やさぐれ感がユニークな個性となって魅了する注目のシンガーがデビュー!

 いやはや、彼女を令和の西田佐知子と呼んでいいんじゃないか? 福岡在住の若きシンガー、SHIGのデビュー作『SHIG sings Jazzy Things』を聴いて痛切にそう思った。ジャズやポップスなど雑多な音楽によって養われた素地を活かして表現した昭和歌謡の数々は、やけにクールかつ骨太な印象がある。何より歌声が纏うやさぐれた気配が好ましい。そんなユニークな個性を、プロデューサーの吉田次郎も称賛する。

SHIG 『SHIG sings Jazzy Things』 ソニー(2020)

 「まずね、リズ・ライトのイメージとリンクしたんですよ。僕は個人的に声を張り上げてオーバーな表現で伝えようとする歌手があまり好きじゃないんだけど、彼女の感情を抑えつつクールに表現できるところ、優等生っぽくないところがなかなかいいと思った。60年代の歌謡曲を歌っても古臭くないし、泥臭さも感じない。こんな人いまどきいないと思う」(吉田)

 モノクロな色合いの低音ヴォイスが厭世観すら漂わせる都はるみの“涙の連絡船”とか、実に魅力的なブルースだ。そんな歌唱に対する自身の評価は?

 「張るのに向いた声ではないんです。好きになるシンガーって空気とイイ馴染み方をする歌い方をしている人ばかりで、例えばアデルの歌い方とか魅かれますね。高いキーも出るけど、自分が気持ちいいと思える声じゃないと歌いたくない。私のそんなこだわりを今回次郎さんが汲んでくれたことが嬉しかった」(SHIG)

 「いかに技術があるかをアピールするなんて意味のないことで、そこにおとし穴があると思っている。歌声がいちばんきれいに聴こえるレンジを聴かせどころに持ってくるのが大切なんです。地声とファルセットの間の領域を僕はシャドウラインと呼んでいるけど、彼女はそこがうまくコントロールできる子だなと。それを活かそうとキーを決めましたね」(吉田)

 吉田がめざしたのはリズ・ライトやミシェル・ンデゲオチェロの作品にみられるジャズやソウルやロックなどの要素が混じり合うオーガニックな音空間を創造することで、ブルーノ・マーズ的アレンジを施してみたという “朝日のごとくさわやかに”(オーレ・マティーセンの破天荒なサックス、吉田のつんのめり気味のギターが最高!)をはじめ、当代髄一の腕っこきたちによる色彩豊かな演奏がSHIGの歌声に魅惑的な光を宿している。密こそすべて。音の佇まいがそんな大切なメッセージを語りかけている点も見逃せない。

 「今回歌うことに対して自然体のままでいい、ってことを教えてもらった気がします。私自身古い音楽にリスペクトを抱いていて、歌詞の言葉の選び方などすごいと思っているんですが、そこがアルバムを聴いてくれた若い人にも浸透すれば嬉しいです」(SHIG)