次に誰か他のラッパーとやるときは覚えておいたほうがいいっすよ(笑)」
木幡「まあ、確かにこっちもラッパーとの作業は初めてだったんで、そこらへんのタイム感は全然わからないからね」
ヒップホップがいま世界でいちばん聴かれているのは必然(kamui)
――でも、たしかに制作のスピード感とか工程って、多分ロックとヒップホップでは全然違いますよね。ロック・バンドをやってる人間からすると、そこは興味深いところもあるのでは?
木幡「それはありますね。それこそ“Talk Up”(ドレイクの2018年作『Scorpion』収録)とかXXXテンタシオンが死んだら、その一か月後には彼の死についてラップした曲がリリースされてるわけで、そういうスピード感はラップならではだと思う」
kamui「ラップって、やろうと思えば30分くらいでリリックを書いて、残りの30分でレコーディングできるし、実際にそういう人たちはいくらでもいるんですよ。で、結局はそれってみんながTwitterやInstagramでいまその瞬間に起きたことを切り取っているのと一緒で。
つまり、ヒップホップはいまこの時代の求めているスピード感にいちばん適している音楽なんです。でも、ロック・バンドは曲が出来てから発表するまでに、楽器の練習とかどうしてもタイムラグができちゃう。だから、ヒップホップがいま世界でいちばん聴かれているのは必然なんですよね」
――その時代性にどう対応していくのかはロック・バンドの課題ですよね。もしかすると今作がサンプリング主体なのは、そうした時代のスピード感に挑もうという意図も込められていたのでは?
木幡「そうですね、ヒップホップのスピード感に挑戦したいという気持ちはすごくありました。実際、“2019”のトラックも1~2日で仕上げてるんで」
kamui「へえ! いや、声をかけられてからがすごく速かったので、そのスピード感にはホント関心していたんです。しかも、送られてきたトラックのクォリティーが本当に高いから〈マジかよ……〉みたいな。それこそ俺らはトラップばっかり聴いてたから、音もすごい新鮮だったし、あくまでも媚びてないポップソングになっていて、単純にすげえなと思いました。TENG GANG STARRにはこういう曲っていままでひとつもなかったし、たぶんこういうビート・アプローチは俺のまわりでは誰もできないと思う。最後のギター・カッティングとか、かなりアガりましたね」
木幡「褒めすぎだろ(笑)。kamuiはいまこう言ってくれたけど、逆にこっちからすると、ああいうトラップみたいな音の強度って、なかなか出せないんですよ。そこはまだ模索している段階だし、次回以降にまた挑戦したいところですね。あと、いまはクラブで鳴らしたときにかっこいいものにしたいっていう気持ちがあるかな。たまにDJをやる時に、そういう環境でロック・バンドの曲をかけると、どうも音響的に気持ちよくなくて。やっぱりそこは歯痒いんですよね」
kamui「ロックの人がクラブでの鳴りを気にするっていうのはおもしろいですね。これは偏見かもしれないですけど、いまロックをやってる人には新しいサウンドを発信しようと考えてる人が少ないと思っていて。実際、そういうロック・バンドはこれから淘汰されていくだろうし、どんどんロックは衰退していくと思う。だから、太郎さんたちのやり方はかっこいいと思います。これからはそうやって未来を見ている人しか残っていけないんじゃないかな」
――木幡さん、どうでしょう。〈ロックは衰退する〉と言われてますが……。
kamui「反論してくださいよ(笑)」
木幡「どうなんですかね(笑)。まあ、必ずどこかで揺り戻しはあると思うんですけど、その時のロックがトラディショナルな姿をしているとは限らないし。でも、結局〈カート・コバーンの再来〉がロック畑から出てこなかったのは決定打になるような気がするかな。実際、いまの売れてるロックには懐古的なものも多いじゃないですか。1975とか個人的には嫌いじゃないけど、やっぱりあれもリヴァイヴァルだと思うんで」
kamui「いまやロックって〈昔の曲のほうがいい〉みたいになっちゃってるじゃないですか。でも、ヒップホップは新しいものほどいいわけですよ。それって逆に言うと、いまどんなに頑張って作った曲でも、来年にはほぼ誰もそれを聴いてないってことでもあるわけなんですけど。いまはそういう厳しい時代なんですよね。
でも、俺は〈だったら常にずっと新しいものを更新し続ければいいじゃん〉と思ってるから、太郎さんたちみたいなキャリアのある人たちがこうやって新しいことにチャレンジしてるのは、見ていて嬉しいんですよね。こういうロック・バンドもいるんだなって」
木幡「まあ実際、kamuiも言うようにロックはいま難しい時代ですよね。たとえば20年くらい前だったら、レディオヘッドの『Kid A』(2000年)なんかを真似すればそれで最新になれたけど、いまはそういうふうに真似したくなるバンド自体、いわゆるロック畑には、ちょっと見当たらない感じがする」
――いまロック・バンドがフレッシュな存在であるためには、自分たちで道を切り拓いていかなきゃいけないと。
木幡「そう。でも、俺らがやること自体はずっと変わらないんじゃないかな。フレッシュなものを見つけたら〈いまはこれが一番ロックしてる〉とか言って何食わぬ顔で併合しちゃう厚かましさがロックにはあるじゃないですか。いまはヒップホップのほうがよっぽどロックだ!とか言っちゃう感じ。自分たちもそういうノリでこれまでもバンドをアップデートしてきたし、それがロックが生き延びてきた理由なのかなとも思うんですよね」
■avengers in sci-fi
〈avengers in sci-fi “Pixels Tour”〉
11月22日(木・祝前日)東京・代官山UNIT
開場/開演:18:00/19:00
ゲスト:木暮栄一(the band apart)
※詳細はこちら
■TENG GANG STARR
〈LOUNGE NEO16周年 家-Yeah- 5周年 @〉
11月25日(日)東京・clubasia/VUENOS/Glad/NEO
〈LOUNGE NEO16周年 家-Yeah- 5周年〉
12月14日(金)愛知・X-HALL-ZEN-
12月29日(土)東京※TBA
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