2025年9月17日(水)にリリースされるピアノトリオH ZETTRIOとサックス奏者ユッコ・ミラーのコラボレーションアルバム『Dazz On』。すでにアルバムやライブで共演を重ねてきた相思相愛の2組による新作は、どんな音楽世界を聴かせてくれるのか? リリースに先駆けて特別に、ライター落合真理による全曲レビューをお届けしよう。 *Mikiki編集部

自由な即興と構築美、うねるグルーヴ、ライブの熱を閉じ込めたコラボ第2章
9か月前の『LINK』で驚くような化学反応を見せたH ZETTRIOとユッコ・ミラーが、意外なほど早く帰ってきた。9月17日リリースの『Dazz On』は、前作で生まれた信頼と刺激を糧に、より貪欲に自由な音楽へと踏み出したコラボ第2章(本作では名義の順序を入れ替え、H ZETTRIO feat. Yucco Millerとなる。全10曲中、H ZETT M作曲が7曲、ユッコ・ミラー作曲が3曲収録される)。
緊張感が高まった瞬間に、不意に顔を出すユーモア。知的なバイオレンスと子どものような無邪気さが同居するH ZETTRIOに、端正かつ鋭いブロウで切り込むユッコ・ミラー。互いの音がぶつかり、笑い、挑発し合うたび、この作品は生きもののように呼吸しはじめる。今年の5月上旬、H ZETT Mに「ミュージック・マガジン」でインタビューした際、ユッコとのコラボは「フロントマンとして非常に頼もしい。前に出てバリバリ吹けるし、即興のやり取りも4人ならではの面白さがある」(2025年6月号掲載)と語っていたが、今回の再共演はまさに必然の帰結といえるだろう。
ジャズの自由な即興性と構築美、ファンクのうねるグルーヴ、そのすべてが渦を巻きながら、ライブの熱をそのまま閉じ込めたような『Dazz On』。前作をも凌ぐ二者の激しいせめぎ合いこそが、本盤最大の魅力であり、絶妙な緊張感と高揚感をもたらしている。まずは1曲ずつ、その魅力をたどっていこう。
1. Unbound
H ZETT M作曲によるオープニングにふさわしいエネルギッシュなナンバー。歪んだキーボードのリフが勢いよく飛び出し、スピード感溢れる展開の中でユッコ・ミラーのサックスが縦横無尽に駆けめぐる。さらにH ZETT NIREのタイトなベースが地盤を固め、H ZETT KOUのドラムがビートを疾走させることで、グルーヴの熱量は一気に最高潮へ。構成美と即興的なスリルが見事に同居する、鮮烈な幕開けだ。
2. Chili Chili
弾むようなスウィングにのせてユッコ・ミラーのサックスが陽気にブロウする。思わず体が動き出すハッピーチューンで、ライブでの盛り上がりも必至。中盤でのH ZETT Mの鍵盤さばきはマジシャンのように鮮やか。ジャジーな高揚感に満ちた、聴くだけで笑顔になれる楽曲。
3. Continue
第2弾の象徴的トラック。H ZETTRIOのキレ味鋭いグルーヴに、ループを思わせるサックスがスリリングに絡み合い、ファンキーかつ攻撃的なサウンドを生み出す。特にH ZETT Mのピアノが細やかなリズムの隙間を縫うように畳み掛け、ベースとドラムのタイトなコンビネーションが全体を強烈にドライブ。そこにユッコ・ミラーのサックスが切り裂くような音色で呼応し、進化し続けるアンサンブルの現在地を刻んだ1曲(ユッコ・ミラー作曲)。
4. Alive
タンゴのエッセンスを織り込みながら、内なる情熱を掘り起こすラテンナンバー。序盤はピアノが哀愁を帯びた旋律を丁寧に紡ぎ、ベースとドラムの綿密なリズムセクションが追随する。その上でユッコ・ミラーのサックスが力強く舞い上がり、メロディに熱情と官能を宿す。光と影が交錯するダイナミックな構成が、静かな高揚を呼び覚ます(ユッコ・ミラー作曲)。
5. Terminal 7
反復するピアノとサックスのシーケンスが生み出す中毒性。H ZETT NIREの的確なベースが音の心象風景を広げ、美しく鳴り響く。旅の終わりを思わせる切なさと余韻が胸に残る。