ひとりのヴォーカリストとして、信じるがままに歌を紡ぐ
Fried Pride解散から2年半、ようやく届いたShihoの初ソロ作『A Vocalist』を聴いて率直に感じるのは、なんて密度が濃いんだろうってこと。早くアルバムを出したいという彼女の強い気持ちが作品全体の熱量を高める結果に繋がったのでは?
「自分としては内容が少し薄いんじゃないか?と思っていたんですけどね。Fried Prideのときは毎回、聴いたら死んじゃうかも!ってぐらいのパワーを出し切っていたから、どの作品もインパクトが強かったけど、今回はひとりでプロデュースしているし、答えが合っているのかどうかわからない状態でレコーディングしていて。とはいえ歌い方が変わるわけじゃないし、普段の自分をありのまま出そうと意識しながら、出来た曲をまるで写真を収めるみたいに並べていったんです。ただ、初めてのアルバムでご一緒したいと考えていた方を全員呼べたことには達成感がありますね」
どの局面においても己の信じるままに歌を紡いでいる彼女が見えてくる。ゆえに曲が進むにつれてShihoの人間性が露わになっていく感覚が得られるのだが、それが〈濃い〉という印象と繋がるのは間違いない。彼女がいう「ジャズとはマインド」という主張は、桑原あいと丁々発止のセッションを繰り広げるライヴ感満点な“スウィングしなけりゃ意味ないね”からも如実に伝わってくるし、伊藤志宏や柴田敏弘などのエモーショナルなピアノ演奏と絡む曲においても、熱や新鮮さを追い求めながら自分の個性を探る、というテーマが色濃く浮かび上がってくる。
「私は特に優れたテクニックを持っているわけじゃないし、けっして良い声でもない。でもジャズの世界にいると個性を出すことってとても大事。かつてジャズ・シンガーはこういうふうに歌うのが正しい、って暗黙のルールがあったと思うんですが、私にはそれができなかった。でも幸運なことに良い方向に働いた。エラ(フィッツジェラルド)やサラ(ヴォーン)のようにやりたくてもできなかったことで逆に自分の個性が引き立たせられて、〈これってShihoだよね?〉ってわかってもらえるようになったんです。それを発見したのはここ何年かのことですけど」
そんな彼女の矜持が全編に轟き渡っているのが『A Vocalist』だが、本作で最も美しい瞬間を形作っているのが、カーラ・ブレイの名曲にSHANTIによる歌詞を乗せた“ローンズ-ロスト・アンド・ファウンド-”だ。カーラ本人から〈自分の子供のようなこの曲に新たな命を吹き込んでくれてありがとう〉という言葉をもらったそうだが、こんな美しい音楽を生み出してくれたShihoに対してただただ感謝の念しかない。
LIVE INFORMATION
Shiho「A Vocalist」Release Live
○6/30(日)会場:京都・NAMホール
○7/1(月)会場:広島・福山 MUSIC FACTORY
○7/2(火)会場:鳥取 JAZZ居酒屋みね
○7/4(木)会場:大阪・梅田 Mister Kellys
○7/5(金)会場:和歌山 OLD TIME
○7/6(土)会場:神戸・STUDIO KIKI
○8/20(火)会場:東京 eplusLIVING ROOM CAFE & DINING
○9/6(金)会場:大阪 バナナホール