DSDレコーディングが名手たちの熱量をMAXに引き出した、ジャンルを超えた傑作
「中学生の時、レッド・ツェッペリンが初来日して、田舎の福岡から大阪まで観に行ったんです。当然、ジミー・ペイジが目当てだったんだけど、実際にステージを目の当たりにしたらジョン・ボーナムの迫力に圧倒されちゃって。何て言えばいいんだろう、そこにはジャンルなんて軽々と超える“自由”があったというか」
インタヴューの中でふと出てきたギタリスト・吉田次郎の若き日の思い出。実はこんなところに彼の音楽性のエッセンスが凝縮されているのでは、と思う。彼の新作『レッド・ライン』は、まさにジャンルを超える自由とスリルがこれでもかと詰まった傑作だ。《フットプリンツ》や《グッドバイ・ポークパイ・ハット》などジャズ・ファンに馴染みの深い楽曲から《チェンジ・ザ・ワールド》、《スモーク・オン・ザ・ウォーター》といったロック・クラシックスまで、どんな楽曲も色彩にあふれた驚きのアレンジで料理してみせる。タイトルトラックの《レッド・ライン》は「どんなコードを入れても格好いい響きが得られる独自の理論でラインを作りました。ジャズ・ロック風だけどショスタコーヴィチやストラヴィンスキーの影響も入ってるんですよ」という意欲作だ。
そして何より圧巻なのは、メンバー全員の演奏からほとばしる熱量だ。変幻自在のヴォーカルを披露するマーロン・サンダース、当意即妙のヴァーナー・ギリッグ(p)とカール・カーター(b)に加え、今回大抜擢された川口千里(d)はベテラン勢に囲まれて伸び伸びしたプレイを聴かせている。
もちろん吉田も絶好調だ。エレキギターを持てばその辺のロック・ギタリストなど軽く吹き飛んでしまう超絶テクでグイグイ押し込み、逆にアコギやクラシックギターではまるで音から情景が浮かび上がってくるような、抒情的で絵画のような世界を構築している。まるで縦横無尽という言葉は彼のギターのためにあるかのようだ。
さて、そんな彼らのエネルギーがリアルに迫ってくるのは、DSDレコーディングによるところが大きい。この方式では後から編集することができず、つまりは一発録りなのだ。
「編集ができないから、最初はとてつもない緊張感がメンバーたちの間に生まれます。ともすれば守りの姿勢に入っちゃうんだけど、演奏しているうちに“相手がこうきたから、こう返してやろう”みたいな、ライブの中でしか生まれない好奇心のほうが結果的には勝るんですよね。そしてスリリングな演奏になるんです。最高の仲間たちと、最高の機器で録った最高の音。ぜひ、大きな音で聴いてください」