「私達の世代はモーツァルトをより多面的に再現できる」シュトゥットガルトPOとの第1作
2004年に新国立劇場の《ファルスタッフ》(ヴェルディ)で日本にデビューした時のダン・エッティンガーは34歳、まだベルリンのシュターツオーパー・ウンター・デン・リンデンで終身音楽総監督ダニエル・バレンボイムのアシスタントを務めていた。「僕ももう48歳。本当にやりたい仕事だけに絞り、人生を楽しみたい」。妙に神妙だなあと思ったのはインタヴューの間だけ、東京交響楽団第664回定期演奏会(2018年10月20日)の《幻想交響曲》(ベルリオーズ)では強烈なエネルギーの放射、オペラ指揮者の振幅に満ちたドラマトゥルギーで客席を圧倒した。来日と前後して、2015年から首席指揮者(バーデン=ヴュルテンベルク州都シュトゥットガルト市音楽総監督を兼務)の地位にあるシュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団とドイツ〈ヘンスラー〉レーベルの契約第1作、モーツァルトの《2つのト短調交響曲(第25番&40番)》《2台のピアノのためのソナタ ニ長調》を収めたディスクもリリースされた。
シュトゥットガルトには同フィルのほかにテオドール・クルレンツィスが首席指揮者に就いた南西ドイツ放送交響楽団、音楽総監督がシルヴァン・カンブルランからコルネリウス・マイスターに替わったシュトゥットガルト州立歌劇場管弦楽団がコンサートの場合、同一の演奏会場〈リーダーハレ〉でしのぎを削る。エッティンガーは「3シーズンの共同作業を経て『これが私たちの音楽だ』と胸を晴れるまで、レコーディングを控えてきた。レーベルオーナーのギュンター・ヘンスラー氏の全面的なサポートを得て、長期の共同作業に乗り出せたのは幸いだった」と、契約の背景を語る。「あまたあるト短調シンフォニーのディスコグラフィーに新たな1点を加える上で最初に考えたのは、従来のモダン(現代仕様の)楽器だけでなく、ピリオド(作曲当時の仕様の)楽器の奏法も同時に学んだ世代の音楽家の集団として、現代のコンサートホールに最もふさわしいアーティキュレーション、フレージング、サウンドを多面的に再現することだった」
両曲の間には「イスラエルの芸術高校で私の生徒だった」という若手ピアニスト、ハーガイ・ヨーダン自身が企画制作した音源で同じ作曲家の《2台ピアノ・ソナタK.448》を挿入した。「小さな交響曲ともいえるシンフォニックな作品。主音、属和音の関係でもト短調との組み合わせは最良の効果を上げている」と自負する。次のレコーディングには「チャイコフスキーの交響曲全集を考えている」。《マンフレッド交響曲》を含めるか否かは「目下、検討中」だとか。