インタビュー

TENG GANG STARR『ICON』 持たざる者ならではのポジティヴさを備えた異色のコンビが、過激でカラフルな初アルバムを語る!

TENG GANG STARR『ICON』 持たざる者ならではのポジティヴさを備えた異色のコンビが、過激でカラフルな初アルバムを語る!

野蛮にしてリリカル、カラフルにして暗黒、過激でポップでアヴァンでストイック、持ってないからポジティヴ……苦い歩みの果てで出会ったkamuiとなかむらみなみがエモーショナルな衝動を世に放つ!!

出会うべくして出会った

 「俺は孤立してる人間のほうが結び付く気がしてるし、お互いの持ってるものが共鳴するから出会えるのかなって。自分に嘘ついたり、無理していろんな人たちと関わったりしなかったから会えたんだろうし、出会うべくして出会ったのかなって気がしてます」(kamui)。

 母親の再婚相手と折り合いが悪くグレていったというkamuiと、薬物に手を染める母親のもとで親戚~友人宅を渡り歩き、路上生活に至ったなかむらみなみ——見た目もキャラもバラバラな彼らがTENG GANG STARR(以下TGS)として活動を共にしているのはパッと見では意外だが、それが家庭環境にはぐれた二人の縁だとすれば、出会いは確かに必然とも思える。たまたま乗ったタクシーでエミネム“Lose Yourself”を聴いて直感的にラッパーになると決めたkamuiは、高校卒業を機に名古屋から上京して活動を開始。彼がTGSでトラックメイク(3-i名義)やMV制作を始めたのも、「頼れる人がいなかった」(kamui)からだという。一方、みなみの音楽との関わりは、幼少期に移り住んだ藤沢・辻堂の神社で習いはじめた太鼓がきっかけだった。

 「高校生のバンドを観に行った時、これ私でもできる、やれたらいいなと思ったのもあるんですけど、私たちの町内は地味だったんで、いろんな音楽をお囃子に採り入れていこうということになって(自分も)音楽を始めて。一年ぐらい育てていただいた親戚の家に音楽ができる部屋があって、ギターとかドラム、打ち込みをやって一人でMTRで録音したりもしてましたし、歌詞を書いてギター弾いて、みたいなことはずっと続けてました」(みなみ)。

 そのみなみとkamuiが顔を合わせたのはとあるイヴェントでのこと。外国人を踏みつけながらギターを弾き語る彼女の姿が、活動のさらなる広がりを求めていたkamuiの目に留まった。二人が出会うべくして出会った瞬間だ。

 「みんな笑って観てたけど、俺はいままで見たことがないことを一緒にやりたい、彼女とならそれができるんじゃないかって可能性を感じたんですよ。何より大きかったのは、話を訊いてると母親がダルク(薬物依存症の治療施設)にいたりとか、境遇がすごくて。それを歌詞にすればいいんだよって話しました」(kamui)。

TENG GANG STARR ICON bpm tokyo(2018)

 そうやって、必然に導かれたTGSのストーリーは、時を経てここにファースト・アルバム『ICON』として結実。「前に進むんじゃなく、その場で地団駄を踏むような活動だった」(kamui)という日々から脱し、気鋭のレーベル・bpm tokyoの後ろ盾も受けて、二人はいま夢に生きるべくスタートラインに立った。kamuiいわく「初めて評価してくれた大人」だというThe Anticipation Illicit Tsuboiが今回もミックスを手掛け、ラッパーではいち早くTGSを見い出していたMinchanbabyとWillyWonkaらが客演。プロデュースにもLil'YukichiやLISACHRIS、Soakubeatsと多彩な面々を迎えた本作に、「やっと自分の脳内の妄想が実現できた」とkamuiは胸を張る。

 

何にもないから何でもできる

 なかでも、Masayoshi Iimori制作の“Dodemoii”と、Seihoのリミックスという形で収まった“Livin' the Dream”は、別のフィールドながらもワールドワイドな注目を集める両者の活動に共感してオファーしたんだとか。“intro”に続いて〈まだ見ぬ景色見に行くぞ〉と歌うkamuiに〈何にもないから何でもできる〉とみなみが勢いで応える“S.T.E.P”。kamuiがシンパシーを寄せる村上龍の小説「コインロッカー・ベイビーズ」に出てくるワードを、「自分たちが世の中を変える時に使う合言葉」(kamui)に見立ててタイトルにも付した“ダチュラ(DaTuRa)”。あるいは〈答え合わせとかもうどうでもいい/馴れ合い繋がりとかどうでもいい〉というラインがシンプルに響くIimoriとのド派手な“Dodemoii”……アルバムには、kamui言うところの開き直りと、昨日より今日、今日より明日というポジティヴなパワーが満ちている。

 「おのずとそうなったっすね。じっとしてたら過去しか振り返れないし、いい思い出を作りたいっていう(笑)。二人ならそれができる」(kamui)。

 「楽しいし、音楽ができて嬉しいし、めっちゃ幸せみたいなのがたぶん私で、リリックでも〈楽しい〉ってめっちゃ言ってるんですけど、自分のことが好きなんですよ。だからこれをどう曲に出来るかなっていつも考えてます」(みなみ)。

 〈きっと今よりよくなってる〉——彼らが音楽に描く夢は、ささやかな希望、切な願いに他ならない。アルバム終盤の“きっと”~“Runner's High”にある衒いのないリリックとラップは、それがわかるからこそスッと胸に落ちるし、真に迫って届く。〈誰も見たことがないことをやりたい〉と始まったTGSの二人も、一皮剥けば現在を戦う人間であり、みなみが言う通り、音楽は彼らの一部なのだ。

 「正直、俺らがどこまで行くか俺もわかんないし不安だらけだけど、スタートラインに行くまでにハードルがあった俺らが何かを追い抜いたりとか、そういうところを見てほしいし、それで一人でも勇気もらったって言える人がいたらいいなっていう気持ちですね」(kamui)。

 「今回は名刺代わりで、世界に行きますので見ててください」(みなみ)。

 なお、TGSのアルバム・リリースから数週間後に、kamuiはソロ名義のニュー・アルバム『Cramfree.90』も発表する。ケンドリック・ラマー『Section.80』の向こうを張ったタイトルの同作は、彼いわく自身の過去を描きながら〈ゆとり世代が抱えてる閉塞感、真の自由〉を掘り下げたアルバムとのこと。トラックも含め、TGSとはまた異なる世界を楽しんでほしい。

関連盤を紹介。

 

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