今年のテーマは《ボヤージュ―旅から生まれた音楽(ものがたり)》。音楽が導くのは、映画のようなストーリー

 今年も5月の連休を彩る〈ラ・フォル・ジュルネ〉の季節が巡ってきた。東京国際フォーラムをメイン会場とし、大手町・丸の内など周辺を含む複数の会場で開催される〈ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019〉。2019年のテーマは「Carnets de voyage ボヤージュ―旅から生まれた音楽(ものがたり)」と題され、5月3日から5日まで約320公演(有料公演は124)が予定され、約42万人の来場が見込まれている。アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタン氏は、毎年さまざまな作品、演奏家を紹介しているが、今年のテーマと内容などついてはこう語っている。

 「19世紀に主としてヨーロッパで活躍した作曲家たちの作品を中心に考え、彼らが旅に出てその地から触発されたり強い印象を受けた作品をプログラムに組んでいます。作曲家はいろんな旅で出合った新たな事柄や人々との交流、さらに景色や歴史的な建造物、絵画や彫刻などの芸術品などを投影した作品を書きました。また、各地の民謡や舞曲を取り入れた作品も多く生まれています。今回の〈ラ・フォル・ジュルネ〉ではそうした異国情緒あふれる作品を聴きながら、あたかも映画を見ているような感覚で聴衆が自分の想像力をふくらませてほしいと願っています。紹介する音楽はとても創造性と物語性に富み、きっとイメージをかきたてられると思います。まるで自分がその地を音楽とともに旅をしているような気分になる、作曲家の思いに共鳴する、そんな気持ちになってほしいですね」

 〈ラ・フォル・ジュルネ〉は3日間のプログラムがあまりにも盛沢山ゆえ、どんなコンサートを選んだらいいかわからないという人のために、マルタン氏が「今年のお薦めはこれ」というものを選んでくれた。

 まず、サン=サーンスの《アルジェリア組曲》とピアノ協奏曲第5番《エジプト風》(プログラム番号#213)、リストの《巡礼の年 第1年スイス》(#136)、《巡礼の年 第2年イタリア》(#155)、チャイコフスキーの弦楽六重奏曲《フィレンツェの思い出》(#332)、ベルリオーズの交響曲《イタリアのハロルド》(#142)、チャイコフスキーの《イタリア奇想曲》(#242)などが、作曲された土地をリアルに映し出す。

 「多くの作曲家が交通の不便な時代に膨大な時間をかけて旅をし、その地で新たなものを吸収し、作品に投影させました。それは文化を吸収し、自分の可能性にもつながった。現代に生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれ、知的欲求を促されると思います」

 同音楽祭は、初参加のアーティストも数多く登場し、新たな魅力を発揮する。今年はチェロのアナスタシア・コベキナ(#156、#247、#316)、ピアノのアレクサンダー・ガジェヴ(#214)とヴァイオリンのディアナ・ティシチェンコ(#141、#316)が輝かしい才能の持ち主。さらにおなじみとなったジャン=クロード・ペヌティエ(#245、#353)、アンヌ・ケフェレック(#113、#237、#255、#356)、フランク・ブラレイ(#241、#315)、ボリス・ベレゾフスキー(#115、#246)、ネルソン・ゲルナー(#114、#216、#254)、アブデル・ラーマン・エル=バシャ(#213、#256、#362)、アレクセイ・ヴォロディン(#121、#253)らピアノの名手も多く、彼らは意欲的な選曲を披露する。

 〈ラ・フォル・ジュルネ〉は、例年オーケストラも各地から個性派がやってくる。今年、マルタン氏が聴き逃せないと語るのは、アレクサンドル・スラドコフスキー指揮タタルスタン国立交響楽団である。

 「タタルスタン響の演奏は、ものすごくエネルギッシュで若々しいんですよ。さらに忘れてはならないのが〈ディーヴァ・オペラ〉。モーツァルトの『後宮からの誘拐』をピアノ伴奏版で演奏します。モーツァルトはまさに旅する音楽家でした。各地で多種多様な刺激を受け、それを天才ならではの手法ですばらしい作品に仕上げています。その醍醐味を味わっていただきたいと思います」

 


ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019
Carnets de voyage
ボヤージュ ― 旅から生まれた音楽(ものがたり)

5/3(金・祝)・4(土・祝)・5(日・祝)
会場:東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町、京橋、銀座、日本橋、日比谷