亀田マジックで引き出された新境地

 思わず、新譜の資料を手にして目を見開いた。櫻井のソロ・アルバムはこれまですべてがセルフ・プロデュース。それが今回、初めて人の手に委ねられた。しかもその相手たるや、今やJ-POP界で押しも押されぬ名プロデューサー……あの亀田誠治である。

櫻井哲夫 Nothin' but the Bass 電気低音/キング(2015)

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 ふたりの出会いは昨年、それも偶然だった。「某FM局で、会議室にいた亀田さんとガラス越しに目が合ったら飛び出して来て“高校生の頃から大ファンで、同じベースを買ってコピーしてました”と。それで35周年記念ライヴに招待したら来てくださって。後日“何かお手伝いできることは?”と言われたんですけど、プロデュースなんてお願いしていいものか。フィールドも違うし、とにかくご多忙ですし」……とは言え、そこは互いに音楽とベースに人生をかけてきた者同士。とりあえずビジネス的なことは抜きにして、次のアルバムについての語り合いが始まったのだという。

 「前々作、前作でカヴァーが続いていたんで、自分としては、次は全曲書き下ろしでと決めてたんです。ところが亀田さんから“もう一度カヴァーでいきましょう。それもジャズに捕らわれず、沢山の人が知っている曲を”」となり、アルバムはマイケル・ジャクソンの《オフ・ザ・ウォール》やシンディ・ローパーの《タイム・アフター・タイム》、さらにはミスチルの《フェイク》やJUJUの《やさしさで溢れるように》まで、従来の櫻井からは想像もつかない楽曲が目白押し。その上、土屋アンナフライド・プライドShihoフラメンコ・ギタリストの沖仁、ベーシストのネイザン・イーストKenKenがゲスト参加している。

 録音は、まずグローヴァー・ワシントン Jr.がヒットさせた《ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス》から始まった。「これだけは亀田さんのリクエストで、沖仁さんとの共演も彼のアイディア。で、リズムを6/8拍子にして、コードもかなり変えたりと、すごく凝ったアレンジを施して意気揚々とスタジオに行った。ところが“これだと何の曲かわからないです”といきなりダメ出しを喰らって(笑)。“このコード進行だからみんながわかるし、愛されてるんです。僕は、この誰もが知ってるメロディを櫻井さんのベースで聴きたいんです”と言われ、なるほど、と。それで、なるべく原曲のイメージを崩さない方向性になったんです」

 本作で亀田が意図したものは、ベースの技巧云々ではなく、あくまでもメロディをストレートに歌う櫻井の姿である。ふたりがアルバムについて打ち合わせをしているとき、亀田は櫻井に言った。“聴いてる人に櫻井さんのベースの息づかいを感じてもらいましょう!”……この言葉に本作の魅力が集約されている。

 

LIVE INFORMATION

~櫻井哲夫 New CD『Nothin’ but the Bass』発売ソロライブ~
○7/1(水)大分 BRICK BLOCK
○7/2(木)博多 music bar S.O.Ra. Fukuoka
○7/4(土)佐賀 Live House GEILS
○7/5(日)下関 RED LINE.....
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