しかも、本作の真価はそれだけではない。自叙伝や未公開の手紙の中に遺されたテキストを、2002年の映画「永遠のマリア・カラス」(フランコ・ゼフィレッリ監督)でカラス役を好演したフランス人女優のファニー・アルダンが命を吹き込むようにして朗読する声や、1970年12月に英国人の人気番組司会者、デビッド・フロストがニューヨークで行ったロングインタヴュー(当時放送されて以来、40年振りに発見されての再公開)の肉声がふんだんに散りばめられ、全編がカラス本人の言葉だけで綴られた〈真実の告白〉で構成されている点こそが、ヴォルフ監督が今回成し遂げた、最大の功績なのだ。

 「彼女を知る数え切れない程の人々に面会しましたが、カラス自身の言葉ほど強く、印象的な証言はなかったのです。彼女の視点で最初から最後まで描くこと以外、あり得ないと思った。これまで数々の偉大な音楽家や作家にインタヴューを行ってきましたが、私がマリア・カラスに会って訊きたい質問とその答えの全てがこの映画には詰まっているはず。それくらい渾身の想いを注ぎ、フィルムを繋いで作り上げたものが本作なのです」

 特に注目すべきは終盤あたりで描かれている、これまでスキャンダルかつ悲劇的に語られてきたオナシスとの関係についての意外な新事実かもしれない。コアなファンにとっては当然の必観映画であることは今さら言うまでもないが、プロフェッショナルとして信念を貫き通し、愛を切望するひとりの女性として、苦悩しながらも全てを受け入れようと変化していくその姿は、観る者全ての心を掴むに違いない!

映画「私は、マリア・カラス」
監督:トム・ヴォルフ
朗読:ファニー・アルダン
出演:マリア・カラス
劇中に登場するセレブリティ:アリストテレス・オナシス(海運王)/バティスタ・メネギーニ(実業家・夫)/エルビラ・デ・イダルゴ(ソプラノ歌手・恩師)/ジャクリーン・ケネディ(元米国大統領夫人)/ヴィットリオ・デ・シーカ(俳優・映画監督)/ピエル・パオロ・パゾリーニ(映画監督)/ルキノ・ヴィスコンティ(映画監督)
配給:ギャガ (2017年 フランス 114分)
©2017 – Elephant Doc – Petit Dragon – Unbeldi Productions – France 3 Cinema
gaga.ne.jp/maria-callas
◎12月21日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー!