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ポスト・ロックの拠点、日本で愛されている理由

また、スコットはもともとグラフィック・デザイナーで、アルバムのアートワークをみずから手掛けてもいるように、音楽をアートとして捉える目線を持っている人物。日本においても、toeの山嵜廣和、downyの青木ロビン、Spangle call Lilli lineの藤枝憲らがデザイナーとして知られているように、音楽に対するデザイン的な感性はポスト・ロック/エレクトロニカの背景として大きく、それが緻密な作り込みを好む日本人の感性にフィットしたからこそ、2000年前後の一大ブームが起きたという側面はあったはず。

よって、ティコが日本のオーディエンスにも歓迎されたのは、当然の流れだったように思える。2013年の〈TAICO CLUB〉を契機に、2015~2017年には3年連続で来日。ベース/ギターのザック・ブラウン、ナイトムーヴスとしての活動でも知られるドラムのローリー・オコナー、さらにはツアー・メンバーであるビリー・キムも加えたバンド編成の演奏は非常に肉体的で、映像も交えたステージのサイケデリックな高揚感は〈トランシー〉と形容できるものであった。

〈TAICOCLUB'16〉でのライヴ映像。2011年作『Dive』収録曲“Daydream”

いち早くダンス・ミュージックを生演奏することで、BOREDOMSやROVOが日本におけるポスト・ロックの先駆け的な立ち位置となり、その遺伝子がD.A.N.のような若手へと受け継がれ、BOREDOMSはバトルスをはじめ世界にも影響を与えたことを思えば、ティコはそんな日本の土壌にハマったのだとも言える。いまも渋谷のTSUTAYAには〈ポスト・ロック〉のコーナーが存在し、現代における有効性にはさまざまな声があるとは思うが、ティコがそのコーナーに並んでいることはしっくりくる。

 

前進への明確なヴィジョンを示した新作『Weather』

ニンジャ・チューンへの移籍を経て、『Epoch』から2年半ぶりに発表される新作『Weather』は、これまでとは趣を異にする作品となった。アルバムの8曲中5曲にシンガーを迎え、ヴォーカル・アルバムとなっているのだ。4月に公開された“Easy”は、前作に収録されていた“Division”の流れを汲むトリッキーな拍子のイントロダクションに続き、強烈なビートが入ってくるティコらしい幕開けながら、途中で4つ打ちに変わり、生ギターとともにサンプル的にヴォーカルが挿入されることが、作品全体の予兆となっている。

『Weather』収録曲“Easy”

スコットは“Easy”について、〈過去と折り合いをつけることと、前進するという明確なヴィジョンが描かれている〉〈未来に繋がる架け橋〉と語っているが、つまりそれは〈インストから歌ものへの転換〉ということ。実際2曲目の“Pink & Blue”では、アルバム全体でヴォーカルを務めるセイント・シナーことハンナ・コットレルのややウィスパー寄りなヴォーカルを全面的にフィーチャー。3部作を完結させ、グラミー賞ノミネートという結果を手にし、このタイミングで新たな一歩を踏み出すというのは、必然の展開だと考えられる。

『Weather』収録曲“Pink & Blue”